
ネット通販やライブコマース、スマホ決済、ゲームなど、次々と世界最先端のテクノロジーやサービスが生まれている中国。その最新コマース事情を、ファッション&ビューティと小売りの視点で中国専門ジャーナリストの高口康太さんが分かりやすくお届けします。今回のテーマは「AIで激変する中国仕入れ事情」です。AI先進国の中国では、あらゆるサービスやハードウエアに生成AIが搭載される「AI革命」の真っ盛り。巨人アリババが成長の足がかりとした「中国仕入れ」ビジネスも、激変の最中です。AIエージェントが導入された最新の「中国仕入れ事情」をリポートします。(この記事は「WWDJAPAN」2026年21月16日号の転載です)
この数年は若干減少気味だが、中国はいまなお世界の多くの国・地域にとって最大の輸入元である。日本企業も大手ブランドから中小企業まで、メード・イン・チャイナ」製品を多数販売している。フリマサイトの個人事業も「中国仕入れ」が多い。その一方で日中対立や円安、そしてTikTok Shopなど中国系プラットフォームの台頭など、業界を取り巻く状況は激変。【令和最新版】の中国仕入れについて、中国輸入代行サービス大手「タオタロウ」を経営するゴールドバッハの和田太郎社長に聞いた。
PROFILE: 和田太郎/ゴールドバッハ代表取締役

――「中国仕入れ」とは?
中小事業者や個人が行う中国からの輸入、中国工場での委託生産を指す。当社の顧客は楽天市場やアマゾンに出店しているネットショップが中心だ。売り上げ月数万円の副業レベルから、月商数億円を超える事業者まで幅広い。タオタロウは輸入代行サービス。中国最大の商品市場がある浙江省義烏市に拠点を持ち、中国の卸売りモールからの仕入れ、工場との交渉、検品、日本への配送などを請け負っている。
――日中関係悪化の影響は?
1月初頭のデュアルユース(軍民両用)物品・サービスの対日輸出規制強化は影響が出ている。中国商務部は民間貿易には影響がないと言っているが、何が軍用品に当たるのかの明確なガイドラインがなく、問い合わせ先もない。「迷彩柄のシャツもダメ」「磁石付き裁縫セットはダメ。レアアース磁石でなくても、磁石という単語が商品名に入っているものもダメ」と、中国物流企業は言っている。直接、税関と交渉している彼らの言葉を信じるしかないが、笑い話のような状況だ。規制強化の通達が始まって間もないため、誰もが手探りだ。当社は素材を扱うことはほぼないので影響は少ないが、メーカーや商社には影響が出ているのではないか。旧正月休みが明けた3月には影響が表面化する可能性が高い。
――では「中国仕入れ」も減速か?
サバイバルゲーム専門ショップなど規制が直撃している事業者は大きな痛手を受けただろうが、全体で見れば落ち込みはない。コロナ禍でネットショッピング需要が急伸していた時期と比べると、成長率は落ちたが安定している。
日中関係の悪化以上に気がかりだったのは、中国の事業者が直接日本市場で販売するトレンドが広がっている点だ。アマゾンや楽天の中華セラーに加え、TikTok ShopやTemuなどの中国系プラットフォームの進出もある。同じ中国工場から仕入れているため、「中国仕入れ」事業者とは競合関係になると見ていたが、現時点では食い合いは起きていない。
――中国系プラットフォームの状況は?
TikTok Shopは苦戦しているようだ。特に日本セラーの参入が遅れている。ショート動画やライブ配信での販売は、ネットモールでの販売ノウハウとは異なる。新たな販売手法を教える指導者が不足していることが原因とみている。また、運営企業も広告売り上げが好調なだけに、ネット販売事業への注力が不足しているようにも感じる。一方、Temuは好調だ。ニールセン・デジタルによると、2025年の平均月間利用者数は5721万人で8位。PayPayやX(旧称ツイッター)を上回っている。利用者数だけなら国内EC3位のヤフーショッピングに肉薄している。Temuは昨年、日本セラーの参入も解禁した。「中国仕入れ」事業者にとってもチャンスがあるプラットフォームだ。
ただ、独特の形態を理解することは必要となる。一般的なネットモールでは、セラーが商品価格を設定し、プラットフォーム内広告を出稿して集客する。Temuは価格設定やサイト内でのレコメンドはプラットフォーム任せ。一般的なモールではセラーが担当する仕事も、プラットフォームが担当している。セラーは商品情報と卸値を入力すれば、後はお任せすることになる。動画作成やインフルエンサーへの広告依頼が不要な点ではTikTok Shopより始めるハードルは低い。ともあれ、TikTok ShopやTemuという新たなプラットフォームの参入は、日本の「中国仕入れ」事業者の危機ではなく、今後急成長する新天地の登場という意味でポジティブに考えられる。
――AI翻訳で、中国仕入れの言語的ハードルも下がった。
AIの活用は翻訳にとどまらない。EC(電子商取引)先進国の中国では続々と便利なAIツールが誕生している。例えば遨虾(アオシャー)だ。文章を入力すると、AIエージェントがマーケットリサーチから仕入れ先の選択、さらには商品画像の作成まで行ってくれる。現在は中国語サイトしかないが、対話自体は日本語でも可能だ。現在、アリババグループに対し、同社が日本で展開するビジネスチャット「DingTalk(ディントーク)」に搭載、タオタロウのシステムとも統合する形で日本向けに提供できないか、話し合っている。遨虾に限らず、中国では実用的なAIエージェントが多く、中国EC業界では活用が進んでいる。その波は間違いなく日本にも到来するだろう。
【コラム】仕入れAIエージェント「遨虾(アオシャー)」を使ってみた
和田社長オススメの「遨虾(アオシャー)」は現在、無料公開。試しに使ってみた。まず、趣味の筋トレ関連で売れそうな商品を探す。スクワットシューズなんかいいのではないか。筋トレにハマると欲しくなるが、高額商品しか売っていない。安価な商品があれば売れそうな気がする。
しかし、AIは「日本のアマゾンには低価格スクワットシューズの市場は存在しない。大手メーカーが寡占。やめておけ」とピシャリ(写真)。代わりに「かかとなしスニーカー」を薦められた。似たような商品に素足感覚でウォーキングできるベアフットシューズがあるが、こちらは中国セラーのシェアが6割を超えるレッドオーシャンだという。室内で軽い運動をする用途のかかとなしスニーカーは小規模セラーの乱戦で、強いブランドがいない。ここにより安く、機能性を打ち出した商品を投入すれば勝ち目があると力強い助言をいただいた。ただ、すでに中国セラーが数多く参入しているので、安い商品を投入すれば相手も追随して値下げしてくることは覚悟しとけというアドバイスも。
関連するアマゾンジャパンの商品ページが多数表示されたので、一番良さそうな商品の写真をAIに貼り付け、工場探しを依頼する。すぐに一覧が表示されるが、実際に製造している工場には「源頭工場(オリジナル)」のバッジがついているので分かりやすい。ほかから仕入れている転売工場に引っかからないで済む。
ここまでほんの5分程度で、日本語しか使っていない。衝撃的だ。今後、AIが「中国仕入れ」や日本のネットショップの世界を大きく変える予感を覚えた。
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