2026年春夏シーズンのミラノ・メンズ・ファッションウイークが6月20日に開幕した。近年は発表の場をパリへ移す動きが見られる中、「プラダ(PRADA)」や「ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)」といった常連ブランドを中心に公式スケジュールでショーを実施する。初日、日本人デザイナー・桑田悟史の「セッチュウ(SETCHU)」がオフィシャルショーを開催した。
代表作“折り紙ジャケット”のように、シャツやスラックスなどのタイムレスな日常着をベースに、イタリア仕込みの技術と日本の上質な素材を掛け合わせ、東洋と西洋の美意識の融合を表現してきた「セッチュウ」。構築的な服づくりが持ち味だが、今季のショーでは、これまでにない躍動感が感じられた。
ファスナーやボタンを外し、身体に巻きつけるように着用できるシャツやTシャツ。ワンピースへと姿を変えるガーメントケース。デニムやカーゴパンツは、スカートのようにボリュームをもたせた。サファリジャケットの襟にはハンドルを仕込み、トートバッグのように持ち運べるようにした。スポーツ、ミリタリー、和装といった異なる要素を、完璧に整合させるのではなく、遊び心をもって融和させる。まさに「セッチュウ」らしい“折衷”のアップデートだ。
“型”に縛られることへの恐れ
2023年度の「LVMHプライズ」に輝き、25-26年秋冬のピッティ・イマージネ・ウオモでショーを開催。順調にステップを重ねているように見えたその裏で、桑田デザイナーは葛藤していた。
折り紙のような構造、和装に着想を得たパターン設計は、静謐でストイックな佇まいを生み、そのままブランドの輪郭になった。その緻密で合理的な構造こそが、桑田自身を「型にはめていた」のかもしれない。「“セッチュウってこうだよね”って言われるのが怖かった。ブランドを始めて5年。そろそろ次に何を見せていくかを考えなければいけないと思っていた」。
身体と向き合い、動き出した服
答えを探しに桑田が向かったのは、南部アフリカ・ジンバブエ。現地のクラフト団体とのモノ作りの体験を通じ、桑田は「服とは何か」という問いに向き合い、身体の原点から掘り下げた。
ヴィクトリアフォールでの釣り。現地の部族とともに取り組んだ編み物づくり。手仕事を通して、土着の文化や人と触れ合いながら過ごした時間。それらの体験や感覚、感情が、今季の服に“動き”としてそのまま反映されている。“滝の霧”に着想を得たルックには、透明感のあるドレープを随所に用いた。霧のように曖昧だが、身体に沿って流れる布。動きとともに表情を変える“第二の皮膚”のようだ。
「ショーのあと、ずっとブランドを見てくださっている方々に『今季は違ったね、良かったね』と言っていただいて、すごく嬉しかった」と胸をなで下ろした桑田。“静”の構造に“動”の生命力を宿し、「セッチュウ」は次の一歩を踏み出した。