ファッション
特集 メンズ・コレクション2025-26年秋冬

「セッチュウ」堂々のショーデビュー 鋭い美学と底知れぬ創造性の原点は“感謝”

桑田悟史デザイナーの「セッチュウ(SETCHU)」は16日、イタリア・フィレンツェの合同展「ピッティ・イマージネ・ウオモ(PITTI IMMAGINE UOMO)」でブランド初となるショー形式での発表を行った。会場は欧州でも最も歴史が長いフィレンツェ国立中央図書館で、約300人のゲストに合計40ルックの2025-26年秋冬の春夏スタイルを披露した。

今シーズンは“正方形”を起点に、服の構造やフォームなどのクリエイションを発展させた。ファーストルックは、ロンドンの老舗テーラー「デイヴィス&サン(DAVIES & SON)」と協業したスクエアショルダーのボクシーなスワローテイルジャケットに、グレーのタータンチェック柄スラックスを合わせたモーニングスーツ。ジャケットには折り紙のように折りたためるシグネチャーのクリースが入り、頭をすっぽりと覆うミノのようなヘッドピースが和のムードを醸成する。

スワローテイルジャケットや、ロング丈のサファリジャケットは裾を内側に折って丈を短く調整できたり、左右身頃のセンターをつまむように合わせるジャケット、折りたためるピーコート、シャツやブレザーの身頃に正方形のパネルを用いたりと、あらゆる足し算や引き算のデザインがシンプルな“正方形”に帰結する。派手なディテールではないものの、サヴィルロウ時代に学んだ服を彫刻のように“削る”デザインアプローチがフォームの美しさを際立たせた。グレーのタータンチェックをはじめ、ブラックのイブニングやグレーのスエット、オフホワイトのドレスといったニュートラルカラー中心の構成が、服の構造をさらに鮮明に映し出す。

革新の生地と不変のスタイル

「セッチュウ」の強みであるオリジナル生地では、和紙をブレンドしたデニムシリーズのブラックが登場した。また、そぎ落としたクリエイションで異彩を放ったのが、源氏物語の源氏絵をシルクのジャカードにアレンジしたスクエアジャケットだ。「ラブコメディーの原点」と桑田デザイナーが説明する源氏物語には、自身のライフワークである釣りの要素を融合し、「もしも、源氏と釣り人が恋に落ちたら」という妄想を膨らませた。さらに、ショーでの表現としてセクシーな一面を加えるため、春画をポップにアレンジして生地にあしらっている。

ショー仕様で一部は奇抜なスタイリングではあったものの、燕尾服の伝統的フォーマルをはじめ、ネイビーブレザーにブルーのシャツ、グレーのスラックスを合わせた正統派英国トラッド、アジャスタブルなスエット上下によるスポーティーな提案など、ベースはタイムレスな日常着だ。そこに「セッチュウ」らしい和の要素から、新旧の時代感までを“折衷”して、時代に左右されない強烈なオリジナリティーを打ち出した。あらゆる賞レースを総なめにしてきた強固な世界観と、“和と洋の融合”というありふれた表現を圧倒的に超越する豊かな表現力を、ショーデビューの舞台でも発揮していた。

忠実に守る母の言葉

しかし、ショーでは難しい点もあった。同ブランドの遊び心ある個性的な柄や、着方によって個性的なフォームに変化する自由なスタイリング提案は、ランウエイショーでも視覚的に伝えやすい。一方で、「セッチュウ」の真髄である生地や構造、それらに込めたあらゆる要素を折衷するストーリーは、その深さゆえに瞬間的には伝わりづらい部分でもある。そこで、今回のショー会場には桑田デザイナーのクリエイションにつながる展示も行った。釣りをする映像をはじめ、自身が所有する釣具や春画、“折り紙”の構造、シューズの彫刻、ガンダムのプラモデルなどが並び、一点一点をつなぎ合わせながら想像すると、「セッチュウ」のモノづくりが浮き上がる仕掛けだ。

これらのキュレーションや配置の妙は、「セッチュウ」を知る業界人にはブランド理解をさらに深めるきっかけになり、初めて「セッチュウ」を目の当たりにしたゲストにとっても、多様な要素を折衷する桑田デザイナーのユニークな視点と、創造性を感じさせるきっかけになっただろう。この日の主役は「今日のショーは感謝という思いだけ。先代の日本人の方々が活躍したおかげで、僕も海外で生活できているから」と「感謝」の言葉を繰り返していた。桑田デザイナーが母から教わった「感謝してものを作りなさい」という言葉が今もクリエイションの核となり、その精神が人を引きつけ、桑田悟史を大舞台に押し上げた原動力となっている。「ショーは最初で最後」と笑っていたが、ショーという表現に挑んだことで新たな可能性を見いだした点もあるだろう。その新境地と原点である“感謝”が、「セッチュウ」の服で文化を作るクリエイションをさらに前進させる。

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