ビジネス
連載 鈴木敏仁のUSリポート

ウォルマートとギャップの協業にみる時代の変化 鈴木敏仁USリポート

 アメリカ在住30年の鈴木敏仁氏が、現地のファッション&ビューティの最新ニュースを詳しく解説する。小売業の巨人ウォルマートがギャップと協業したブランドを開発した。これはリアルとデジタルの双方をうまく組み合わせた事例になるのだろうか。

 ウォルマート(WALMART)がギャップ(GAP)とコラボしてホームファニシングに新しいブランドを開発し、6月に販売を開始した。名称は「ギャップホーム(GAP HOME)」。販売チャネルはネット通販のみ。ベッド、バス、デコール、テーブルトップの4つのサブカテゴリーでアイテム数はおよそ400と公表されている。

 この発表があったときに、ウォルマート傘下の会員制スーパー、サムズクラブ(SAMS CLUB)がギャップの商品を売っていることをメディアが記事にしている。レディースとメンズのトップスとショーツ4アイテムのみで、会員への販促メールで発覚した。メディアの質問に対して同社は回答しておらず、私も店頭で確認したわけではないのだが、新デジタルブランドの投入と考え合わせると両社がリアルとデジタルの双方を使ってコラボの試行錯誤をしているのではないかと感じている。

 私がアメリカの小売業界を追い始めたのは25年以上前。ちょうどその頃は、ギャップの中興の祖、ミラード・ドレクスラー(Millard Drexler)がギャップを急速に拡大させていた。有名なSPAという言葉もドレクスラーがギャップのビジネスモデルを説明するために使い、脚光を浴びたものである。

 アパレル専門店チェーンによる垂直統合はリミテッド(LIMITED)が先駆けで、ギャップはそれを大きく花開かせた企業である。今となってはユニクロ(UNIQLO)やザラ(ZARA)に負けてしまっているが、当時はギャップが一人勝ちの様相を呈していたのであった。(ちなみにSPAは、Specialty store retailer of Private label Apparelの略語である。プライベートブランド衣料を売る専門店という意味なのだが、なぜか日本ではアパレル専門店チェーン以外でも使われるようになってしまった。今ではアメリカではまったく使われず日本だけで流通している業界用語である)

 その当時、ターゲット(TARGET)の衣料売り場を見て、これはギャップをコピーしているなと感じた経験を今もはっきり覚えている。ターゲットは衣料が強いディスカウントストアで、自社開発商品の比率が高く(おそらく当時も90%を超えていたはず)、ギャップを追っていたのだろう。

 そういう経験をしている世代なので、あのギャップがウォルマートとコラボするというニュースには感慨を覚えざるを得ないのである。時代の変遷というものだ。

ウォルマートのDNA、ターゲットのDNA

 前々回にウォルマートによるバーチャル試着技術開発企業の買収について書いたように、ウォルマートはファッション分野を改めて強化している。

 エレン・デジェネレス(Ellen DeGeneres)やドリュー・バリモア(Drew Barrymore)といった有名人を冠とした低価格ラインや、今年はアート&クラフト分野のセレブリティデザイナーのトッド・オールドハム(Todd Oldham)と提携したり、極めつけは高価格帯ブランドの衣料デザイナー、ブランドン・マックスウェル(Brandon Maxwell)と契約して新たなブランドの開発を発表したりと、コラボブランドを急速に増やしている。

 アメリカではエクスルーシブ・ブランドと呼ぶが、この分野は伝統的にターゲットが強く、ウォルマートはやってはきたが中途半端なブランドが多いまま今に至っている。ギャップとの提携もこのエクスルーシブ・ブランド戦略の一環と考えてよいだろう。

 ウォルマートによるファッション強化は今に始まったことではなく、さまざまなイニシアチブを集中投下する時期と、手つかずで放置する時期と、波を繰り返してきている。その昔、英大手スーパーのアズダ(ASDA)を買収したときには同社のPBブランドの「ジョージ(GEORGE)」を取り入れて大々的に衣料強化を図ったものである。

 ただやはり餅は餅屋で、ウォルマートのDNAはオペレーションの効率化にあってファッションやマーケティングではないので、大成功と呼べるファッション戦略は私の記憶にはない。そのため、この1年ほどにウォルマートによるファッション分野の新プログラムが矢継ぎ早に出てきているのだが、それがヒットにつながるのかどうかはさめた目で見ざるを得ないのである。

 ちなみにターゲットのDNAはマーケティングやブランディングにあるので、逆にオペレーション分野で他を圧倒するような成功例は少ない。全方位で何もかも強い企業など存在しないのだ。

リアルとネットを使い分けたブランド戦略

 今回のギャップとのコラボで注目しておきたいのは、販売チャネルをネット通販のみとしている点である。両社のブランディングの観点からリアル店舗でいきなり消費者に見せてしまうのをとりあえず避けたのかもしれない。また低リスクのEC(ネット通販)でとりあえず売り始めて様子を見て結果が良ければリアルへという道筋が今後あるのかもしれない。

 ウォルマートのここ数カ月の動きを見ると、ファッションECにはブランドによって柔軟な戦略を取り入れはじめていることが分かる。一度破綻して全店舗閉鎖し今はブランド管理会社によるD2Cとなっている元専門店チェーンのジャスティス(JUSTICE)を、ネットと2400店舗の双方で取り扱いを開始。またD2Cパーソナルケアブランドの「バブル(BUBBLE)」を3800店舗で導入、これはおそらく「バブル」自身とのネット上での競合を避けてリアル店舗のみに焦点を当てたからからなのだろう。

 EC売り上げが一定規模以上となり安定すると、リアルとネットを組み合わせ使い分けながらブランド戦略を組み立てることができるようになる。アマゾン(AMAZON)もリアル店舗戦略を強化しているが、最終的には双方を持っている企業の方が有利になるのだろうと思っている。

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