古典の名著であればあるほど、読み込んでいないことがある。誰もが知る老舗ホテルも同様。実はしっかりと対峙しておらず、「きっとこんな感じ」と頭に思い浮かべたイメージで、知っている気になりがちだ。けれど「名作」こそ進化し、時代に合ったサービスを提供しているのが令和のホテル業界なのだ。
長い歴史を紡いだ老舗なのに新鮮、
といううれしい矛盾に満ちた空間
千代田区丸の内1丁目1番地1号に位置し、日本のラグジュアリーホテルの原点というべき、「パレスホテル東京」はまさしく、そんな一例。1月某日、「Retreat & Restart 〜Sleep〜」という質の高い睡眠で心身をリフレッシュさせる宿泊プランを体験して、アップデートされた新鮮さと、老舗ならではの安心感に包まれた。名作、やっぱり凄い!
まずその歴史をひも解こう。前身は、GHQ (連合国軍最高司令部) の命令による国有国営のホテル。その後、1961年に「パレスホテル」として開業され、2012年に「パレスホテル東京」として全面リニューアルを果たした。「フォーブス・トラベルガイド」ホテル部門に日系ホテルで初の5つ星を獲得。ミシュランガイドでも、最高評価の3ミシュランキーに2年連続で選出されるなど、世界で評価されている。客室の約6割がプライベートバルコニー付きというのもリュクスだ。
建て替え当時、皇居ランナーとして週に何度かぐるぐる回っていたのだが、徐々に高くなる「パレスホテル東京」はよい目印であり、励みとなった。新しいビルは皇居を向く側の角度を微妙に変え、波打つように設計されている。約6割の客室がプライベートバルコニー付きであり、この微妙な角度が他の客室からの視線を遮っている。東京駅や東京タワーまで見通せるお濠ビューに圧倒されるだろう。この眺めこそ、「パレスホテル東京」が唯一無二のラグジュアリーホテルたるゆえんだ。
贅沢な客室を100%堪能する
ラグジュアリーなおこもり旅
客室のデザインはそれぞれだが、眺望がすばらしい点では共通。そして私が滞在したデラックスキングwithバルコニーは、ベッドやリビング越しに入浴中も東京の街を見通せるというユニークなデザインだった。バスタブにつかりながら眺める、暮れゆく街はなんとも幻想的。もちろんスクリーンで目隠しし、扉を閉めて洗面スペースを仕切ることはできるのだが、ここはぜひ、非日常的な開放感を味わってほしい。
さてこの睡眠プランでは質の良い眠りに導くハーブティーをルームサービスで頼め、枕もそば殻や抗アレルギーなど8種からセレクトできる。複数の枕を選ぶこともできたので、私はダウン&フェザーと低反発タイプを比較してみることにした。せっかくなので、チェックインからチェックアウトまで、フルでこの贅沢な滞在を味わい尽くしたい。
食事もインルームダイニングを試すことに。いわゆるルームサービスと一体何が違うの?と思っていたのだが、全く別物だった。「出前」の感覚のルームサービスと違い、インルームダイニングでは、テーブルクロスがしかれ、グランメゾンさながらの給仕。ネーミング通り、部屋がそのままレストランに変身したような感覚に。それなのに、お造りとシュウマイを前菜に、メーンはパスタと鍋焼きうどん、などさまざまな料理を組み合わせられるメリットも。少しずつシェアするのも楽しそうだ。客室内だからこその自由さがある。部屋で推し会なんて。なんとも優雅な企画も可能だ。
ちなみにこの睡眠プランはパーソナルトレーナーとともに周回する皇居ラン、夜のヨガセッション、世界で3軒というエビアン スパでの限定ボディトリートメントの3つから選べるアクティビティーも。私は眠りに特化した限定ボディトリートメントを受けるので、さくっと食事を済ませる必要もあり、スープとパスタに。バルコニーで食後のハーブティーを味わうなど、豊かな時間となった。
都会のホテルでありながら
バカンス気分を堪能できるスパ
施術をより効果的にするために、アポの時間よりかなり早めにエビアン スパの温浴施設へ。ジムやプールも併設した総合的なフィットネス施設だが、このお風呂とリラクゼーションルームは芯からほぐれるようで、ゆったり過ごしたくなる。トリートメントは質のいい眠りを導入することが目的だけに、さするような優しいマッサージ。いつもはギュギュギュッ、グイグイと力任せな強めの施術が好みなのだが、今回はソフトタッチが心地よく、施術中に深い眠りに落ちてしまいそうだった。
このまますとんとベッドに入るのが一番だとは理解しつつも、好奇心にはあらがえなかった…! 伝説のマティーニを味わいに、メインバー「ロイヤル バー」へ。初代チーフバーテンダー今井清氏が設計した当時のカウンターが残る、旧「パレスホテル」の歴史を象徴するバー。ジンやグラスを提供する直前まで冷蔵庫で冷やすスタイルもこのバーから始まったとか。こんなキリッとしたカクテルを飲んだら意識もしゃっきりしてしまいそうだが、隠れ家に迷い込んだようなおこもり空間が心地よく、ちょうどいいナイトキャップになった。そして知る人ぞ知る名カクテル、ミルクを使った「パレス ジンフィズ」にもトライ。こちら、昼間からちょっとお酒をあおりたい当時の進駐軍の将校が、明るいうちからこっそり飲みたい、とアルコールと気づかれぬよう、ミルクをたっぷり入れたという逸話が。オトナのカルピスソーダといった爽やかさで、さらりと飲めるのだ。これはクセになる。
このバーはフロントのある1階にある。アクセスしやすいエントランス近くなのは、宿泊者以外のゲストにも気軽に立ち寄ってほしいという創業時からのこだわり。ここならば確かに1人でふらりと入れるなあ、と実感。そしてオーセンティックな老舗バーとは思えないほど、フードメニューが充実しているのだ。隣接するレストランと連携できるホテルバーの強みだろう。5時から営業していて、チェックイン直後にも立ち寄れる。ちなみに6階の「ラウンジバー プリヴェ」ではテラス席もあり、朝から深夜までカクテルが楽しめるそう。よき睡眠には上質なお酒が、よき薬となる。
パレス前で朝食を、という
とびきり贅沢な休日に
「パレスホテル東京」といえば朝ごはん。1階のオールデイダイニング「グランド キッチン」にはお濠が目の前というテラス席や、自然光が注ぐコンサーバトリー(温室)のような空間もあり、皇居外苑の風景と一体化できるのだ。ホテル内に本格的なベーカリーがあり、パンは焼きたて。ミルクもローファットや豆乳、オーツミルクやアーモンドミルクまでそろい、ヘルシー。もちろん和食や、チャーハンなどの中華も充実して目が泳ぐ。友人のホテルジャーナリストが「『パレスホテル東京』の朝食は本気で挑め」と熱く語っていたのも納得。質だけでなくバリエーションがすごいのだ。
チェックアウトの12時まではプライベートバルコニーで絶景を独り占めし、皇居外苑のお隣という贅沢を味わう。なんてスペシャルな朝!バカンスは自宅から10数キロでも実現できる。1日の滞在でも、心も体もエナジーを満たし、魂までチューニングできた。
唯一の反省は、早朝の誰もいない皇居ランを楽しむぞ!と張り切っていたのに、深い睡眠があまりに心地よく、二度寝、三度寝。施設外へは一歩も外に出なかった。バルコニーから見下ろす風景が素晴らしすぎて、客室のプライベート空間を満喫しすぎた!
それにしてもこの「気」のよさ。やはり皇居はスピリチュアルなパワースポットなのだろうか。この「気」を浴びるだけでも、おお濠ビューでのリトリート旅は唯一無二だと言えそうだ。
体感しないと分からない。「名作」こそ、実際に足を運び、五感で味わうべき。知っている気になるのはもうよそう。「名作」は期待を超えてくるものだから・・・! 宿泊が頻繁にかなわなくても、各レストランやラウンジに訪れてリフレッシュしよう。ベーカリーなら気軽に通える。そう、誓った初「パレスホテル東京」滞在だった。