英国人トップメイクアップアーティストの一人、パット・マクグラス(Pat McGrath)が手掛ける「パット・マクグラス ラボ(PAT McGRATH LABS)」を巡っては、長年憶測が飛び交ってきた。業界関係者によると、同ブランドの資産が売却に向けて市場に出されているという。この売却プロセスは、企業再生や資産売却の専門会社ヒルコグローバル(HILCO GLOBAL)が管理しているとみられる。関係者によれば、今回の売却対象には、ブランド運営するパット・マグラス コスメティクス(PAT McGRATH COSMETICS)及びマグラス本人が差し入れている担保資産が含まれるという。
「パット・マグラス ラボ」の広報担当者は、「ブランドが持つ永続的な強さとクリエイティブ・リーダーシップに見合う財務体制を整えるため、現在、パートナーと共に事業再編および再資本化を進めている。これらのプロセスは2026年初頭に完了する見込みで、強力なイノベーションのパイプライン、パートナーのコミットメント、そして情熱的なグローバル・コミュニティーからの揺るぎない支援により、健全かつ生産的な環境のもとで前進できると考えている。良いニュースとして、年初から売り上げは大幅に伸びており、新年に向けて勢いを感じている」とコメントした。ヒルコグローバルは詳細について言及しなかった。
ファッションウイークの第一線で何十年も活躍し、スタッズをあしらった唇や金色の眉など革新的なランウエイルックを生み出してきたマグラスは、15年に自身のメイクアップブランド「パット・マクグラス ラボ」を立ち上げた。第1弾の製品は、40ドル(約6000円)のマルチユースのゴールドピグメントで、特注のスパンコールをデザインしたバッグに入った限定品として発売し、公式サイトでは6分で1000個が完売した。
18年には、仏投資会社ユーラゼオブランズ(EURAZEO BRANDS)から6000万ドル(約94億円)の資金調達を実施。当時の業界関係者によると、企業評価額10億ドル(約1570億円)超で、同社は5〜8%の株式を取得したとされる。しかし近年はセフォラ(SEPHORA)やアルタ ビューティ(ULTA BEAUTY)などに展開する中、オペレーション上の課題に直面。経営陣の交代や人員削減を行い、現在の評価額はかつての水準から大きく下がっているという。数年前にはユーラゼオが水面下で保有株を売却していた。
業界関係者によれば、「パット・マクグラス ラボ」の昨年の売上高は約5000万ドル(約78億円)だった。3月には、マグラスが「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」のコスメティック部門のクリエイティブ・ディレクターとして手掛けたメイクアップライン“ラ・ボーテ ルイ・ヴィトン”が発売され話題となり、自身のブランドへの影響を巡って憶測を呼んでいる。マグラスは当時の記者会見で、「美を作るということ、しかも単なる美ではなく一つの世界、一つの惑星を築くことができた。それはまさに宇宙であり非常に楽しい経験だった」と語っていた。