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「アマゾン ゴー」の8年間で失われたアマゾンのOMO覇権【小島健輔リポート】

ファッション業界のご意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。米アマゾンがコンビニ型のレジなし店舗「アマゾン ゴー」の撤退を発表した。店舗に入って商品を手に取ってそのままレジを通らずに店を出ると、自動的に決済が完了する。デジタルを活用した新しい小売店舗として2018年に鳴物入りで始まった取り組みだが、技術投資に対して収益効果があまりにも小さかった。小島氏が行き詰まりの本質に迫る。

米アマゾン(AMAZON)は1月27日、レジレスコンビニ「アマゾン ゴー(AMAZON GO)」とレジレス食品スーパー「アマゾン フレッシュ(AMAZON FRESH)」の全店を閉鎖すると発表した。オンライン食料品配達とグルメ食品スーパーの「ホールフーズマーケット(WHOLE FOODS MARKET)」への成長投資を優先して顧客基盤拡大を図り、今後数年間で100店舗以上のホールフーズマーケットを新規出店すると説明しているが、「ジャスト・ウォーク・アウト(Just Walk Out)」とうたって世界的な注目を集めたAI装備のレジレス決済システムはSF的実験に終わったのだろうか…。

「アマゾン ゴー」は無用のSF的実験に終わった

18年1月にシアトルで初公開されたレジレスコンビニのアマゾン ゴーは世界的な注目を集め、中国を中心に雨後の筍のように類似業態が続出したが、その重装備なギミックは当初から採算性も運営効率も疑問視されていた。アマゾン ゴーは初公開から5年を経て23年3月で29店舗まで増えていたが(システム外販店舗を含めれば90店舗超と推計)、アマゾンは23年3月3日、うち8店舗を閉鎖すると発表し、早くも壁に当たったという見方が広がった。

アマゾンアカウントをQRコード認証するかクレジットカードを登録して入店すれば、AIカメラが客の行動を画像解析して(棚の重量センサーなども補足)購入商品を特定し、レジレスで商品を持って出られるというジャスト・ウォーク・アウトは確かに画期的だったが、ハリネズミのごとく多数のカメラと各種のセンサーを要して設備投資と演算負荷が大きく(レシートがスマホに届くのはチェックアウトから数分後)、実用精度に達したかも定かでなかった。搬入陳列・補充管理などマテハンはもちろん、チェックインの案内と監視(酒類購入の年齢確認に加えてリモート監視にも人員を要する)も必要で、同サイズのコンビニの倍以上もスタッフを張り付けなければならず、品ぞろえの魅力も欠くことから(米国コンビニの商品密度は日本の半分以下でアマゾン ゴーはさらに低かった)、小売店舗としての採算性は到底、望むべくもなかった。

20年9月に1号店が開設されたグロサリーストア(食料品特化のスーパー)の「アマゾン フレッシュ」では、アカウント登録してカート投入商品をバーコードと画像で読み取る「ダッシュカート(Dash Cart)」(トライアルなどでも見られるスマートカート)が導入されたが、バーコードや画像で特定し難い裸陳列の生鮮食品は顧客によるシリアルナンバーの手入力と計量に依存していたし、棚の重量センサーが効かない軽量商品は品揃えから外されていた。

アマゾン ゴーに触発されて類似したレジレスコンビニが雨後の筍のように増殖した中国ではほとんどが短期で行き詰まり、本家のアマゾン ゴーも精度が期待値に届かず採算性も見えないまま8年を経ても実用段階に至らず、26年1月27日の撤退発表に至った。すでに15店舗まで減っていたアマゾン ゴーも57店舗まで拡大していたアマゾン フレッシュも全て閉店する。今後はSF的なハイテクにこだわらず「小売業態」としての魅力と運営効率を追求し、ホールフーズマーケットの多店化とウォルマートに対抗する「スーパ―センター」の開発に集中し、「ジャスト ウォーク アウト」は顧客を特定できる企業内や病院内、ホテル内などのキオスク向けのシステム外販に収斂していくと見られる。

レジレスは店舗販売における決済の効率化という「部分最適」の一手段であって、店舗小売業の利便性や運営効率という「全体最適」に比べれば極めて限定的な役割にすぎない。ましてやアマゾンが直面するウォルマートという巨人とのOMO※1.利便競争においては何の役にも立たない「戦力外技術」だった。

アマゾンは成算のないハイテク空中戦への固執からようやく解き放たれ、遅ればせながらウォルマートという圧倒的強者に真っ向から立ち向かうフィジカル白兵戦を決意したが、失った時間はあまりに長かった。アマゾンがSFチックなハイテク実験に費やした8年間に、ECで後発だったウォルマートは店舗物流と宅配物流を組み合わせてBOPIS2.や生鮮食品宅配など地域顧客への圧倒的なOMO利便を確立し、マーケットプレイスを拡充してブランド商品のラインナップも広げ、百貨店顧客まで取り込んだ。失われた8年間でアマゾンはウォルマートのOMO覇権確立を許してしまったのだ。

1.BOPIS…Buy Online Pick-up In Storeの略称で、ECで発注して店舗で受け取るショッピングスタイル。Curbside pickup(駐車場受け取り)もその一種

2.OMO(Online Merges with Offline)…ネットと店舗の垣根を超えた連携を意味し、ショールーミング(店舗からネット)による情報取得で店舗やネットの購入を促進したり、ウェブルーミング(ネットから店舗)による店取り置きや店渡し(BOPIS)、店出荷で顧客利便と在庫効率を高め物流コストを抑制するリテール戦略

「アマゾン スタイル」もとっくに消えた

アマゾン ゴーに比べれば小さな実験だったが、アマゾンのOMOの迷走を露呈したもう一つの大失策がEC衣料品のお試し利便を狙ったショールーミングストア「アマゾン スタイル(AMAZON STYLE))」だった。

アマゾン スタイルは22年5月にロサンゼルス北部のグレンデール・ギャレリアに登場し、22年10月にオハイオ州コロンバスのイーストン・タウンセンターに2号店が開設されたアパレルのショールーミングストアだが、先行した「ザラ(ZARA)」や「ジーユー(GU)」のショールーミングストアと同じく短期の実験に終わった。

アマゾン スタイルはオンライン販売のアパレル商品を顧客が手に取って試着できるショールーミングストアで、1200平方メートルと広い陳列空間にかなりのバラエティーを見せることができたが、試着サンプルのピッキングと戻しのバックヤードシステムの運用負荷が大きく法外な運営人時量を要し、端から継続は難しかった。1号店(2790平方メートル)も2号店(2604平方メートル)も「ザラ」の実験店と同様なワンサイズ・ワンカラーのサンプル陳列で、ハンガーに貼り付けられたQRコードを専用アプリのカメラ機能でスキャンしてサンプルの色・サイズを指定し、試着希望のアイコンを押すとバックヤードのピッキングシステムが稼働する仕組みだった。試着サンプルが用意される間、性別や身長、体重、スタイリングの好みなど幾つかの質問に答えると、試着室のサイネージにレコメンドのルックが表示され、それを試着室に届けてもらって試着することもできた。

試着サンプルがピッキングされて試着室に用意されるとアプリに試着室ナンバー(1号店は40室、2号店は36室)の案内がきて、そのアイコンが試着室を解錠するキーになっていた。

「ザラ」のショールーミングストアではSKU各1在庫で販売用の在庫を積まず、オンライン購入しかできなかったが、アマゾン スタイルでは購入商品を持ち帰ることもできたから、売れ行きに相応した在庫を積んでいたはずだ。オンライン注文品を受け取ったり(BOPIS)返品したりの拠点ともなっており、それは「アルゴス(ARGOS)」3.のショールーミングストアとも共通していた(「アルゴス」では在庫を積む母店と受け取り・返品だけのサテライト店があり、都合の良い店舗を選べる)。

商品のタグでなくハンガーにQRコードが貼り付けられていたから、「ザラ」の実験店と同様なハンガー駆動のロボットピッキングシステムが後方で作動していたはずだが、ピッキングと戻しは自動でも検品や再プレスには人手がかさむから、試着が集中すると人海戦術がパンクしてしまう。それを回避せんとして予約制にすれば、多くの商品を陳列訴求して購入すれば持ち帰ることもできるという利便性と量販性が損なわれるから、元から前提が矛盾していた。

ロボットピッキングシステムは設備投資もともかく、広大な後方スペースを必要としたから、1号店も2号店もショールームは賃貸面積の半分にも届かなかった。スペースの過半を占めるほど大仕掛けなバックヤードに加え、店舗従業員が100人にも及ぶほど作業量が膨大だった。

小売店舗としての運営効率は論外で、物流施設としても法外な人時量を要したから、多店舗化はもちろん継続も不可能で、1号店の開設から18カ月も待たずして23年11月9日には両店とも閉じられてしまった。大掛かりなロボットピッキングシステムなど不必要な重装備をせず、もっと少人数でシンプルに運営できるBOPIS と取り寄せ試着のコンパクトなサテライトとして開発していれば、今頃は全米に数百カ所も広がっていたかもしれない。

アマゾンは小売店舗の運営や店舗物流について見識を欠き、とんでもない勘違いの果てに膨大な減損とタイムロスを被ったが、わが国でもB2CのEC物流で育った人はB2Bの店舗物流の効率感覚とコスト感覚が欠けており、物流センターの自動化などで踏み外す例もあるようだ。

3.アルゴス…1973年創業の英国のカタログ・ショールームストアで、12年にカタログをタブレットに替えたデジタルストアへの転換を開始。ラストワンマイルを自社物流で担う体制はヨドバシカメラに酷似している

対極の手法を組み合わせて実現するOMO利便

本来、OMOは店舗販売とEC、店舗物流(B2B)と宅配物流(B2C)、セントラル・ロジステイクスとリージョナル(ローカル)・ロジスティクスを最適に組み合わせて顧客利便と運営効率の最大化を両立させるものだと思うが、多くの小売チェーンやアパレルメーカーのOMOは仮説の論理や思い込みのナラティブ(自己生成神話)で視野狭窄に陥り、偏った構図に走っている。それでも一時的には回るのかもしれないが、もとより偏った構図はコスト的にも効率的にも無理が大きく、事業が大きくなれば継続が困難になり、足を引っ張られて事業が萎縮する。

そんなバカをわざわざやる企業があるはずないと思われるかもしれないが、前述したようにアマゾンはいくつもそんな失策を犯したし、栄光の頂点にあったかつてのレナウンは支店物流(リージョナル・ロジスティクス)からセントラル・ロジスティクス(1992年稼働の習志野インテリジェント・ジャンクション)への大転換が転落の契機になった。ならば、アンドエスティHDの常総物流センターのFC4.的(店舗向けDCなのにEC向けFCと錯覚するようなロボットシステム)自動化も相当に危ない失策だと思われる。

B2Bの店舗物流はB2Cの宅配物流より一個口の輸送数量がケタ違いに多く、当然に物流費負担も桁違いに軽い。セントラル・ロジステイクスは宅配業者に依存する限り、複数回の載せ替えと夜間のリージョナル間移送を要する高コストなハブ&スポークシステムを経由せざるを得ないが、リージョナル(ローカル)・ロジスティクスなら載せ替えなしの直行便で当日中に低コストに届けられる。地域顧客のEC注文に近隣店舗の在庫を引き当てて店渡ししたり店から出荷すれば、時間もコストもセントラル・ロジステイクスより半減する。そこで活用されるのが地域店舗間で在庫を融通するローカル・テザリングで、サイズ負担の大きいシューズチェーンや紳士服チェーンではOMO以前から定着していた。

OMOは顧客購買履歴の店舗とECの一元化から始まって在庫引き当て一元化へと進み、店舗物流とテザリングを活用したEC注文品の店舗渡しや取り寄せ試着、店舗出荷による顧客利便の最大化を実現すれば、コストも時間も抑制できて地域のOMOが成立する。さすれば、ローカルOMOマーケティング※5.による店舗網と在庫の適正再配置による飛躍的効率化というゴールも見えてくる。

ヨドバシやアルゴスが先行し、ウォルマートが到達したOMO覇権は必ずしも壮大なシステム投資を必要とするものではない。顧客利便と経済合理性に立って店舗物流と宅配物流、ローカル・テザリングをどう組み合わせるか、多少の人海戦術は厭わずリージョナルやローカル単位に工夫すれば「成功体験」が見えてくるのではないか。

4.DCとTCとFC…入荷した商品を棚入れしてからピッキングして出荷する保管型のDC(Distribution Center)に対し、棚入れせず仕分けして送り出す通過型の物流施設がTC(Transfer Center)で、FC(Fulfillment Center)は通販の出荷用DC

5.ローカルOMOマーケティング…店舗とECの顧客と売上を一体に地域管理して在庫を適正配分、店舗を適正配置するマーケティング手法

システム投資には3つのリスクが伴う

アマゾン ゴーもアマゾン スタイルもデジタルな論理と大掛かりなシステムが先行して運営効率や採算性からかけ離れてしまった事例だが、大規模なシステム投資には3つのリスクが伴うものだ。

1つ目は、多額の先行投資による減価償却が負担になって将来のリプレースが先送りされ、先行したつもりが立ち遅れてしまう「逆リープフロッグ現象」が指摘されるが、アマゾン ゴーもそれを免れないだろう。

2つ目は、デジタルな論理や仮説がナラティブ(自己生成神話)になって検証や修正が効かなくなるリスクだが、RFID視点と画像解析視点、店舗物流視点と宅配物流視点など、どちらかに偏れば現実が見えなくなることもある。

3つ目のリスクが、AIやデジタルな自動化に任せてフィジカルな検証がおろそかになったり、組織内や取引先、顧客とのタッチポイントが希薄になって信頼関係が損なわれてしまうことだ。

緻密に設計してテストを繰り返しても、状況や負荷で駆動状況はデリケートに変わっていく。自動化は絶え間ない工程監視によって品質が維持されるもので、AIによるレポートなど未検証の仮説や流説のダイジェストの域を出ない(個別事象の真偽と事象間の正しい因果関係が証明されていない)。通販・EC業界で流行りのAIアシスタントやオペレーターのAI置き換えなど、顧客の落胆と怒りを買うだけで、何のメリットもない。AIが期待先行で役に立たない一方、キャリアのある接客人材を切り捨てる結果となっては眼も当てられない。

RFIDやセルフレジ、AIカメラなど店舗DXにしても、在庫管理作業やマテハンを効率化し人時量を抑制する効果は大きいが、単純にシフトを圧縮して仕舞えば顧客とのタッチポイントが希薄になり、販売機会や親しみが損なわれるリスクが指摘される。それぞれの時間帯のシフトは余裕に見えてもスタッフ間の引き継ぎや売り場のメインテナンス、顧客対応で必要な場合もあり、無駄をゼロにしてしまえば失われるものもある。

店舗運営人時量の抑制は12月26日のアパレルチェーン2026年の経営課題は「賃上げ」できる店舗運営の効率化だ【小島健輔リポート】に徹底して詳説したので是非ともご一読いただきたいが、店舗作業は定時・集約化と順序の組み替えで大きく削減できるもので、AI活用などより低コストで確実かつ大きな効果が得られる。貴重な人時量の有効活用に注力すれば、店舗運営やOMOの仕組みも過大投資に陥ることなく見えてくるはずだ。

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