ファッション
特集 パリ・コレクション2025-26年秋冬

トレンドセッターの「クロエ」、畏怖畏敬の念高まる「リック・オウエンス」 25-26年秋冬パリコレ日記vol.3

今季のパリ・ファッション・ウイークは街中から遠い会場や近くに地下鉄の駅がない場所が多く、移動にかなり時間を取られます。どんなにスケジュール調整をしても、右岸と左岸を行ったり来たり。本日は、西の外れにあるテニスクラブでショーを開いた「クロエ」からスタート。地下鉄と徒歩で東西南北を駆け巡った4日目の模様をお届けします。

「クロエ」は今季も快調
“パディントン“バッグも復活

藪野淳「WWDJAPAN」欧州通信員:「クロエ」の会場は、今季もパリ西部にあるテニスクラブ。車で向かった先シーズンはゴミ収集車による渋滞にハマって猛ダッシュしたので、今日は地下鉄で向かいます。ホテル最寄りの駅から1本で行けるのは良かったのですが、それにしても遠い。20駅乗って、ようやく辿り着きました。

コレクションは、「クロエ」らしいボヘミアン・ロマンチックなスタイルを継続。「いかに過去をロマンチックに表現するかについて考えた」というシェミナ・カマリ(Chemena Kamali)は今季、ブランドを象徴するギャザーやフリル、レースを配したシアーなドレスやキャミソール、ワイドな肩のブラウス、フレアパンツに、コンパクトなシルエットのビクトリアンジャケットや人工ファーもしくはシアリングを用いたアウター、キルティングやレザーの光沢あるコート、シアーなロングスカートを合わせて、スタイルをアップデートしています。そしてバッグは、約20年前に一世を風靡したフィービー・ファイロ(Phoebe Philo)時代のアイコンバッグ“パディントン“が復活。さらにさらに、ファーのしっぽも久々にランウエイに戻ってきました。バッグのチャームとしてだけでなく、ファーストールの端に何本も垂れ下がったデザインが新鮮です。

そんなスタイルは、やっぱりカワイイ。ビクトリアンスタイルのジャケットは他のブランドでも見られましたし、ビンテージムードを取り入れたクリエイションも増えています。シェミナの「クロエ」の時代を捉える感覚は、今季も冴えていますね。村上さんはどう見られましたか?

村上要「WWDJAPAN」編集長:もうシェミナの「クロエ」が良いことはわかってきたので、最近は「シフォンのフリルドレスやブラウス、楊柳パンツがどこまで鮮度を保てるのか?」という視点で注目していますが、まだしばらく行けそうですね。引き続き甘いテイストのボヘミアンなムードをプラスすることでコントラストを楽しんでいますが、今シーズンはパッチワークのレザーアウターやしっぽをプラスと前回とは違うボヘミアンのありようを模索。そこに、先シーズンのパフショルダーからドレープが垂れるジャケットなどを合わせていますが、こちらがヴィクトリアン調に進化しています。一度「クロエ」のアイコンを手に入れれば、いつでも、新しいスタイリングで楽しめる工夫を大切に進化を続けています。

今、一番のトレンドセッターだから、しっぽはきっと、いろんなブランドから登場するようになるでしょう。日本ではこれで、何回目のブームですか(4回目?)。「クロエ」のように何本も垂らしてみたいから、他のブランドに浮気しちゃうかもしれないけれど、最初の1本はリスペクトの意味を込めて「クロエ」で買おうと思います(笑)。

“パディントン“は、40万円くらいで提案したい、とのことです。無論、昔に比べれば高くなっていますが、これが50万円だったら「高い!買わない!」になってしまいますが、「頑張ってみようかな?」と思わせてくれるまで、「クロエ」も頑張ってくれた印象です。“パディントン“でもう一度広く名前が伝わったら、ウエアにもさらなる良い効果がありそうですね。

会社は売却するも「オフ-ホワイト」は
出自や人種における多様性路線を継続

村上:今日はここから西へ東へ、南へ北への大移動がスタート。まずは西から東へ、メトロでも車でも1時間コースの「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー(OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH)」です。こりゃ相当遅れること間違いなしですね(笑)。

LVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON)による米ブランド管理会社ブルースター・アライアンス(BLUESTAR ALLIANCE)への売却に伴い、ロゴやグラフィティを使ったカジュアルなブランドに傾倒していくと思っていましたが、イブラヒム・カマラ(Ibrahim Kamara)=アート&イメージディレクターによるコンセプチュアルなアプローチは継続する様子。今シーズンは、ヴァージル・アブローのルーツであるガーナに思いを馳せ、すっかりアメリカのシンボルだと思っていましたが、ガーナの象徴でもあるイーグルと星のモチーフを多用しました。西アフリカのカラフルな色使いで、モーターサイクルのユニホームやイギリスの制服に盛り込んでいきます。アフリカ、アメリカ、イギリスなど、世界を股にかけるのは、ブランドらしいところ。当然、アフリカン・アメリカンなモデルが多数登場し、出自や人種におけるダイバーシティを訴えます。

若干ワンパターンな印象もありますが、ここからもっと買いやすいデザインやグラフィックのアイテムを考案するのだろうことを踏まえると、このくらいわかりやすい方が良いのかもしれません。

「ラバンヌ」でもファーのしっぽを目撃!

藪野:お次は、左岸のユネスコ本部で開かれた「ラバンヌ(RABANNE)」です。今季はファーライクな素材がビッグトレンドになっていますが、ここでもファーが多出しました。特に目を引いたのは、裾に何本もファーのしっぽが垂れ下がり揺れるコートやドレス。さすがに1日にファーのしっぽを2回も見るとは思っていませんでした。そのほかにも、全体からラペルやライニングなどの部分使いまで、ボリューム満点のファーがスタイルのカギになっています。ファーだけでなく、ラペルやライニングにシルバーのスパンコール装飾をびっしりとあしらった提案もあり、前身頃が2枚仕立てになったようなかっちりとしたコートやジャケットとのコントラストを際立たせています。

一方、「ラバンヌ」を象徴する煌びやかなメタルメッシュはレースとドッキング。シアーなドレスや透明なビニールのコートなどの下に合わせ、内側から控えめに煌めきを放ちます。そして、足元はコンバットブーツや、スパンコールをびっしりとあしらったソックスとメリージェーンをスタイリング。引き続きデイウエアの中で、「ラバンヌ」らしいスタイルを探求しています。

24年「LVMH賞」グランプリ
「ホダコヴァ」は注目度満点

藪野:「ラバンヌ」の後は、一度右岸に戻って「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」の展示会に行き、またまた左岸に渡って「ホダコヴァ(HODAKOVA)」のショーへ。2024年度「LVMHプライズ」でグランプリを受賞したスウェーデンの若手ブランドです。会場には有名エディターやジャーナリスト、インフルエンサーが揃っていて、注目度の高さが伺えます。

服から日用品まで日常の中にあるものをアップサイクルしてコレクションを作り上げるアプローチで知られるブランドですが、今季もこれまでのアイデアを応用しながら進化しています。チノパンツはトレンチジャケットへと姿を変え、スラックスはトップスやドレスに。レザーのベルトは長いフリンジとしてドレスやスカートを飾ったり、バッグになったり。トレンドのファーアウターも「ホダコヴァ」らしくファーハットをはぎ合わせて作っています。そして極め付けは、最後に披露した小太鼓やコントラバスといった楽器で作った服。アイデアやアプローチは面白いと思うのですが、これからの課題はいかにリアルに着たいと思わせるデザインを生み出し、再び日常に落とし込むか。アップサイクルを軸にものづくりを行う若手ブランドはどんどん増えているので、どのようにライバルと差別化してビジネスを軌道に乗せていくかにも注目です。

ちょっと大人しめ?な
「ロジェ ヴィヴィエ」

村上:「ロジェ ヴィヴィエ(ROGER VIVIER)」は、今回ちょっと大人しめでした。と言っても、前回が乙女心とクラフツマンシップ全開すぎたのですが(笑)。今回はバラにフォーカス。カラフルなサテンで作ったパンプスに、メタルやサテン、レザーで作ったバラをあしらいました。クラッチも、全面サテンのバラ飾り。あ、こうやって説明すると、全然大人しめじゃないですね(笑)。

畏怖畏敬の念が高まる
「リック・オウエンス」

お次は、またセーヌ川を渡って、「リック・オウエンス(RICK OWENS)」へ。会場にはスモークが焚かれ、「リック」様らしい神聖なムードを盛り上げます。

今シーズンは、いつも通りではありますが、それ以上にレザー使いが際立ちます。ロング丈のレザージャケットには、まるで吸血鬼のような、ある意味ヴィクトリアン調な高い襟。スリットを入れたレザーのロングスカートからは、ファインゲージのコットンなどで作ったインナーを覗かせながら、レザーのロングブーツを合わせて迫力たっぷり。と思ったら、レザーに大蛇のようなパイソン模様を加えつつ一枚一枚カットアウトしたスカートまで現れ、畏怖や畏敬の念さえ抱かせました。トップスは、細長いラバーを斜めに、カスケード状に重ねたフーディ。美しくも、消化器官の“ひだ“のようでもあり、こちらも少しグロテスクな美しさを放ちます。リック様は、これを「フリル」と呼ぶのだそう(笑)。ファーのブルゾンにスパンコールのハーネス、コットンに凹凸ができるほどペンキを塗りたくったスカート、レザーを編み込んで成形したボディコンドレスなど、今シーズンはクチュール級のテクニックが満載。余計な加工をしないことで環境に配慮しながら自然の荒々しい面影を残した素材使い、宗教的なムードを讃えるロングドレスなど、唯一無二の美意識さらに進化しています。

「トム ウッド」と秋元梢がコラボ

藪野:僕は、ドーバー ストリート マーケット パリ(DOVER STREET MARKET PARIS)のローズベーカリーで開かれた、ノルウェー発のジュエリーブランド「トム ウッド(TOM WOOD)」と秋元梢さんのコラボアイテムのお披露目パーティーへ。組み合わせると鎧のようにも見えるデザインですが、その名前は“チユ(CHIYU)“リング。それは、秋元さんが指を脱臼した時に着けていたギプスから着想を得たものだからだそうです。

そろそろ次のショーに向かわねばと思っていたら、「リック・オウエンス」のショー後、速攻で衣装チェンジした秋元さんが到着。ジュエリーを重ね付けしたスタイリングはさすがです。実際に着けてみたのですが、サイズ豊富でメンズもOK。中指の第一関節にはめたり小指の第二関節にはめたりといったふうに、気分によって違う着け方を楽しめるのがいい感じでした。

プレタポルテなのに冴えた
「スキャパレリ」のウエスタン

スキャパレリ(SCHIAPARELLI)」は、現代に女性が快適かつ特別な気持ちになれる洋服ってなんだろう?と考えました。たどり着いた1つの答えは、「メンズのような洋服を作ること」。そこから、あらゆる相反するものの融合、例えばマスキュリンとフェミニン、例えば支配的なムードと従属的な雰囲気、絢爛豪華と質実剛健のコンビネーションなど、アイデアを膨らませました。

ゆえにファーストルックは、マスキュリンなダブルのスーツ。にもかかわらず襟には豪華なファーを施しました。パワーショルダーだけど、太い2連のベルトでウエストマークします。ヘルシーなタンクトップに重厚感あるレザーパンツ、テントラインで優雅なのに漆黒かつ鈍く光るコーティング素材のコート、ピンヒールのパンプスなのにミリタリー由来のリブ編みニットにレザースカート、そして幾つものカウボーイベルト、総ファーのコートの中で独特の存在感を放つガラスレザーのコルセット。いつもクチュールは真剣勝負なのに、プレタポルテは一本調子だったダニエル・ローズベリー(Daniel Roseberry)、今回は冴えています。

散々登場したカウボーイブーツとベルトは、ダニエルが幼少期をテキサスで過ごしたことがあるからなんだって。

パンキッシュ&セクシーな
「イザベル マラン」

藪野:本日の最後は、「イザベル マラン」。会場はおなじみのパレ・ロワイヤルで、ようやく街の中心部に戻ってこれました(笑)。観光客も多いエリアなので、いつもセレブ待ちのファンと野次馬でエントランスがどこだか分からなるのですが……今回はセレブと他のゲストで入り口の場所を分けてくれていたため、なんともスムーズな会場入り。これを考えてくれた方、グッジョブ!です。

ノリノリのエレクトロニックなビートに乗って披露されたコレクションは、ブランドを象徴するコードと1970年代後半から80年代前半に人気を博したニュー・ウェーブのロックなスタイルに見られるエッジをミックス。パワーショルダーで仕上げたピンストライプのテーラードジャケットやツイードコート、タータンのシャツは、アイレットベルトや安全ピンのブローチ、網タイツ、マイクロミニ丈のスカートやパンツと合わせて、パンキッシュ&セクシーに。そこにバイカースタイルのレザーウエアや、レースのドレスにブラウス、ドレープを効かせたアシンメトリーなドレスを合わせ、「イザベル マラン」らしいエネルギッシュでボヘミアンなムードを演出しました。

そして今回のランウエイには、2025年春夏キャンペーンモデルにも起用されたATEEZのソンファ(Seonghwa)がモデルとして登場。ランウエイを歩いてくれると、走ったりモミクチャにされたりすることなく、その姿をしっかり押さえられるので取材する側としては助かります。ということで、セレブ撮影のミッションも無事クリア。日本風中華料理の来々軒でお腹を満たして、帰路につきました。

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