PROFILE: 八木隆夫 ヤギ社長

繊維商社のヤギは3月、東京本社を港区の赤坂トラストタワーへ移した。東京・日本橋の自社ビルを離れ、東京・赤坂の最新のオフィスビルにグループ会社のウィーバ(WEAVA)とシームレスかつワンフロアに集約した。移転と同じタイミングでコーポレートアイデンティティ(CI)を見直し、経営理念も「ビジネス・トゥ・ビリーフ(Business to Belief)」へと刷新した。空間とCI、理念の3つを一新し、異なるカルチャーを意図的に混ぜ合わせて次の成長を引き出す。社長就任から10年、第二創業期に入った八木隆夫社長が目指す先とは?
グループを1つのフロアに
空間を変えることで生まれるケミストリー
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WWD:今回のオフィス移転は、CIの見直しや経営理念の刷新と同時に進めている。まず、その全体像から聞きたい。
八木:社長になって10年、ブランド事業やリテール事業が育ち、会社の形が変わってきた。そこで、この節目を第二創業期と位置づけ、コーポレートアイデンティティを見直し、経営理念を「ビジネス・トゥ・ビリーフ」へと改めた。創業以来の精神を受け継ぎながら、社員一人ひとりが自分の信じる仕事に打ち込めるようにする。その考え方を空間の面から後押しするのが、今回のオフィスだ。
WWD:東京本社を自社ビルから東京・赤坂の最新のインテリジェントビルに移転し、グループ会社のウィーバと同じワンフロアに集約した。狙いは何か。
八木:ワンフロアにはこだわった。座席も、会社ではなく機能で束ねている。グループの管理系は管理系同士、営業系は営業系同士を隣り合わせにした。ウィーバの管理本部とヤギの管理本部が隣にあり、両社の人事部もすぐ近くにいる。そうすれば、連携が生まれやすくなる。
WWD:「空間・時間・人間」を戦略的にミックスした、と?
八木:その通りだ。人と人の距離、時間の距離、空間の距離を、どんどん改善していきたい。空間はこのオフィス。空間を変えれば、人と人の距離も近くなる。時間はM&Aや働き方改革。この3つの「間」を、ふさわしい形に詰めていく。
WWD:構想はいつから?
八木:社長に就任した10年前から考えていた。その間に子会社が増え、成長してきた。ヤギ単体でやってきた社風改革を、次はグループ全体でどうやるか。そこで見えてきたのが、ワンフロアに並べるという考え方だった。良いことも悪いことも起きるだろうが、物理的に集めれば、組織は必ず動く。
新たな空間が生み出す
「自律・越境型人材」
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WWD:ESG戦略で長時間労働の是正や若手の働きがい向上を掲げる。現場ではどう変わったか。
八木:オフィス機能が充実したことで内定の決定率が上がるなど、分かりやすい成果も出てきた。一方で休職や退職した社員の復帰のハードルを下げる施策も行ってきた。ライフステージの変化で退職してしまった女性社員を想定し、アルムナイ制度を充実させたが、男性の中堅営業マンが1年以内にまた戻ってきた例もある。外の世界を知ったものの、やっぱりヤギがいいと。そうなると以前以上に熱心に働いてくれる。
WWD:「シームレスな1フロア」は、どのようなビジネスのシナジーを生み出せそうか?
八木:ビジネスを混ぜ合わせること自体が目的ではない。カルチャーをミックスし、異なる部門の人間同士が交流することで発生する化学反応を意識している。きっかけは「あのシマの人たちはずいぶん自分たちとファッションが違うけど何をやっているんだろう?」みたいなことでいい。同じフロアにいれば、ふとしたことで会話をすることもあるだろう。これまで商社はどうしても部門ごとの縦割り意識が強かった。自然なきっかけから、部門もビジネスもまたいだ発想が生まれてくれば面白い。特にこれまでのやり方や考え方に染まりきっていない若手への刺激になればいいと思っている。
WWD:今、求めている人材像は?
八木:今年からスタートした3カ年の中期経営計画でも掲げているが、求めているのは自律型&越境型の人材だ。指示待ちではなく、自分で仕事の意味を見つけ、自分で動き、次の一手を考える。あるいは自分の領域だけに閉じこもらず、新しい種を見つけたら、部門にこだわらずビジネスにする。実際、ここ最近の当社の勝ちパターンは、部門をまたいだ人間が見つけてきた。ブランド事業の主力子会社である「タトラス」を展開するウィーバもそうだった。担当者それぞれが、1つの会社を背負うつもりで領域を広げてくれれば、それでいい。
キャリア採用を強化
高度化する事業へ対応
WWD:中途・キャリア採用を戦略的に増やしている。なぜか。
八木:ビジネスが高度化し、複雑になってきた。社内で積み上げてきた知見に加えて、外部の専門性を掛け合わせないと担いきれない領域が増えている。組織そのものも大きく変えており、それに合わせてキャリア採用を増やしている。
WWD:採用と人材育成の考え方も変わってきた?
八木:かつては、新入社員はまず営業を経験し、その後に適性に応じて人事や経理へ配置していく形が中心だった。ただ、専門性が求められる領域は、その分野を経験してきた人材が担う方が力を発揮しやすい。外部人材を迎えることへの社内の抵抗も、今はほとんどなくなった。
WWD:新入社員の採用方針は。
八木:新卒採用は増やしていきたい。若い感性を、もっと組織に取り込みたいからだ。今の年代構成のままだと、10年後には社員数が現在の4分の3程度まで縮むという試算もある。事業の推進力を保つには、今から計画的に人材を採用し、育てていく必要がある。
WWD:次世代の経営人材の育成も視野に入れている。
八木:グループ各社の経営は、経験豊富なベテランが支えている。一方で、その次を担う世代の育成が課題だ。過去に採用を絞った時期があり、その層の薄さがボディーブローのように効いている。求めているのは、数字をつくる力に加えて、PLを読み、財務や人事まで見渡せる人材。いわば経営の「トップ下」だ。30代・40代のうちから経営に関わり、いずれ社長を任せられる人材を育てたい。
沿革:1893年(明治26年)創業。1865年生まれの八木與三郎が大阪で創業した八木商店がルーツ。戦前に「関西五綿・船場八社」と言われた名門繊維商社のうち、唯一現存する
本社所在地:大阪府大阪市中央区久太郎町2-2-8・東京都港区赤坂2-17-22赤坂トラストタワー23階
従業員数:連結799人(2026年3月末現在)
業績:売上高859億円、経常利益48億円(2026年3月期)
事業比率:マテリアル28%/ライフスタイル5.6%/アパレル50.3%/ブランド・リテール15.1%(2026年3月期)
グループ会社:WEAVA(旧タトラスインターナショナル・旧アタッチメント)、日本パフ、イチメン、山弥織物、ツバメタオル、ヴィオレッタなど
ヤギ
03-3667-4151