ファッション

自然との対話、衣服の継承 「ゼニア」「ブルネロ クチネリ」それぞれのアティテュード【2026-27年秋冬ミラノ・メンズダイジェストVol.1】

2026-27年秋冬メンズコレクションサーキットが始まっています。今回の現地取材は藪野淳・欧州通信員と本橋涼介ヘッドリポーターが担当しています。1月16日から20日は、ミラノ・メンズ・ファッション・ウイーク。ブランドのパリへの流出などによってショーが減少傾向にあるミラノですが、その分腰を据え、プレゼンテーション形式でじっくりとコレクションの魅力を伝えようとするブランドも増えています。今回は前半のハイライトをお届けします。

「ラルフ ローレン(RALPH LAUREN)」と「セッチュウ(SETCHU)」「プラダ(PRADA)」のショーリポートは別途掲載しているので、こちらもぜひご一読を。

「ブルネロ クチネリ」はアウトドアとエイジングで自然と対話

本橋:「ブルネロ クチネリ(BRUNELLO CUCINELLI)」の今季のテーマはラテン語で「ARS IMITATUR NATURAM(芸術は自然を模倣する)」。このテーマを、ブランドは2つの視点でコレクションに昇華させました。

1つ目の解釈は「自然との対話」としてのアウトドアです。この哲学を現代の都市生活に落とし込んだのが、「コンテンポラリー・エクスプローラー(現代の探検家)」というスタイル。象徴的なのは、製品染めで味を出したカーゴパンツやグルカパンツに、あえてタイドアップしたジャケットを合わせるバランスです。

一見すると英国調で構築的なキャバルリーツイルのジャケットも、袖を通すと驚くほど軽いのが特徴。その秘密は、裏面に14ミクロンの極細カシミヤシルクをビーバー仕上げで貼り合わせたダブルフェイス仕様。機能的なギアと優雅な仕立てを高度にミックスし、洗練されたスタイルを完成させました。

そしてもう1つの解釈が「エイジング(経年変化)」です。展示会で注目を集めたのは、木型に細工を施して新品ながら履き込んだようなシワを表現したレザーシューズ。これは完成品に後から加工を施したのではないそうです。木型(ラスト)の甲の部分に紐状のものを巻きつけ、その上から革を吊り込むことで、成形段階から有機的な凹凸を生み出しているとのこと。コードバンのような重厚な光沢と、最初から足に吸い付くような柔らかさを両立させるこの手法は、効率を度外視した職人技なくしては成立しません。ウェアでも、10種類以上ものバリエーションを見せたメタルボタンにはヴィンテージ加工が施され、コーデュロイは朝の霜が降りたような「フロスティッド加工」で白んだ表情を見せるなど、「時間」をデザインの一部として取り込んでいます。

なぜ今、「エイジング」なのか。そそこには創業者のブルネロ・クチネリ氏が掲げ続ける「人間主義的資本主義」との深い結びつきがあります。使い捨てのファストファッションとは対極にある、「物を慈しみ、長く使い続けること」への賛歌。時間を経てなお美しさを増す素材の表現は、人間性と自然との調和を重んじるブランドの姿勢が、単なる理想論ではなく「モノ作り」として結実していました。

ミラノ帰還の「ゼニア」はタイムレスな衣服の継承を描く

藪野:昨シーズンはドバイでショーを行った「ゼニア(ZEGNA)」が、ミラノ・メンズに戻ってきました。エントランスを抜けて、まず目に入ったのはガラスケースに収められた一着のジャケット。それは、1930 年代にエルメネジルド・ゼニアのためにオーダーメードで仕立てられた最初のスーツ”ABITO N.1”でした。そしてショー会場の中に入ると、そこはまるで巨大なウォークイン・クローゼット。床には形も柄もさまざまな絨毯が敷かれ、中央に設けられたクローゼットのセットには創業家3代目のジルドとパオロの私物、そして先祖から受け継がれてきたテーラードピースやシューズ、傘などが並びます。

そんな今季のテーマは「ファミリー クローゼット(A FAMILY CLOSET)」。「衣服とは私たちが選び取る“外側の皮膚”として、人生そのものを書き綴る日記のページのような存在」と考えるアレッサンドロ・サルトリ(Alessandro Sartori)=アーティスティック・ディレクターは、家族のクローゼットの中で丁寧に守られてきた持ち物のバトンパスを描いたといいます。

コレクションの軸は、テーラリングを核に再解釈したタイムレスなワードローブです。例えば、ファーストルックにも登場したスタンドカラーの”イル コンテ”ジャケットは、やや着丈を伸ばし前立てのボタンを減らすことでよりミニマルな印象にアレンジ。ジャケットやコートのシルエットは角ばった肩とリラックス感のあるシルエットが特徴で、水平に3つ並んだボタンによって留め方を変えられるデザインや二重構造のラペルがアクセントになっています。

そこに織り交ぜるのは、サルトリらしいルーズなタートルネックニットをはじめ、タック入りのハイウエストワイドパンツやセンタープレス入りのジーンズ、ポロセーター、襟付きのカーディガン、ショールカラーのブルゾン、ボンバージャケット、モカシン風のシューズなど。1965年に誕生した最高品質の原毛を用いた”トロフェオウール”や“オアジカシミヤ”から、ペーパーをミックスしたウールやアルパカまで「ゼニア」が誇る素材から始まるものづくりを通して、世代を超えて受け継がれ、解釈され続けていく服のあり方を示しました。

「ディースクエアード」はグラマラス×ウインタースポーツで冬季五輪に照準

藪野:毎回趣向を凝らしたショーで楽しませてくれる「ディースクエアード(DSQUARED2)」。「ゲーム オン(GAME ON)」と題した今季はゲレンデを舞台に、ブランドを象徴するグラマラスで挑発的なスタイルとウィンタースポーツを掛け合わせました。このコレクション自体が実際発売になるのはまだ先ですが、2月6日に冬季五輪が開幕するミラノで今発表するにはこれ以上ないテーマです。

タイムリーなのはそれだけでなく、ファーストルックには特に欧米で話題を集めているドラマシリーズ「ヒーテッド・ライバルリー(Heated Rivalry)」で主演の一人を務めたハドソン・ウィリアムズ(Hudson Williams)が登場。会場の外にファンがいたので、ゲストとして来場するのかと思ったら、モデルとしての起用でした。まさに常に“ミーハー”心を忘れないディーン・ケイティン(Dean Caten)とダン・ケイティン(Dan Caten)らしいですし、作中ではアイスホッケー選手という役柄も、2人と同じカナダ出身という点も、今回のショーの文脈にベストフィットです。

そんなショーで披露したのは、ボリューム満点のスポーティーなパファージャケットにスキーウエア、ホッケーのユニフォーム、クロスカントリーやボブスレーの選手を思わせるレーシングスーツ、ゼッケン風のクロップドトップス、さらにはスキープレーヤーやスノーボーダー、金メダルモチーフのレトロなセーターまでを織り交ぜたルック。アクセサリーも、スキー靴をアレンジしたヒールレスブーツやゴーグル風サングラス、ファーやパファーのミットやハットと、キャッチーで遊び心あるアイテムがそろいます。また、ナイロンジャケットの上にデニムジャケットのパーツを重ねたり、パンツは前後でジーンズとスノーボードウエアのようなデザインを切り替えたりと、「ディースクエアード」を代表するデニムも随所にミックス。「スワッガー(swagger)」とブランドが表現する自信に満ちた堂々としたアティチュードでモデルが闊歩する姿からは、ブレない世界観を感じます。

「ブリオーニ」はフォーマル&インフォーマルをラグジュアリーな質感で繋ぐ

本橋:「ブリオーニ(BRIONI)」は今季、17〜18世紀の貴族たちが教養を深めるために行ったイタリア周遊旅行「グランドツアー」をテーマに掲げ、メゾンのルーツであるローマの美意識を現代的なワードローブへと昇華させました。

コレクションを彩るパレットは、ローマの夕暮れや石造建築からインスピレーションを得た、温かみのある色彩が主役。テラコッタやダークパープル、ダスティローズといった深みのある暖色系が、チャコールグレーやネイビーといったベーシックカラーと重なり合い、イタリアの風景を想起させる有機的なグラデーションを描き出していました。中でも目を引いたのが、パープルを基調としたワントーンのレイヤードです。コート、ジャケット、タイを同系色でまとめつつも、カシミアやシルクといった異なる素材の質感を巧みに組み合わせ、華美なではない知的な色気を放ちます。

スタイリングは、フォーマルとインフォーマルの絶妙なラインコントロールが光ります。端正なビジネススーツの上に機能的なフィールドジャケットを合わせたり、タイドアップした首元に同系色のニットスカーフを無造作に巻いたりと、既存のルールに縛られない自由な着こなしを提案。また、雪山でのバカンスを想定した「マウンテン・カプセ」では、ベビーラクーンやテクニカルカシミアといった最高級素材を用い、防寒機能とラグジュアリーな質感を極めて高い次元で融合させていました。

展示されたピースを間近で確認し、改めて圧倒されたのは、ブリオーニの真骨頂である素材の「軽やかさ」。重厚に見えるダークブラウンのレザーフィールドジャケットやキャメルのブルゾンも、手染めによる陰影とラフエッジ仕上げが施され、驚くほどソフトな触り心地を実現しています。二重織りの技法を随所に用いて、構築的なアウターウェアであっても、羽織ればあくまで軽快。身体の動きに吸い付くような着用感は、「ブリオーニ」だから表現できるラグジュアリーですね。

「ドルチェ&ガッバーナ」は多様性礼賛も、モデル選定には疑問符

藪野:「ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)」は、「ザ・ポートレート・オブ・マン」をテーマに、均質化が進む現代において一人ひとりの男性が持つ個性をたたえることをマニフェストに掲げました。モデルがまとうのは、グラマラスやスポーティーなテイストを取り入れたカジュアルからエレガントなスーツにブラックタイまで、「ドルチェ&ガッバーナ」の世界を彩る多様なスタイル。ユニフォームではなく自己表現の手段としてのテーラリングを筆頭に、ボリュームたっぷりのファーやシアリングコート、バイカーやミリタリーアウター、質感豊かなニット、スラウチーなワイドパンツ、スキニーパンツ、ダメージジーンズ、スポーツウエアといったアイテムを織り交ぜながら、内面を映し出す装いを提案しました。

ひとつ気になったのは、SNSでも議論を呼んでいましたが、モデルに多様性が欠けていたこと。モデルのキャスティングに関してはもう何年も議論が起こっていますが、個人的には全てのショーにおいて必ずしも多様なモデル起用が前提になる必要はないと思っています。なぜなら、ショーはデザイナーが考えるシーズンのビジョンやメッセージを最も凝縮した形で提示する手段だから。ただ、今回の「男性の在り方にひとつの正解はなく、可能性は無限に広がっている。そのすべてが、描かれるにふさわしい“肖像”だ」という大切なメッセージを伝えるのであれば、人種も年齢も体型も異なるモデルが登場した方が明確だったのではないかと感じました。

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