
デンマーク発「セシリー バンセン(CECILIE BAHNSEN)」が、ブランド設立10周年を記念するショーをコペンハーゲン・ファッションウイーク(Copenhagen Fashion Week)で開催した。同ブランドはパリでの発表を継続しており、ルーツであるコペンハーゲンでのショーは約3年ぶり。原点に立ち返るこの機会には、現チームのみならず過去に携わったスタッフも招かれ、10年間の歩みを共有する特別な空間となった。
会場は、かつて工場地帯として栄え、今は再開発で活気づくエリアの屋外スペース。厚い雲が空を覆う中、透き通るような淡いトーンのドレスが連なり、幻想的なムードで独自の世界観を展開した。披露されたのは、過去のアーカイブを再構築した特別なコレクションで、白の色調で統一したカラーパレットは、白紙から新たな地図を描くという意思表示のようにも感じられた。色彩を極限まで抑えることで、衣服そのものの構造や素材感が際立ち、ブランドの真骨頂である彫刻的フォルムや奥行きのあるレイヤリングが鮮明に際立つ。幾重にも重なるフリル、空気を孕みふわりと広がるバルーンスカート、後ろ身頃にのみボリュームをもたせたバッスルスタイルなど、これまで築き上げてきたシグネチャーシルエットがより大胆に再構成されていた。背面を大きくカットアウトして肌を覗かせたり、風に揺れるリボンが甘美な余韻を残すなど、前後で異なる表情を見せるブランドらしい手法も随所に光る。
10年間に確立したもう一つの軸は、レイヤードによるスタイリングの多様性だ。ショーでは、ランニングウエアに着想を得たレースやチュールのベストに、ショートパンツやフーディーなどスポーティな要素を重ね、ドレスのロマンティックな側面に対比をもたらした。10年間で少しずつ拡張させた、主役となるドレスを引き立てるこれら名脇役のピースは、着こなしの可能性を広げ、顧客を飽きさせない秀逸な提案であり、ブランドを成長へと導いた重要なアイテムである。そしてディテールを彩るのは、波打つようなボリュームドレスを支える繊細なスパゲッティストラップ、肩がずり落ちたようなアシンメトリーなショルダーライン、刺繍やレースの装飾。脆く繊細な表情と、構造的で力強い造形が同居するドレス群には、ブランドが追求してきたコントラストの美学が濃縮されていた。
それらを形作るのは、シルクタフタや立体的なジャカード、凹凸感のあるワッフル地、オーガンジーやレースなど、多彩なテクスチャーのファブリック。2017年度「LVMHヤング ファッション デザイナー プライズ(LVMH YOUNG FASHION DESIGNER PRIZE)」のファイナリストに選出された際に評価を受けた、緻密な手仕事によるテキスタイルはセシリーの代名詞でもある。ドラマチックなシルエットと脱構築的な手法には、「ジョン ガリアーノ(JOHN GALLIANO)」でのキャリア初期の経験が色濃く反映されているようだ。その後に、ロンドン発「アーデム(ERDEM)」とコペンハーゲン発「スティーヌ ゴヤ(STINE GOYA)」で培った感性は、繊細な生地選びや色彩感覚に見受けられる。
ガーリッシュな側面を強調させた世界観が、決して“コスチューム”に陥らず、日常に溶け込む装いとして提示するのも「セシリー バンセン」が競合ブランドと一線を画す所以だ。それを象徴するのが、2023年から継続する「アシックス(ASICS)」とのコラボスニーカーであり、今回のショーでも足元が統一されていた。過去には、トラッキングブーツや「スイコック(SUICOKE)」との協業によるサンダルなど、コペンハーゲンのローカルスタイルから着想を得た、抜け感を演出する足元は設立当初から一貫するアプローチ。ウェディングドレスとしても成立する純白ドレスを、巧みにリアルへと落とし込むバランスが、ブランドのアイデンティティを支えている。
フィナーレでは、ディスコボールのように輝くシルバードレスから、キルトをドレープして体を包み込むドレスが登場。直後に打ち上げられたシルバーの花火が、モデルのメイクや装飾とリンクし、祝祭感とともにショーを締めくくった。そして翌日には、ブランド初となるアポイントメント制のフラッグシップストアをコペンハーゲン中心地にオープンさせた。10周年の節目は、歩んできた足跡を辿る機会であると同時に、さらなる高みを目指すための出発点となったようだ。コペンハーゲンの空の下で響いた花火が、次なる10年へと向けた新章の始まりを告げていた。