ファッション
連載 鈴木敏仁のUSリポート

「店舗ピックアップ」という新常識 ラストマイルの攻防(前編) 鈴木敏仁USリポート

 アメリカ在住30年の鈴木敏仁氏が、現地のファッション&ビューティの最新ニュースを詳しく解説する連載。コロナを経て、小売業では消費者のもとに届くまでのサービス合戦がし烈になっている。2回にわたって、米国のラストマイルの攻防についてリポートする。

 小売企業にとっての物流とはもともと製造から小売りまでの商品の流れを指してきたが、Eコマースの市場成長に伴って小売りから消費者までも含まれるようになってきた。この2つを区別するために、前者はファーストマイル、後者はラストマイルと呼ばれる。サプライチェーンもファーストマイルを意味する用語だったが、今の時代は製造から消費者までの全物流フローを指すことが多い(ちなみに小売段階の商品フロー、店間移動やセンターと店舗間の物流はミドルマイルと呼ばれる)。

 特にアメリカは一定規模になると自社物流化するので、小売業界にとってファーストマイルのプライオリティーは高く、長く効率化にいそしんできた。そのためウォルマート(WALMART)やコストコ(COSTCO)といった大手小売企業のファーストマイルの技術は高く、サプライヤーによる評価も非常に高い。

 ところがECの成長で突然ラストマイルという、それまで考えることもなかった新たな取り組み課題が突きつけられてしまった。この分野で先駆けているのはもちろんアマゾン(AMAZON)で、ラストマイルの自社物流化を進めて、今年中には物量で専門企業のUPSやフェデックス(FEDEX)を抜くという話も出てきているほどとなっている。

 ファーストマイルは既存の小売企業の方が強いが、ラストマイルはアマゾンが強い、このアマゾンに負けている分野で追いつこうと各社それぞれが試行錯誤を繰り返している、これが今の米小売業界の現状である。

コロナ下で明暗を分けた店舗ピックアップの備え

 ラストマイルは大きく、“センター発”と“店舗発”に分類することができる。また店舗発は“宅配”に加えて“店舗ピックアップ”も分類として加えたい。この店舗ピックアップをアメリカではBOPIS(バイオンライン、ピックアップインストア)と呼ぶ。

 パンデミック時にファッション業界は非エッセンシャルと見なされて、多くの企業が店舗閉鎖を余儀なくされた。店舗というチャネルが閉じてしまい、販売チャネルがECだけになってしまうという想像もしなかった窮地に追い込まれた。ルルレモン(LULULEMON)といった一部の優秀な企業を除いて専門店チェーンの多くは店舗発の準備をしてこなかったので、慌てて取り組み始めたのであった。

 そしてこのおよそ2年間で分かってきたこと、または定着してきた基本的な考え方は、最優先すべき取り組みは“店舗ピックアップ”に重心を置くということである。ECの普及は止めることのできないトレンドなので、どうぞECで買って下さい、ただしぜひ店舗に来て下さい、というスタンスである。

 小売企業にとって最も価値のある資産は店舗と店員であり、これを有効活用することこそがEC企業との差別化要因となるので、これは当然の考え方である。またアマゾンが業界スタンダートとしてしまった、一定の買い物額を超えると宅配料フリーという条件は、黒字化への大きなハードルとなり、“宅配”か“店舗ピックアップ”か、という選択肢ならば、小売企業が後者を選ぶのは必然である。

 アマゾンはAWS、今はデジタル広告を強化していて、EC以外で儲けを出す仕組みを持っており、同列に並んでいたら勝つことはできない。

 そのため多くの企業が店舗ピックアップの宣伝に努めており、消費者も受け入れていて、今後は店舗ピックアップが増えるだろうという見通しを立てる調査企業が多い。

店舗から2時間以内で届ける

 以上を大前提として、店舗発の次の選択肢として存在するのが宅配ということになるのだが、宅配にはUPSやフェデックスといった既存の宅配企業を使う通常宅配の他に、短時間で届ける(通常は2時間以内)短時間宅配がビジネスとして急成長して、ここにも選択肢が生まれることになった。

 アメリカではオンデマンド・デリバリーと呼ばれる。日本にはウーバーイーツ(UBER EATS)が進出しているのでご存知のことと思うが、買物代行だとこのビジネスモデルの本質を見間違うと思っているので、私はオンデマンド型短時間宅配と呼ぶことにしている。

 もともとはスーパーマーケット業界と外食業界からスタートしているのだが、利用する小売りや外食企業が増え、ネットワークが大きく広がって、いまは衣料品やビューティといったファッション業界も普通に使う時代に入っている。ノードストロム(NORDSTROM)やメイシーズ(MACY'S)といったデパートメントストアは言うに及ばず、ギャップ(GAP)やセフォラ(SEPHORA)といった専門店チェーンも導入している。

 その規模はもはや小売りや外食といった彼らを利用する側を超えており、小売りや外食が彼らを使うのではなくて、小売りや外食を彼らが囲い込んでいると理解すべきだと私は考えている。買物代行という表現はそのビジネスの一部しか表しておらず、だから見間違うと書いたのだが、その理由は次回詳しく解説する。

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