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マットレスを手軽にした寝具D2C「キャスパー」 鈴木敏仁のUSリポート

 アメリカ在住30年の鈴木敏仁氏が、現地のファッション&ビューティの最新ニュースを詳しく解説する連載。デジタル生まれのD2C企業がリアル店舗を拡大する事例が増えている。今回は大胆な転換を図った寝具のキャスパー・スリープについて説明する。

 前回D2Cのワービーパーカー(WARBY PARKER)を取り上げたが(「D2Cの代表格 『ワービーパーカー』が支持される理由」)、引用した寝具のキャスパー・スリープ(CASPER SLEEP)が投資企業にバイアウトされることが発表された。タイミングが良いので今回もD2Cを俎上に上げよう。

 キャスパーが上場したのは昨年の2月で、予定していた株価の17~19ドルを12ドルに下げて上場し、1カ月半後には3ドル前後まで落ち込んで、高値を付けて成功したワービーパーカーとは対照的な経緯をたどっている。バイアウトする投資企業は株価6.90ドルを提案しており、およそ2倍のプレミアムを付けているのだが、公開時の12ドルの半分なので企業の評価が大幅に落ち込んでいることが分かるだろう。

「マットレスを圧縮する技術」で宅配しやすく

 キャスパーの成功に寄与したのは、アメリカのマットレスの小売店が旧態依然として変化がなかったことが一番大きかったと思っている。店内にベッドを並べてショールームとし、コミッションベースの店員が対面で販売するという売り方を面倒と感じる人が増えていたのである。

 マットレスは嵩が大きいのでデリバリーにハードルがあり、このデリバリーが新規企業の参入障壁にもなっていたことも影響した。マットレスの小売店は似たような販売環境で似たような商品を売り、SKUを変えることで価格比較を難しくして価格競争を巧妙に回避しながら、変化せずに生きながらえていた。

 最大手のマットレスファーム(MATTRESS FIRM)は最盛期には3000店舗を超えていたが、業績が悪化して、2016年に南アフリカのスタインホフ・インターナショナルに買収され、大資本傘下に入ってしまっている。翌年には破綻の準備をしているという情報が流れたこともあり、今は2000店舗前後まで店舗数が減っている。

 キャスパーの創業は14年なので、ちょうどこのリアル店舗チェーンが坂を下り始めたときと軌を一にしている。消費者マインドの変化に乗ったということができるのだが、カギはマットレスを折りたたんで圧縮する技術を利用して宅配を可能としたことにある。ネット通販市場が急成長し始めたときに、それまでは不可能だったマットレスをネット通販で売ることを可能としたのだ。

 配送料無料、お試し期間100日で気に入らなければ全額返金、10年間保証といった商品を見なくても安心して買えるプログラムを提供しハードルを低くしたことも支持につながった。

 それでも店舗で実際に寝転がってから買いたいという人たちが多く、18年には200店舗をオープンさせることを発表している。ワービーパーカーに次いで大胆なリアル店舗戦略を初期の段階で打ち出した企業なのである。

 またターゲット(TARGET)は17年から、ベッドバス&ビヨンド(BED BATH&BEYOND)は今年からキャスパーの商品を売り始めている。アメリカではこれをホールセール戦略と呼ぶが、D2Cブランドが認知度を高めようとするときにリアル店舗とホールセールは戦略的に極めて重要な要素となる。

 ちなみにターゲットはキャスパーに10億ドルで買収提案した過去がある。結局7500万ドルの出資に変更され、今も株を保有しているのかどうかは不明だが、投資企業がバイアウトしてバランスシートが整えられた後にターゲットに売却する出口も十分にあり得る。

懸念材料は競合の増加か

 キャスパーの第3四半期の業績は、売上高が前年同期比26.8%増、営業利益が2300万ドルの赤字、9カ月だと売上高が前年同期比25%増、営業利益高は7400万ドルの赤字となっている。昨年度の9カ月間の赤字は6879万ドルなので赤字が改善されていない。

 実はワービーパーカーも赤字なのだが、両社の明暗を分けているのはおそらくキャッシュフローだろう。9カ月間でワービーパーカーの営業キャッシュフローは小さな赤字(昨年同時期は大幅黒字)なのだがキャスパーは大幅赤字で、営業、投資、財務を足し引きした最終キャッシュフロー(つまり手持ちの現金及び等価物)が昨年より半分に減ってしまっている。

 当然のことながら指摘されているのは経費の多さで、広告支出を削減しなければならないのだが、ホールセールを増やそうとする時期に重なり懸念材料となっている。

 問題は増えつつある競合だ。マットレスのボックス化技術はキャスパーの専売特許ではないためすでに複数の企業が参入しており、また著名ブランドのシモンズ(SIMMONS)とテンピュール・シーリー(TEMPUR SEALY)も直販を始めている。

 最大の競合は18年にPB(プライベートブランド)で参入したアマゾン(AMAZON)だ。アマゾンベーシックによる格安ブランドで、D2Cを中心とした先発企業が作った市場に低価格PBを後発で投入するといういかにもアマゾンらしいやり方である。

 キャスパーの業績不振とバイアウトによってD2Cというビジネスモデルそのものに疑問を呈する向きがあるのだが、キャスパーが持っている固有の問題に起因していることが分かっていただけただろうか。

 目立たないが成功している企業もいること、デジタルオンリーのピュアなD2Cだと限界があること、そして彼らの支援するユニークなビジネスが成長していることについて次回書こうと思っている。

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