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セシリー・バンセンが振り返るデビューからの10年 ロマンチック&フェミニンを核に世界観を広げるブランドの進化とこれから

PROFILE: セシリー・バンセン「セシリー バンセン」デザイナー

セシリー・バンセン「セシリー バンセン」デザイナー
PROFILE: デンマーク出身。2007年にコペンハーゲンのデザイン学校を卒業。衣装デザイナーのアニャ・ヴァン・クラーウのアシスタントとしてデンマーク王立劇場のオペラ衣装の制作やフリーランスとして「ディオール」のプロジェクトに携わった後、「ジョン ガリアーノ」でのインターンを経て、アシスタント・プリントデザイナーを務める。10年、英ロイヤル・カレッジ・ オブ・アートでウィメンズウエアの修士号を修了。「アーデム」のデザインチームで3年間経験を積む。15年に故郷へ戻り、「セシリー バンセン」を設立。17年には「LVMHヤング ファッション デザイナー プライズ(LVMHプライズ)」のファイナリストに選出され、22-23年秋冬からコレクション発表の場をコペンハーゲンからパリ・ファッション・ウイークに移した。25年8月、初の直営店をコペンハーゲンにオープン

2015年にデンマーク・コペンハーゲンで誕生した「セシリー バンセン(CECILIE BAHNSEN)」は、この10年で北欧ブランドの枠を超え、グローバルな存在感を確立した。そのスタイルを象徴するのは、ふんわりとした立体的なシルエットと手仕事を生かしたテキスタイルが特徴のドレスやスカート。そんなフェミニンでロマンチックなムードあふれるアイテムを軸にしながら、「アシックス(ASICS)」や「ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)」「ポーター(PORTER)」などとの協業を通して世界観を拡張し、支持層を広げてきた。

設立10周年を迎えた今年は、パリ・ファッション・ウイークでの新作コレクション発表やコラボレーションのローンチに加え、コペンハーゲンでのアニバーサリーショー開催や初の直営店オープン、ゲストキュレーターとしての「Aマガジン(A MAGAZINE)」の制作もあった。節目にふさわしい活動が続いた1年間、多忙な日々を送ってきたデザイナーのセシリー・バンセン(Cecilie Bahnsen)に、自身の歩みを振り返ってもらいつつブランドの現在地とこれからについて聞いた。

WWD:この10年間を振り返って、特に大きな転機だったと感じる出来事は?

セシリー・バンセン「セシリー バンセン」デザイナー(以下、セシリー):いくつか大きな転機がありました。まずは、2015年にロンドンのショールームで発表した最初のコレクションです。そこでドーバー ストリート マーケット(DSM)が私たちのコレクションを見つけてくれて、ロンドンとニューヨークの店で初めて取り扱われることになりました。最初の1年間はDSMのエクスクルーシブでスタートを切ったのですが、それがブランドに対する自信につながったのを覚えています。

そして次の転機は、17年。締め切り間際に応募した「LVMHプライズ」で最終審査まで残ったことにより、ブランドの認知度が一気に高まりました。この年にコペンハーゲン・ファッション・ウイークで初めてランウエイショーも開いたのですが、ルックブックだけでなくショーという表現方法を手にしたことは、とても大きかったですね。そこからはオーガニックに成長していったように感じています。

WWD:クリエイティブ面とビジネス面の両面で、この10年で変わったこと、そして変わらないことは何か?

セシリー:まず変わったことを挙げると、私一人で始めた初期から現在は30人規模のチームにまで成長したこと。世界中から才能が集まり、コペンハーゲンのオフィスで働いています。卸売だけでなくEC、プライベートアポイントメント、そしてコペンハーゲンの店舗運営を始めたことで、ブランドの世界観をより広く、より深く届けられるようになりました。また昨年、CEOが加わったことで私は再びクリエイションに集中できるようになり、ブランドとしても大きな転換期を迎えました。シューズやアクセサリーなど、表現の幅が広がったことも大きな変化と言えますね。一方、シルエットやボリューム、そしてクラフツマンシップへの情熱は、設立当初から変わっていません。

故郷とパリでのショーに込めた思い

WWD:8月には10周年を記念し、アーカイブを再構築したアニバーサリーショーをコペンハーゲンで行った。その背景にあった思いとは?

セシリー:コペンハーゲンはブランドのホームであり、原点でもあります。自分たちがどこから来たのかを忘れず、街に恩返しもしたいという気持ちがありました。夏のコペンハーゲンはとても美しく、屋外のロケーションも選べますし、ショーに自転車で来るようなカジュアルで自然体の空気がブランドらしいと感じています。また、アーカイブピースの再構築でコレクションを作り上げるという試みは、これまでの10年を振り返りつつ新しいものを生み出すということ。次のステップやこの先の10年も守っていくものを考える、とても有意義なプロセスでもありました。

WWD:そして、10月には23年から継続して参加しているパリ・ファッション・ウイークで26年春夏コレクションを発表した。

セシリー:10周年記念ショーや「Aマガジン」の制作など大きなプロジェクトが続いた後、とてもパーソナルで “心” に近いテーマがしっくりときて、「ハートフェルト(Heartfelt)」と題しました。そこには、クリエイションに対する愛情やチームのつながりからブランドを着てくださる女性たちとの関係まで、全てへの思いが込められています。“鼓動“を表現するかのようにモデルの胸にあるハートが光っていたのは、複雑な世界に美しさと喜びを届けたいという想いの象徴です。

WWD:コレクションはシーズンごとに全く異なるものを提案するわけではなく、核を大切にしなが進化し続けていくアプローチを大切にしているように感じる。中でも、毎回クラフトのディテールが目を引くが、今季新たに挑戦したことは?

セシリー:今季は、一つの花のモチーフを多様な手法で表現することに取り組みました。素材開発に重きを置いたことで、シルエットへの意識がより高まり、それがより立体的で弾むようなフォルムにつながったと言えます。そしてラストを飾ったマゼンタのルックは、まずオーガンジーに刺しゅうを施し、それを折り重ねて陰影を作ったもの。とてもクチュール的な手法ですが、スポーティーな素材や鮮やかな色を掛け合わせることで、新しいバランスを生まれました。「Aマガジン」で取り組んだ「ザ・ノース・フェイス」とのアップサイクル企画からも、ユーティリティーのディテールが潜む白いドレスなどのショーピースへのヒントを得ています。

WWD:新しいコレクションを制作する際のスタート地点は?デザインやクリエイティブ・ディレクションにおいて最も大切にしているのは?

セシリー:一つ前のコレクションを見返して、次のシーズンに必要な色を考えるところから始め、テキスタイルの開発に着手します。そして刺しゅうや織りが進む中、ボディーにドレーピングしていく。そういった多層的なプロセスで制作に取り組んでいます。私は、とてもディテールにこだわる性格。なので、色のトーンや生地の厚みまで気を配ります。ただそれだけでなく、モデルが着たときに生まれる動きやアイテムのレイヤード、ボリュームの対比も重要。ドローイングからドレーピングまで、それぞれの工程の間に生まれる“対話“を大切にしています。

WWD:「セシリー バンセン」を象徴するデザイン哲学でもある「フェミニニティー」や「ロマンス」は、価値観が多様化する現代においてどのように捉えている?

セシリー:「フェミニニティー」や「ロマンス」の概念は、女性としての私自身の成長と深く結び付いています。若い頃にブランドを始めましたが、今では母にもなり、“どんなフェミニティーをまといたいか“という感覚も変化してきました。

コレクションは幅広い女性が自分のスタイルを表現できるようにデザインしているので、ショーでもさまざまな年齢や背景の女性をキャスティングしています。同じ服でも、まとう人によってまったく異なる表情を見せる。そのための余白を残し、それぞれの個性やフェミニニティーをかき消してしまわないことが、とても大切だと考えています。

コラボを通して伝える“リアルな着こなし方”

WWD:「アシックス」や「ポーター」「ザ・ノース・フェイス」など多様なブランドと協業している。一見遠い存在のようなアウトドアやよりテクニカルなブランドと取り組むことが、「セシリー バンセン」に新しい視点をもたらしている。

セシリー:コラボレーションは、デザイナーとして学ぶことが多いだけでなく、より幅広いお客さまとのタッチポイントにもなっています。特に「アシックス」は最初の大きな協業相手でしたが、自分でも驚くほどの反響がありました。実は私自身、フラットシューズやスニーカーをコレクションのアイテムに合わせるのが好きですし、自然に囲まれたコペンハーゲンで生活しているのでアウトドアの機能性はとても身近な存在なんです。さまざまなコラボレーションを通して、「セシリー バンセン」の“リアルな着こなし方“を伝えることができるようになったと感じています。

WWD:そんなコラボレーションのパートナーを選ぶ際の基準は?

セシリー:大前提となるのは、私たちと同じレベルでクラフツマンシップに向き合っていること、そして学びのある相手であること。単なる色替えのような“表層的“なコラボレーションは行いませんし、“一緒に開発し、ハートを込めて作ることができるか?“がとても重要だと思っています。

WWD:これまで日本ブランドとのコラボに加え、ホンマタカシやイマノフミコといった日本人クリエイターとも取り組んできた。度々来日もしているが、日本に対する印象は?

セシリー:少なくとも年1回は日本を訪れていますが、日本はブランドにとって特別な存在です。日本の皆さんは設立初期から熱心にサポートしてくれていて、街で着用されている姿を見ると本当に感動します。感性やミニマリズム、クラフトへの敬意はデンマーク人との共通性を感じますし、自然とのつながりを大切にするという点もそうですよね。私自身、来日した際には東京だけでなく、温泉地や山へ行くことをいつも楽しみにしています。

ビジネス面では、日本はアメリカに次ぐ2番目に大きな市場です。日本での常設店に関しては、まずはポップアップやショップ・イン・ショップの展開を続けながら、最適な形を探っていきたいと考えています。

WWD:この時代にインディペンデント・ブランドとして10年続けることは簡単ではない。ブランドを続けていくための秘訣は?

セシリー:自分を支えてくれる強いチームを持つこと、そして未来を見据えた戦略を立てることでしょう。また、ショーのスペクタクルだけでなく、実際に女性が着たいと思う服を作ることを大切にしています。お客さまの声を聞くことは、何よりのインスピレーション。コペンハーゲン・ファッション・ウイーク期間中にスタジオを一般開放した時も外の世界との対話が大きな学びになりましたし、ポップアップやコペンハーゲンのお店に来るお客さまの着こなしからヒントを得ることもあります。

WWD:次の10年を見据えて、今考えていることは?

セシリー:まずはコペンハーゲンのお店を“クリエイティブ・ラボ“、つまり音楽や空間、ムードなど全てを通してブランドの世界観を体験できる場に育てていきたいですね。また、ブランドの核に忠実でありつつもジュエリーやオリジナルのバッグを通して、提案するワードローブをさらに広げていきたいとも考えています。

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