ファッション
連載 鈴木敏仁のUSリポート

アマゾンの新アパレル店舗は「試着革命」を起こすか 鈴木敏仁USリポート

 アメリカ在住30年の鈴木敏仁氏が、現地のファッション&ビューティの最新ニュースを詳しく解説する連載。米アマゾンがロサンゼルスに衣料品のリアル店舗「アマゾンスタイル」を今年後半オープンすると発表した。アマゾンは衣料品ストアでどんな革命を起こすのか。公開情報や報道から大胆に予想してみた。

 アマゾン(AMAZON)がリアル店舗戦略を大幅に修正した。「アマゾンブックス」「アマゾン4スター「ポップアップストア」をすべて閉店し、「ホールフーズ」「アマゾンゴー」「アマゾンフレッシュストア」の3フォーマットに集中するという。これに本稿で取り上げる「アマゾンスタイル」が加わる。またアマゾンゴーと一部のアマゾンフレッシュストアに導入されているスキャンなし・レジなし技術のジャスト・ウォーク・アウト(JWO)のライセンス販売も強化する。

 閉店する店舗数は68と発表されている。買収で手に入れたホールフーズが500店舗前後あり、ホールフーズを含めれば68店舗という店舗数は大きなものではないのだが、アマゾン自身がゼロから開発したフォーマットに限るとおよそ100店舗前後なので、その半分以上を閉めるというのは小さな戦略転換ではない。

 アマゾンはこの戦略転換の理由を説明していないのだが、仮説は2つある。

 1つは閉店するするフォーマットにアマゾンらしい斬新さがないこと。ジェフ・ベゾス(Jeff Bezos)はリアル店舗について“アマゾンでしかできない何かがない限りやる意味がない”とコメントしており、その強い何かがないのである。

 2つめは市場の大きさだ。アマゾンゴーとアマゾンフレッシュストアは食品中心のアソートメントで市場が大きい。一方、アマゾン4スターはサイト上の売れ筋中心、アマゾンブックスは書籍と、カテゴリーが絞られており大きく成長したとしてもアマゾンの規模からすると小さなものに終わることだろう。

 今回俎上に上げるアマゾンスタイルは衣料専門店フォーマットで、食品に並ぶ大きな市場を狙っており2つめをクリアしている。さてそれでは1つめはどうなのか、これを考えるのが本稿の目的である。

現時点で分かっていること

 アマゾンスタイルは今年後半までにオープンすると発表された段階で実物はまだ存在しないので、リリースされている情報を元に考えてみることにする。

 出店するのはロサンゼルス郊外に位置するライフスタイルセンターのアメリカーナ・アット・ブランド(AMERICANA AT BRAND)である。運営母体のカールソ・アフィリエイツは1つめのザ・グローブ(THE GROVE)で大成功して、その2つめとしてアメリカーナ・アット・ブランドを開発した経緯がある。

 ちなみにライフスタイルセンターとは屋根の付いたエンクローズ型モールではないオープンタイプの大型ショッピングセンターで、一時期流行して急速に普及した。

 店舗面積は3万スクエアフィート(2790平方メートル)、「H&M」や「フォーエバー21(FOREVER21)」が繁盛ショッピングセンターで使う大型店と同じサイズで、フォーマットは衣料専門店とくくって良いようだ。

 リリースされている情報を整理すると、特徴は以下の通りである。

・アプリを使って商品につけられたQRコードをスキャンし、商品説明やレビューを確認、試着する場合はサイズやカラーを選ぶと試着室に店員が商品を用意する。試着が不要の場合はそのままピックアップカウンターに送ることもできる。

・ユーザーの買物履歴といった過去のヒストリーを利用し機械学習を使ってリアルタイムにリコメンデーション商品を表示する。双方向なのでユーザーは自分の好みなどを登録することでリコメンデーションの精度を上げることができる。

・店員が試着室に商品を運び、用意ができると通知がユーザーに届き、指定された番号の試着室に入る。端末が壁に設置されていて商品をブラウズでき、追加のオプションなどが表示される。試着した商品にレートを付けたり、合わない場合に違うサイズをリクエストしたりといったこともできる。

・ユーザーが商品を選択し、店員が商品を試着室に運ぶといった一連の流れはフルフィルメントセンターで使っているテクノロジーを利用している。

・品ぞろえはネット通販で持っている膨大なデータを基にして商品部(アマゾンはキュレーターと呼んでいる)が選択する。

・店頭でスキャンしたアイテムは保存され、後日のネットや店頭での買い物で利用することができる。

・ネットで買った商品を店舗ピックアップとして試着することができ、気に入らなければそのまま返品することもできる。

試着はイノベーションがなかった分野

 陳列されている商品は買えないので店頭はいわばショールームで、QRコードのスキャンが買い物の出発点となるのだが、これはデータを中心に据えるアマゾンにとっては当然の手法と言えるだろう。ブラウジングや購買履歴といったネット上のデータと、店頭のブラウジングや購買履歴を重ね合わせることで、各ユーザーの嗜好を理解する精度を高めることが目的となる。

 さて私の目を最も引いたのは試着である。試着品をアプリで選び店員が試着室に商品を用意するシステムそのものは目新しいものではなくて、百貨店や衣料専門店チェーンがすでに実験をしているのだが、これを中心に据えてしまったのはアマゾンらしい。

 またネットで買った商品を店頭で試着できるシステムも極めて斬新である。ECで頭痛の種となっているのが、複数のサイズを注文し届いた服を試着して不要なサイズを返品するという買い方の普及で、これを解消する1つのソリューションとなるだろう。

 そして公開された写真を見る限りにおいて、試着室の数が多く、店舗面積に試着室スペースが占める比率が高そうなのである。

 衣料ショッピングに試着は不可欠なのだが、お客にも店員にもかかる負荷は最も大きく、しかしモダンリテーリングが登場し普及以来この負荷は減ることなく変わらず今に至っている。イノベーションというものがまったくもたらされてこなかった分野なのだ。

 つまり試着プロセスに変革をもたらす可能性があるのではないかというのが私の見立てなのである。少し大げさに言うと、試着を中心に据えたフォーマット、といったところだ。そうであるならば、アマゾンしかできないユニークさがよく表現されたフォーマットと言えるかもしれない。

 もちろんリアルを見ないと断言はできない。オープンしたらまたレポートしたいと思っている。

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