
コロナが落ち着き、百貨店がにぎわいを取り戻した。外出制限がなくなり、ファッション関連の消費が増えつつあり、ファッションジュエリーにもその影響が見られる。コロナ前から、国内のジュエラー中心のファッションジュエリーは苦戦していた。コロナでさらに落ち込んだ商況が、若年層の来店増とインバウンド消費の復調で回復しつつある。主要百貨店5社に、1〜6月のファッションジュエリーの商況や売れ筋、コロナ前後の消費動向の変化などについて聞いた。(この記事は「WWDJAPAN」2023年8月21日号からの抜粋です)
伊勢丹新宿本店
主流はベーシック、
コロナ禍より大ぶりのものが好調
伊勢丹新宿本店の売り場の1〜6月は、前年同期比2ケタ増だった。三越伊勢丹の新宿宝飾時計・雑貨商品部装身具の山崎奈々恵バイヤーは、「コロナ禍では、消費者の関心がラグジュアリーに向いていたが、外出が増え、着飾りたいという気持ちが高まっている」と述べる。好調ブランドは、「ヴァンドーム青山(VENDOME AOYAMA)」や「スタージュエリー(STAR JEWELRY)」「アガット(AGETE)」などで、ベーシックなネックレスが好調。デザイナー系では、「マリハ(MARIHA)」や「シンカイ(SHINKAI)」が人気で、色石のリングが好調だ。マスク着用が個人の判断になり、ピアスやイヤーカフも動きが良く、揺れるタイプやフープが人気。コロナ禍より大ぶりのものがよく動くという。山崎バイヤーは、「デザインはシンプルで、レイヤードの提案が多い」と話す。「ベーシックジュエリーのデザイン性がアップしている。素材は18金とダイヤモンドが主流だが、色石への関心も高い」。売れ筋の価格帯はベーシックなもので5万円前後、石使いやデザイン性の高いもので7万〜10万円程度。コロナ前後の動向については、「需要が多様化しており、よりブランドの世界観が大切になった」。
松屋銀座本店
若年層の買い回りと
インバウンド復調で伸長
日本人客による売り上げが好調なのに加え、インバウンド客の戻りが見られ活況なのは、松屋銀座本店だ。売り場全体で同50〜60%増と好調。ブランドによるが、インバウンドの割合が40〜50%を占めるところもある。松屋ショップMD部MD一課の千田暖実バイヤーは、「中国や韓国が多かったインバウンド客が多国籍化している」と話す。昨年8月の改装により、ファッションジュエリーの売り場がコスメの間に位置するようになり、若年層の買い回りが見られる。「20〜30代の来店が増えた」と同バイヤー。自社で展開する「エネイ(ENEY)」のほか、「アガット」は共に同60%増、「ポンテヴェキオ(PONTE VECCHIO)」や「スタージュエリー」は共に同50%増。売れ筋は、ダイヤモンドやチェーンのネックレス、華奢なリングで、ピアスやイヤーカフも動きが良い。千田バイヤーは、「シンプルなデザインが人気で、素材は、ダイヤモンドと地金が中心。金が高騰しており、ボリューム感はダウンしている印象だ」と話す。売れ筋の中心価格帯は10金を使用した2万〜5万円で、重ね付け提案による複数買いもある。
高島屋新宿店
ジェンダーレスな
デザインや色石で個性をアピール
高島屋新宿店は、コロナで縮小した売り上げが回復し、売り場全体で同20%増だった。高島屋新宿店販売第1部婦人雑貨ストアマーチャンダイザーの森田有太次長は、「20〜30代の客層が増えた。外出が増えて自分らしさを表現したいという欲求が高まっている」と話す。伸長率トップの「エル・エー・エイチ(L.A.H.)」は同130%増。シルバー中心で男女問わず着用できるスタイリッシュなデザインが特徴。誕生石のネックレスなどが人気の「ヴイエー ヴァンドーム青山(VA VENDOME AOYAMA)」は同50%増、色石のリングが好調の「パーセル ジュエリー(PARCELLE JEWELRY)」は同20%増だった。インバウンドに人気は「アガット」で、ネックレスやリングが好調だ。森田次長は、「ベーシックなデザインが人気。一方で、個性がある色石の需要もある」と言う。素材は10金やシルバーが中心で、売れ筋の中心価格帯は、3万6000円程度と前年よりアップした。「消費が多様化し、デザインやストーリーがより重要になっている」。
西武池袋本店
ファッションかご褒美
需要で価格帯が二極化
ゴールデンウイークの中の不調により、1〜6月の売り上げが前年並みだった西武池袋本店。そごう・西武リーシング本部リーシング一部の鈴木めぐみファッション担当は、「コロナが落ち着き、価格帯の二極化が見られる。低価格帯も好調だが、自分へのご褒美で高価格帯を購入する層が増えた」と話す。好調ブランドは、「ヴァンドーム青山」「4℃(ヨンドシー)」「アガット」などだ。18金やプラチナにダイヤモンドを施したベーシックなネックレスやボリュームチェーン、フープイヤリングなどのシンプルなものが好調。また、色石を用いたピアスや重ね付けを楽しむリングも人気だ。鈴木担当は、「売れ筋の価格帯は5万〜10万円。ダイヤモンドや色石を使用したものは15万〜20万円が動く」と話す。若い層やインバウンドに人気なのが「キュイキュイ(cui-cui)」で10金中心のポップなデザインの2万円台のリングやネックレスが売れているという。「18金などの地金アイテムが好調。クオーツなどのナチュラルな石も人気だ」。
阪急うめだ本店
インバウンド消費は
指名買いから多様化に
阪急うめだ本店のファッションジュエリーも好調だ。「アヤミ ジュエリー(AYAMI JEWELRY)」は同68%増、「マリハ」は同64%増、「ジュエッテ(JOUETE)」は同41%増、「アガット」は同38%増。売れ筋アイテムはネックレスやピアスだ。ジェンダーレスなデザインやパールを用いたものが人気。阪急阪神百貨店 阪急うめだ本店婦人服飾品営業統括部の春花温子アクセサリー・シーズン雑貨営業部バイヤー アニバーサリー・ブライダル担当は、「20〜30代では2つの消費動向が見られる。トレンド性の高いものが好調な一方で、高額でも気に入ったものや一点もののジュエリーを選ぶケースも見られる」と話す。インバウンドも好調で、売り上げシェアの2割を占める。「日本ならではのデザインやハンドクラフト感のあるものの人気が高まっており、訪日客のニーズの多様化が見られる」と春花バイヤー。中国から団体客の来日がまだないせいか、特定の指名買いアイテムは見られないようだ。
編集後記
コロナを経て、消費者のおしゃれを楽しみたい、自分らしさを出したいという欲求から、ファッションジュエリーの需要が高まっている。コロナ禍、百貨店に若年層が来店するようになったのも好調の一因。手に取りやすい価格帯でファッションを楽しむ、または、コロナにより“より長く使えるものを”という消費心理の変化から、売れ筋価格の二極化が見られる。デザインはベーシックが主流。重ね付けもトレンドで、それが複数購入につながり、客単価がアップしている。選ぶ楽しみのある色石や大ぶりのジュエリーで個性をアピールする動きも広がっている。