
2026-27年秋冬メンズコレクションサーキットの現地取材は藪野淳・欧州通信員と本橋涼介ヘッドリポーターが担当しました。1月16日から20日は、ミラノ・メンズ・ファッション・ウイーク。ブランドのパリへの流出などによってショーが減少傾向にあるミラノですが、その分腰を据え、プレゼンテーション形式でじっくりとコレクションの魅力を伝えようとするブランドも増えています。今回は後半のハイライトをお届けします。
後半に行われた「ジョルジオ アルマーニ(GIORGIO ARMANI)」のショーリポートは別途掲載しているので、こちらもぜひご一読を。
「ポール・スミス」 は、若い視点を交えてアーカイブを再解釈
藪野:「ポール・スミス(PAUL SMITH)」のテーマは、「マグパイ・ドレッシング(magpie dressing)」。光るものを集める習性のあるカササギや、何でも収集する人を意味する「マグパイ」になぞらえ、“宝物を集めること”の喜びに着目しました。
「新鮮な視点が、私にエネルギーを与え、物事を新しい光で見せてくれる」と話すポールさんは今回、メンズデザイン部門の新たなヘッドに就任したサム・コットン(Sam Cotton)や若いチームと共にコレクションを制作。創業の地ノッティンガムにあるブランドのアーカイブ施設に保管されている約5000点のアイテムから、主に1980年代後半から90年代初頭にかけてのスタイルを掘り下げ、現代的に再解釈しました。
印象的だったのは、ゆったりとしたシルエットのボクシーなジャケットやコート、そしてローウエスト気味で穿くモデルも見られたワイドパンツ。クラシックなスーツ地やドニゴールツイードを多用しながら、アノラックなどのユーティリティーアイテムやヘンリーネックトップス、フェアアイルセーターと合わせ、ミックス感のあるスタイルに仕上げています。また、ポールさんがスーツを日々身にまとうように、「日常に根差したユニフォーム」としてシャツとネクタイを愛した芸術家ジャン・コクトー (Jean Cocteau)から着想を得たタイドアップスタイルも繰り返し登場。ただ、スタイル全体にはフォーマル感よりもユルさが漂い、それが若々しい空気感につながっています。
「ダンヒル」はスパイに着想 隠れた技巧の“ステルシー・ラグジュアリー”
本橋:「ダンヒル(DUNHILL)」の展示会ではクリエイティブ・ディレクターのサイモン・ホロウェイ自身に会場を案内してもらいました。彼が繰り返し口にしていたのが「シネマティック(映画的)」や「ステルシー(隠密的)」という言葉。最近のトレンドである「クワイエット・ラグジュアリー」のその先、もっと深くて危険な香りのする「スパイ映画のような世界観」が、今回のコレクションの核心です。
今季のミューズは、写真家であり、「スノードン伯爵」としても知られるアンソニー・アームストロング=ジョーンズ。サイモン曰く、彼は「非常にフォーマルな貴族階級のスタイル」と「60年代ロンドンのクリエイティブな時代精神」を併せ持った稀有な存在。彼をテーマに据えた理由をサイモンに尋ねると、「僕がスパイ映画やドラマを見過ぎたせいかもね」とお茶目に笑っていました。
スパイ的な「隠密性」は、素材使いに表れていました。サイモンお気に入りのルックに使われている「レザー・ジーンズ」は一見チャコールグレーの5ポケットパンツなのですが、実は仏ラムスキン製。しかも、レーザーカットした革を手作業で「不可視(invisibly)」につなぎ合わせ、ウールカシミアとボンディングするなど、かなりの技巧を凝らしています。
他にも、毛足をあえてプラッキング(引き抜き加工)してマットな質感に仕上げた「ジェントルマンズ・アルパカ」や、スペイン王室由来で、現在はニュージーランドの特定の群れからしか採れないという希少な「エスコリアル・ウール」を使ったスーツなど、生地オタクも唸るラインアップです。
「パッと見は普通に見えるけれど、実はとんでもないスペックを秘めている」。クワイエット・ラグジュアリーを超えた「ステルシー(Stealty)」なラグジュアリーの魅力に引き込まれました。
動物だらけの「エトロ」 鍵はリアリティーと奇抜さのバランス

「エトロ(ETRO)」は、小さな部屋に頭部が動物になったマネキンをズラリと並べ、メンズ・コレクションを披露しました。そのインスピレーション源は、1997年に制作された同ブランドのキャンペーン「アニメン(ANIMEN、イタリア語ではANIMUOMINI)」。当時、モデルの頭に動物をハイブリッドしたビジュアルが強い印象を残したキャンペーンでした。それを「『エトロ』がメンズウエアの新しい章を開き、独自のアプローチを示し始めた瞬間だった」と捉えるクリエイティブ・ディレクターのマルコ・デ・ヴィンチェンツォ(Marco De Vincenzo)は、動物的な本能と理性が混ざり合う人間らしさを見つめたといいます。
ウィメンズでは華やかでマキシマリズムなクリエイションを続ける一方で、メンズは昨シーズンかなりコンサバにシフトした印象でしたが、今季はマルコらしさがカムバック。クラシシズムと遊び心が交錯するスタイルを提案します。例えば、タイドアップしたシャツを合わせたチェックのスーツは、ジャケットの縁やパンツのサイドラインに小さなフェザーを装飾。レザーのバイカージャケットにはカービングで動物モチーフを描き、シンプルなウォッシュドジーンズやボーダーのポロニットと合わせます。
そして象徴的なペイズリー柄は、シャツやパンツからベルベットのローブコートやパジャマにまで採用。ダークブラウンやフォレストグリーン、バーガンディー、アンバー、インディゴといった秋冬らしい深みのある色合いが全体をまとめ上げています。
もちろん万人向けとは言い難いスタイルですが、マルコが考える「エトロ」の男性像は、リアルな感覚を失わないエキセントリックな人。「細部に遊び心のあるファッションを楽しみ、フォーマルなスーツで決める日もあれば、ベルベットのパジャマを着る日もあるような人」と説明します。以前ランウエイショーを行っていた頃に比べ、大人しくなっていた印象のメンズですが、今季は彼が大切にするファッションの楽しさとリアリティーがほどよいバランスで表現されていました。
「トッズ」は“リアルな男性像”に回帰 最高峰レザーと新アイコンで魅せる
本橋:今回の「トッズ(TOD'S)」のプレゼンテーションは、会場には従来のようにモデルを立たせませんでした。会場で公開した映像に登場するのは、実在する建築家やデザイナーといった「リアルなイタリア人男性」たち。クリエイティブ・ディレクターのマッテオ・タンブリーニが意図したのは、服に着られるのではなく、自身のキャラクターで服を着こなす「本物の男たち」の姿です。
今季も引き続きプッシュするのは“パシュミー”シリーズです。トッズのレザーにおける品質基準(クオリティ・コントロール)は元々高いのですが、その基準をさらに超え、お眼鏡にかなった「最高峰のものだけ」に与えられる称号。パシュミナのように軽く、滑らかなそのレザーは、新作の「カステッロ(Castello)ジャケット」やバックパックにも贅沢に使用しています。新たなスタープロダクトとして“レッド ドット”シリーズもプッシュ。シンプルなスニーカーやスリッポンなのですが、ヒール部分に小さな「赤いドット」があしらわれ、この小さな点ひとつで「トッズである」と象徴する。
ブランドの定番“ウィンター ゴンミーノ”もアップデートしていました。今季は「原点回帰」を掲げ、極力オリジナルのソールやプロポーションに戻しているそう。会場では職人がアンティーク加工やハンドステッチの工程を実演していました。クラシックなルックスの一方で、ライニングにはカシミアやシアリングを採用し、雪山でも耐えうる機能性を秘めています。
今季は、メンズとウィメンズの境界がより薄くなったことも印象的でした。マッテオ・タンブリーニ体制になり、ウィメンズのバッグのディテールがメンズに採用されたり、チャーミングなバッグチャームが登場したりと、融合が進んでいます。
暖冬を逆手に取る、「ヘルノ」の機能美とリアリズム
「ヘルノ(HERNO)」はピッティに引き続き、ミラノでもコレクションを拝見。2026-27年秋冬コレクションのテーマは「アーバン・トラベラー(Urban Traveler)」。都市と自然、移り変わる気温やスケジュールを軽やかに駆け抜ける現代の男性像を、ポートレートのように描き出しました。
コレクションは「オリジン(Origin)」「アドバンスト(Advanced)」「エクセレンス(Excellence)」という3つの物語で構成。ブランドの核である「ダウン」にあえてフォーカスしながらも、真冬の防寒着ではなく、9月の初秋からTシャツやデニムの上にさらりと羽織れる「薄手のアウター」としての提案が目立ちます。
個人的に注目したのは、「アドバンスト」ラインに見られた、濡れたような光沢を放つグロッシーなダウンジャケットです。特に新モデルの“アブソリュート・ブラック”は、合繊素材では表現が難しい「究極の黒」を追求。1型1色のみの展開という潔さが、スポーティーな枠を超えたモードな迫力を生み出していました。イタリアの老舗らしい職人技と、現代の気候やマーケットに即応する柔軟さ。「ヘルノ」ならば、暖冬という逆境さえスタイルの味方に変えてしまいそうですね。