ファッション

なぜD2Cにリアル店舗が必要なのか 鈴木敏仁USリポート

 アメリカ在住30年の鈴木敏仁氏が、現地のファッション&ビューティの最新ニュースを詳しく解説する連載。ネット通販の専門事業として創業したD2Cは、リアル店舗を増やす新しい局面に突入した。ネットとリアルの相乗効果とは、具体的にはどのようなことなのか。考察してみた。

 ノードストロム(NORDSTROM)がD2Cブランドを取り扱い始めたのは2012年のボノボス(BONOBOS)からである。このときにノードストロムは1640万ドルで投資もしている。その後にウォルマート(WALMART)がボノボスを買収したので単なる投資で終わったが、資金を投ずるほどに興味を持っていたということになる。

 その後ノードストロムによるD2Cブランドの取り扱いは年々増えている。思いつく限り列挙すると、アウェイ(AWAYA)、エヴァーレイン(EVERLANE)、リフォーメーション(REFORMATION)、シンクス(THINX)、ボーイ・スメルズ(BOY SMELLS)、レント・ザ・ランウェイ(RENT THE RUNWAY)、キャスパー(CASPER)、トナル(TANAL)等々。

 また15年にはワービーパーカー(WARBY PARKER)、19年にはグロシエ(GLOSSIER)を、ポップアップストアで取り上げている。

 ノードストロムだけではなくて、メイシーズ(MACY’S)、コールズ(KOHL'S)、ウォルマート、ターゲット(TARGET)、アルタ、セフォラ(SEPHORA)など、D2Cを取引先として仕入れて売るチェーンストアは数多い。

正しいバランスを探る

 D2Cから見た場合、このタイプをホールセールと呼ぶ。

 ルルレモン(LULULEMON)のCEOをやめてから、2つD2Cブランド立ち上げ、既存のD2Cを1つ加えて3つとし、The House of LR&Cという企業名でこれから成長させようとしているクリスティーヌ・デイがこんなことを言っている。重要なコメントなので長いが全文引用しよう。

 「成功のカギはD2Cとホールセールの正しいバランスを見つけ出すことだ。ホールセールの粗利はD2Cの半分だが、しかしホールセールには多くの価値がある、ノードストロムやコールズとの取引では最低仕入れ量を確保することができて、在庫の流動化スピードが速くなる、それをD2Cビジネスに利用することができる、ただしD2Cのビジネスモデルは高粗利を前提としているので低粗利のホールセールを運営できなくなる危険がある、私はそれを可能にするためにホールセールの粗利を前提にビジネスをデザインするよう絶えず心に留めている」

 ここでいうD2Cとは文字通りの消費者直販、つまりネット通販である。ご理解いただくために言葉を変えると、D2CはBtC、ホールセールはBtoBである。

 D2Cとホールセールはビジネスの構造が異なっている、ホールセールはD2Cよりも粗利は低いが取扱量が多いので在庫の回転率を上げることができる、双方を同じ思考で運営していると失敗する、低粗利のホールセールをいつも前提にせよ、つまり販管費を低く抑える気を配れ、ということを言っているのである。

 前回取り上げたキャスパー(CASPER)の決算書を眺めると経費高によって営業利益が出ていない印象があるのだが、店舗やホールセールという異なるビジネス構造を持つ異質の事業をまとめて運営することができていないのではないかと推測できる。

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ミールキットのホームシェフが成功したわけ

 整理すると、ネットオンリーが「D2C」、リアルは「直営店舗」と「ホールセール」の3つの形態が存在することになる。それぞれビジネスモデルが異なるのだが、ではなぜD2Cにリアルが必要なのかというと、1つめは認知度の向上である。いかにネットが普及したとはいえ、消費者がネットに触れている時間とリアルな生活時間と比較すれば後者の方が多い。ブランド名が目に触れる機会をネットのみに限定するのは限界があり、持続的に成長させていくにはいずれにしてもリアルが必要になるのだ。

 2つめはデジタル広告のROI(投資利益率)が低くなってきているという指摘が出始めているのである。フェイスブックやインスタグラムといったSNSの広告料が値上がりしていて、その反動でリアル広告の価値が上がりつつあり、双方をミックスするマーケターが増えているという。商品を見せる場がネットと店舗と2つあり、どちらかに偏らず2つのバランスを取ることが重要なのである。

 このミックス戦略で成功している企業の1つが、スーパーマーケット最大手クローガー(KROGER)が買収したホームシェフ(HOME CHEF)だ。今年入って年商が10億ドルを超えたのだが、アメリカでは10億ドルをマイルストーンとみなす商習慣があり、ホームシェフは一躍メジャーなブランドとして認知されることになった。

 ホームシェフがミールキットをネット上でサブスク形式で売るビジネスモデルによって創業したのは2013年。クローガーが2億ドルで買収したのは18年半ばで、同年の10月から店頭販売を開始し、翌19年にはオーブンや電子レンジなどで温めるだけの簡便ミールを別ブランドとしてスタートしている。

 店頭では買収直後から入り口周辺の最も客数が多い動線上に特設の冷凍ケースを設置して認知度向上に努めている。リアルとネット、サブスクと単品売り、ミールキットと簡便総菜、という複数のチャネルと品ぞろえを駆使し、クローガーの販売力を生かしてシナジー効果を出せたことに成功要因があるだろう。クローガーが大企業の論理を押し付けて若い企業のやる気をそぐというよくある罠にはまっていないことも理由の一つと考えている。

アウトソーサーも選択肢に

 D2C、直販店舗、ホールセールと、この3つはそれぞれビジネスモデルが異なり、D2Cからリアルに進出してつまずく企業が少なくないのだが、直販店舗運営のアウトソースというビジネスがすでに生まれている。立地の選定、家主との交渉、店舗デザイン、営業スタート後の運営、集客、そしてデータとインサイツという、スタート地点からすべてを請け負う。

 大量出店は不要でショールームとしてのアンテナショップがいくつかあれば良いと考えているD2Cにとっては、苦労して自前店舗を運営するよりも投げてしまった方が効率が良いと考える企業があっても不思議ではない。特に立地の選定や家主との交渉が新興D2Cに取ってはハードルなのだという。

 アウトソーサーはすでに数社生まれているのだが、そのうちの一つのLeap社は現在31店舗で、来年中には250店舗体制を目指している。もちろん複数のD2Cブランドと取り引きしており、多くのD2Cブランドの集積としての250店舗体制である。

 このタイプを“店舗型”と呼ぶならば、店舗内のスペースを貸す“売り場型”がネイバーフッド・グッズ(NEIGHBORHOOD GOODS)である。現在3店舗、店内には多くのD2Cブランドの売り場が並んで全体で一つの店舗を形成している。また小型店舗でアイテム単位で売り場を貸す“単品型”が日本にも進出したベータ(B8TA)である。

 ネットを起業の入り口とするブランドは増えることはあっても減ることはないので、こういったショールーム需要も今後減ることはないだろう。

 D2Cの現在地を整理すると、成功のカギはネットとリアルのバランスで、ノウハウに欠けるリアルをいかに上手に運営できるか、そして必要に応じてアウトソーサーも利用する、といったところだと思う。


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