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特集 メンズ・コレクション26年春夏

【2026年春夏メンズコレリポートVol.9】「ジュンヤ ワタナベ マン」は“古い”を、「メゾン ミハラ ヤスヒロ」は“普通”を新しく見せる

今季も2026年春夏のメンズ・ファッション・ウイークを駆け抜けました。取材班は、コロナ禍前から久々にメンズコレサーキットに舞い戻った編集長・村上と、初参戦のヘッドリポーター・本橋。ヨーロッパを覆う熱波に負けないアツいリポートをお届けします。今回はそろそろゴールも近付いてきたパリ4日目。

「トム ウッド」の再出発
“クッション”にフォーカス

本橋涼介「WWDJAPAN」ヘッド リポーター(以下、本橋):ノルウェー発「トムウッド(TOM WOOD)」は、ジュエリーブランドとしての“核”をあらためて見つめ直すようなコレクションでした。タイトルは“FRAME COLLECTION”。その名の通り、ブランド創設初期から続くアイコン“クッションリング”のフォルムを、ネックレスやバングル、イヤリング、ブレスレットに投影しました。

なぜ今、“クッション”なのか。その形状の再解釈を通じて、「トムウッド」がもう一度、自らの“フレーム(輪郭)”を定め直そうとしているようにも感じられました。過去には「テン バイ トムウッド」など、アパレル領域にも挑戦しながら(個人的には好きでしたが)、紆余曲折を経て、ブランド設立から12年。今あらためて、自分たちの立ち位置や方向性を見つめ直すタイミングに来ているのかもしれません。

「ジュンヤ」は挑戦したいと思える
クラシック&フローラル

本橋:これまでの「ジュンヤ ワタナベ マン(JUNYA WATANABE MAN)」といえば、どちらかというと、デニムを軸にしたパッチワークやワーク&アウトドアのイメージが強かったのですが、今季はいい意味でその印象を裏切られるようなコレクションでした。

冒頭は、クラシックピアノの音色とともに始まった、端正なテーラードスタイル。重厚なジャカードやブロケードのテキスタイルが、バロックやロマネスク建築の装飾のムードを服に宿し、荘厳さすら感じさせます。中には、ラテン語の写本を思わせるような柄使いや、ブルーデニムのセットアップの上に刺しゅう調のジャケットを羽織ったルックも。ただロマンティック柄づかいも、「ジュンヤ」が得意とするデニムやサングラス、小物、ワークブーツといったスタイルの文脈に置かれることで、甘くなりすぎず、むしろリアルに感じられました。

中盤以降は、音楽がハウスやジャズへと変化するのに合わせて、スタイルも徐々に“崩し”の方向へとシフト。黒のギャバジンコートにドレスパンツを合わせたシックな装いから、シャツに3本のネクタイを重ねた遊び心あふれるコーディネートまで登場します。ダマスク調の花柄やスーチングなど、調和のとれたアイテムを“ズラす”ことで生まれるユーモア。そのバランス感覚こそ、「ジュンヤ」らしい美学なのだと感じました。

村上要「WWDJAPAN」編集長:渡辺淳弥デザイナーは、「古いのに新しいと感じるもの、また古いものを再現する過程で生まれた新しいもの、に興味を持ちました」と話します。ダマスクやブロケードのような素材は、古き邸宅の壁紙やカーテンを思わせレトロではあるものの、近年多くのデザイナーが興味を持ち、いろんなブランドに登場していますよね。「ジュンヤ マン」は、そんな生地からレトロムードたっぷりなロング&リーンのジャケットを作り、70’sなムード漂うケミカルウオッシュのデニムやカーゴ素材のフレアパンツと合わせています。まさに「古い」のですが、デニムやカーゴなどの今っぽいアイテムと合わせたり、そもそも、レトロな素材を現代に多用することでロックやパンクなどの「新しい」ムードを表現しているように思えます。

でも、全てのアイテムは男性のステイプル(定番)を大きく逸脱せず、ウィメンズがモードなのに対して、メンズはリアルなブランドらしさを踏襲。ゆえに最近は少し鮮度的に物足りない印象があったりもしましたが、今季は「古い」素材で「新しさ」を手に入れていましたね。

本橋さんが話していたシャツやネクタイ、スカーフをハイブリッドしたスタイルも、全ては昔から存在するアイテムなのに、ハイブリッドの仕方で新しく変換。その後に続く“ダサいセーター”のスタイルも、新鮮です。

本橋:19世紀創業のフランスの老舗バッグブランドであり、トランクメゾンとしての誇り高い歴史を持つ「モワナ(MOYNAT)」。近年はLVMH傘下で再始動しました。正直なところ、これまであまり触れる機会がなかったのですが、今回の展示を訪れ、文字通り目を奪われました。素材のクオリティー、繊細な作り、仕上げの精度──どれを取っても、トップメゾンと肩を並べる完成度と感じました。

若さを表現した「ジュン.J」
ショーツルックが推し

本橋:韓国デザイナーのチョン・ウクジュン(Jung Wook Jun)が手掛ける「ジュン.J(JUUN.J)」の今季のショータイトルは“BOY-ISH”。直訳すれば“少年っぽさ”ですが、表現したかったのは、“可変性”を軸とした若さのメタファーだったのかもしれません。

全体のスタイリングは、意図的にちぐはぐにも映る異素材・異シルエットの掛け合わせが続きました。スナップボタンや結び目でその場で調整できるような構造は、整えることも、崩すことも可能な“余白”を感じさせて、まさに若さの可変性や柔軟性を象徴しているよう。

デニムやレザーといった重厚な素材も多かったのですが、足元の軽さ、首元のスカーフやレイヤードされたシャツ、薄手のニットなどによって、スタイリングの印象は軽やか。個人的にはショーの序盤に登場した、MA-1やカモフラ柄のオーバーサイズアウターに、潔くショーツを合わせたルックがとても好みでした。ミリタリーの重たさと、脚元の抜け感。そのコントラストが、今季いくつかのブランドで鍵になっていたショーツルックの中でも、とりわけバランスが良く、リアルクローズとしても参考にしたくなるスタイリングでした。

村上:なかなか高評価ですね。一方の私は、正直ちょっと厳し目です。まず、このパワーショルダーを使いながらの、コントラストを効かせたシルエットに少し飽きてきています。デムナ(Demna)も「バレンシアガ(BALENCIAGA)」を去って「グッチ(GUCCI)」に移籍する中、ましてやステイプルなアイテムをベースとした自由なスタイリングを認める時代の中、「「ジュン.J」ってシルエットはあんまり変わらないし、スタイリングもコレ以外を想像させてくれない気がしませんか?サイドに別のパンツを縫い付けたボトムスも、「誰が着るの?」と思わずにはいられません。むしろ、前身頃をペリッと“めくった”ように見えるパンツは、普通にも、着崩しても楽しめそうで、可能性を感じます。中盤以降の、チョークストライプのパンツをめくるとデニムが現れるショートパンツとか、デニムをめくるとカモフラ柄が現れるミニスカートとかです。にしても、これも正直一本槍な印象は否めません。

日本では、アフォーダブル・ラグジュアリーなブランドとして定番を扱う店舗と、コントラストが効いたモードなブランドとして紹介する店舗に二分されているみたい。今までは後者のイメージが強かったけれど、前者のムードを訴求してもいいのかもしれません。

海外で人気急上昇「ミハラ」
“普通”をキャッチーに見せる

本橋:「メゾン ミハラ ヤスヒロ(MAISON MIHARA YASUHIRO)」の今季のテーマは“Ordinary People(ありふれた人々)”。ぱっと見はごく日常的な素材づかいで、カラーパレットもコーディネートもシンプル。でも、よく見るとどこかおかしい。前後で素材が異なるアウターや、袖の内側からのぞく異素材など、隠された違和感が効いています。”普通”をキャッチーに見せる手腕に脱帽しました。おなじみの“ポテチバッグ”や“バナナ”のモチーフも健在で、ミハラさんらしい遊び心も随所に散りばめています。

最近、海外での人気も急上昇中。フックになっているのは、三原康裕デザイナー自身が粘土で型を取ったという、オリジナルソールのスニーカーです。韓国アイドルの着用をきっかけに認知が拡大しており、日本でも若い男女が、波打つソールのスニーカーを着用しているのをよく見かけますね。

村上:いつもに比べるとハイブリッドは控えめで、「ミハラ」も若干クワイエット・ラグジュアリーなムードなのかな?って思いました。ただ一番印象的だったのは、私がメンズ・ファッション・ウイークを訪れていたコロナ前とは、ブランドのファンも、規模感も全然違っていること。今はすっかり、ヒップホッパーを筆頭とするユースカルチャーのブランドですね。なんかラグジュアリー・ストリートのファンダッびはら人たちが、スニーカーをフックにみんな「ミハラ」に夢中になってきたカンジです。マーケットもアジアから、今はアメリカに拡大しています。

トランプ関税の影響は心配ですが、この路線で頑張ってほしいですね。だって日本のブランドって、やっぱり少し“玄人”感があるから、アジアは別として、ヨーロッパの洋服好き以外のコミュニティーを獲得しきれていない印象があるんです。ましてや洋服ラバーが少ない、でも、若い世代は増えているので可能性は大きなアメリカ市場は、日本のブランドにとってなかなかの鬼門でしたが、「ミハラ」は私が知る限り初めてこのマーケットに食い込んでいるデザイナーズブランドだと思います。三原康弘さんはテクノ好きだけど(笑)、ヒップホップも使ってDJしてくれる日を期待しています!

次期メゾンデザイナー?
「チャヴァリア」の懐の深さに驚く

本橋:「ウィリー チャヴァリア(WILLY CHAVARIA)」は、ストリート系のやんちゃデザイナーというイメージでしたが、今季はその印象が大きく覆されました。テーラードからストリートまで、振れ幅の広い表現力が見えたコレクション。オーバーサイズのクラシックスーツ、繊細なレースシャツ、重厚なロングコートにくしゅっと結ばれたスカーフ。テーラードからストリートまで自在に行き来する、チャヴァリアの懐の深い表現力が感じられました。

今季のタイトルは「HURON」。彼の故郷であるカリフォルニア州ヒューロンにちなんだもので、チャヴァリア個人の記憶と社会的背景が交差する舞台です。冒頭に登場した、ACLUとのコラボTシャツを着た35人の男性たちは、エルサルバドルの刑務所で人権侵害を受ける人々への眼差しを象徴。今季もまた、“受容”と“誇り”というテーマを力強く提示していました。演出は控えめで、モデルたちがゆっくりと歩を進めるショーは、一着一着のメッセージをしっかりと伝えるためだったのだと思います。

今のラグジュアリーブランドに求められるのは、あらゆる個性を巻き込む包摂性と、それを支える表現力。その両方を兼ね備えたチャヴァリアの名前が、次期メゾンデザイナーの候補としてウワサされるのも納得です。

村上:一方の私は、ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)による新生「ディオール(DIOR)」と、「コム デ ギャルソン・オム プリュス(COMME DES GARCONS HOMME PLUS)」のショーを終えた後は、「ケンゾー(KENZO)」へ。今季は、アンディ・ウォーホル(Andy Warhol)のアートスタジオの「The Factory」、創業者・髙田賢三さんの1970年代のパリのアトリエ、そしてアーティスティック・ディレクター であるNIGOさんの、ストリートウエアと、セレブリティやクリエイターに及ぶコミュニティーの3つにインスピレーションを得ているそうです。

というわけで、コレクションや個々のスタイルは、正直モリモリです(笑)。サテンのショールカラーのジャケットや、パフスリーブのブラウス、楊柳パンツなどのレトロなアイテムは、ベースボールキャップやロゴベルト、ボクシングシューズや厚底ブーツと組み合わせて奇想天外。若い世代のクラブでの夜遊び、自分に自信があるから思い通りにスタイリングしちゃうアティチュードを表現しています。

今季は「真剣になりすぎない」をかなり意識しているようで、最近モチーフとして用いているウサギに続いて、トラ柄が多数登場。「ケンゾー」にとって大事なアイコンの1つですが、「トラとウサギが恋に落ちてもいいんじゃない?」くらいの自由な感覚で、ウサギを思わせる淡いピンクのキュートなムードと、トラ柄が導く迫力を大胆にミックスしています。真面目だったら、「トラとウサギは恋に落ちません!」とか「トラにウサギが食べられてしまいます!」って反論しちゃうのですが、「真剣になりすぎない」と、「あるかもね?いいんじゃない?」って思えるかもしれません(笑)。特に真面目な日本人に対して、そんな精神性をどうしたら表現できるのか?奇想天外なスタイルを打ち出すからこそ、そんな価値観の提唱にも挑戦してほしいな。

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