中国の調査会社、艾媒諮詢(iiMedia Research)によると、中国の化粧品市場は今年4781億元(約8兆5110億円)規模に達するという。市場拡大の中で参入企業も増えており、新しい売り場やプロモーションが登場する中、美容ブランドの戦いも少しずつ変化している。その一端が垣間見れるのが、年間最大の商戦である独身の日セール(W11)だ。
今年の独身の日商戦は“静かなセール”と言われた。例年であればセールを盛り上げるさまざまな仕掛けが行われ、終了後には売り上げ速報が大々的に報じられてきた。しかし今年は商戦前に、中国当局が「理性的な消費をするように」と通達。お祭り騒ぎを“自粛”するムードが漂った。
中国への越境ECの支援やマーケティング事業を行うトレンドエクスプレスの濱野智成代表は、「独身の日のセール期間(10月20日~11月19日)、ウェイボー(Weibo)における投稿件数は前年比で半分以下に減少した。中国当局から通達が出たことで、プラットフォームもユーザーも例年のように消費を煽るキャンペーン投稿などを行わず、控えめな対応に終始した結果だ」と振り返る。
中国のビッグデータサービス・星図データ(SYNTUN)の調査によると、独身の日セール期間、オンライン全体の美容販売額は前年比35.5%増の547億元(約9765億円)に達した。販売額の53%を占めるTモール(T-MALL)の美容ブランドランキングは、上位10ブランドのうち9つが海外勢。1位から順に「ロレアルパリ(LOREAL PARIS)」「エスティ ローダー(ESTEE LAUDER)」「ランコム(LANCOME)」「SHISEIDO」が並ぶ。
話題性ではどうか。トレンドエクスプレスはSNS上の独身の日に関する口コミを調査。化粧品に関する投稿が多い“中国のインスタグラム”こと小紅書(RED)で、「W11」「買った」「ブランド名」のワードで投稿を抽出してランキング化した。中国は購買の指標として口コミを重視する傾向が強く、SNSでの話題性は売れ行きに大きく影響する。
SNSの口コミランキング上位にはTモールの売れ行きと同じく欧米ブランドが並んだが、4位の「SHISEIDO」は口コミでは12位だった。この差について濱野代表は、「依然コロナ禍から抜けきらない世界経済と消費市場の中で、欧米ブランドは高成長を維持する中国市場に年間を通じて例年以上のマーケティング投資を行っている。結果として表れたのだろう」と解説する。 1位の「ランコム」は、Tモール旗艦店でのライブコマースの合計視聴者数がおよそ599万人に達した。加えてトップKOL(Key Opinion Leader)によるライブコマースも実施し、大きな注目を浴びた。
ただしトップ3はいずれも通年で大規模なマーケティング投資を続けており、「どこがトップでもおかしくない印象」と濱野代表。欧米ブランドが赤字覚悟で投資攻勢を続ける中、日本企業について濱野代表は「中国ブランドとの厳しい競争環境の中で、資生堂や花王がトップ20にランクインしているのは大健闘。今後の事業成長も期待できる」と説明する。
また化粧品販売の主戦場であるTモールはその性質上、プラットフォームが押し出す商品が売れ筋に入りやすい。そのため欧米ブランドのように既に有名で、巨額投資を行う企業が強い。そうではないブランドは、別の手段も検討すべきだろう。
最近では中国版ティックトック(TikTok)の抖音や、それに似たショート動画アプリの快手(Kuaishou)などもEC機能を強化。両アプリの動画コマース、ライブコマースは他社と比較すると売り上げ規模は小さいが今後の成長が見込めることから、中国企業を中心に参入ブランドが増加している。特に抖音は今後の方針として掲げる「興味EC」に注目が集まっている。「興味EC」とは消費者自身の潜在的なニーズを掘り起こすとともに、その需要に対して出店業者が消費者にリーチするというもの。こうした新しい動きも含め、ミニプログラムやソーシャルバイヤー(代購)など、多様な選択肢があるのも大きな中国市場ならではだ。