ファッション
特集 パリ・コレクション2025-26年秋冬

「ザ・ロウ」の“お家仕様“スタイリングから「ステラ マッカートニー」のビジネスウーマンまで 25-26年秋冬パリコレ日記vol.2

今季のパリ・ファッション・ウイークは天候に恵まれ、昼間は汗ばむほどの暖かさ。雨で寒いよりは良いのですが、朝晩は割と冷えるので朝から晩まで取材でホテルに戻れない日は着るものに困ります。今回の日記では、家で過ごす感覚をコレクションに取り入れたコージーな「ザ・ロウ」や、オフィスを舞台に大胆なワーキングウーマンのスタイルを見せた「ステラ マッカートニー」などのショーが行われた3日目の模様をお届け!

まるでパーティーのように
紙吹雪舞う「クレージュ」

藪野淳「WWDJAPAN」欧州通信員:朝は「クレージュ(COURREGES)」からスタートです。床が呼吸するように膨らんだり、モデルが歩くとひび割れたりと、毎回ユニークな仕掛けを用意する「クレージュ」ですが、今回はカラフルな紙吹雪。それがヒラヒラと舞う空間をモデルが歩くという演出で、ミニマルな世界観の中で祝祭感あふれるショーを見せてくれました。その背景にあるデザイナーの思いやコレクションの詳細は、下記の記事でご覧ください。

絨毯に座り込んで、「ザ・ロウ」の
お家スタイリングに感動

村上要「WWDJAPAN」編集長:ザ・ロウ(THE ROW)」はいつも通り、スマホなどでの撮影とSNS投稿はNG。目の前の洋服に集中しながら、世界観を体感して欲しいとの願いからです。加えて今シーズンは、座席がありません(笑)。案内された部屋には、招かれた人数には足りないソファがいくつか。遅れて来た人は、窓辺に腰掛けたり、立ち見だったり。私はかなり遅かったので、絨毯の上に座りました(笑)。まるで自宅に招かれた友人の気分です(笑)。

そんな気分が、今回のコレクションの理解には役立ちました。あぁ、絨毯に座ってヨカッタ。

私、結構口を酸っぱくして主張し続けていますが(笑)、「ザ・ロウ」ってクワイエット・ラグジュアリーじゃないですからね。むしろ既成概念とかを逸脱した、自由奔放なアティチュードこそブランドの魅力。それを最高級の素材で試しちゃう大胆さに注目して欲しいと思っています。

今シーズンは、まさにそんなアティチュードが大爆発!モデルは全員、タイツを履いてはいるものの靴を履かず、時にはそのタイツをマフラー代わりに首に巻き付けています(笑)。まぁそれは小手先のテクニックかもしれないけれど、その後も最高級の素材で作った、今回は少し意表を突かれた構築的なシルエットの洋服を、ちゃんとコーディネートはしているけれど、“お家仕様“の実にリラックスしたスタイリングで見せてくれました。ニットドレスの上から袖の形をしたロングマフラーを巻いたり、ソルト&ペッパーのウールコートはバスローブのように軽く羽織ったり、Vネックのプルオーバーとして再解釈したジャケットを被ってみたり。「衝撃」ではないけれど「斬新」なスタイリングと会場の雰囲気が見事にマッチしています。

「カサブランカ」は、日本流の
「カイゼン」でブラッシュアップ

村上:カサブランカ(CASABLANCA)」の招待状は、ナゾなキャラクターの人形と一緒に届きました。キャラの名前は、「カイゼン」。日本のことを思って生み出したオリジナルキャラだそうです。

ショー会場に入ると、そこにはカタカナで「カサブランカ」と書かれた“のれん“がありました。となるとインスピレーション源は当然、日本ですよね?

コレクションは、なんでも取り込んで自由にミックスする日本人の感覚を表現。ラペルのない着物合わせのジャケットを軸に、フォーマルなスタイルを提案します。途中、なぜかのスノーウエアが登場したのも、我々のスタイリングセンスを高く評価しているからなのかな?融合するまでの様を表現したようなマーブル模様、ドレスにワンポイントであしらった“カワイイ“リボンも、シャラフ・タジェル(Charaf Tajer)創業者兼クリエイティブ・ディレクター流の日本の解釈なのでしょう。

いつも以上に洗練されたムードなのは、「カイゼン」というアイデアの賜物。改善、つまりアップデートは、「カサブランカ」のスタイルをストリートだけじゃないものにアップデートしつつ、それぞれの完成度も高めました。特攻服を着想源にしたロングジャケットさえ結構美しい仕上がりで、そんなに驚かない自分に驚きました(笑)。ポロシャツには、小紋柄や縦縞模様など、伝統的な和柄をのせました。

エフォートレスに進化する
「デルヴォー」のアイコンバッグ

藪野:デルヴォー(DELVAUX)」のプレゼンテーションは、ブランドを代表するバッグ“ブリヨン“誕生の歴史を振り返る展示からスタート。時は1958年、第二次世界大戦後初の万国博覧会がベルギー・ブリュッセルで開かれました。その中にあったフィリップス(PHILIPS)館のグラフィカルな建築から着想を得て、同年に生み出されたそうです。そんな象徴的なデザインに今季、新作として柔らかなレザーでクタッとしたシェイプに仕上げた“ブリヨン テンポ“が加わりました。2サイズあるのですが、大きい方はフラップを背面に倒してカジュアル&エフォートレスに持てるデザイン。一方、小さい方はフラップを背面に倒すことはできないですが、ショルダーストラップが付属しています。

そして、飼い葉桶をイメージした“パン“にも新スタイルが登場。付属する2本のチェーンストラップとレザーストラップを自由に組み合わせて、好みやシーンによって異なる持ち方を楽しめるのは特徴です。

新生「ドリス」で感じた
創業者同様の服への愛

村上:今シーズンのパリ・ファッション・ウイークにおけるニュースは、3つのブランドにおける3人の新クリエイティブ・ディレクターのコレクションです。先陣を切ったのは、「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」。内部昇格したジュリアン・クロスナー(Julian Klausner)は、創業デザイナーのドリス同様、昔の衣装から現代の装いまで、あらゆる洋服に愛を持っている人であることがヒシヒシと伝わるコレクションでした。詳しくは、下記の記事をご覧ください。

期待の若手「ジュリ ケーゲル」は
遊び心を交えてビジネスルックを解釈

藪野:パリコレでは、公式スケジュールでプレゼンテーション枠となっているブランドも、実際はほとんどショー形式での発表に変えてしまうので、どうしてもスケジュールがバッティングしてしまいます。ということで、今回は「セシリー バンセン」を諦めて、1月に注目若手デザイナー連載で取材した「ジュリ ケーゲル(JULIE KEGELS)」へ。プレゼン枠ながら、古いコンサートホールを使って小規模なショーを2回開催しました。

ランウエイになった円形の舞台の真ん中には、ル・コルビジェ(Le Corbusier)のデザインを想起させるレザーのソファ。そこに無造作に置かれたシャツやセーター、ジーンズを下着姿のモデルが着るところからショーが始まりました。今季は、パワースーツなど1980年代のビジネススタイルを軸に、家の中に見られる要素をミックス。ソファに用いられるボタンタフティングのデザインを用いたクロップドトップスやドレス、舞台に飾られたソファをプリントしたドレス、本物のベニヤ板で作ったガウンに木目プリントを施したスーツやブラウス、毛布を巻き付けたようなスカート、大きなクッション風のクラッチバッグなど、ジュリらしい遊び心を感じるデザインがそろいます。

そして、ラストルックにはファーストルックと全く同じコーディネートが登場。ただ、今度は全ての服が一体になっていて、背中に走るファスナーを開ければワンタッチで脱げる仕様というサプライズを用意しました。これが何を意味するのかは正直わからずでしたが、楽しいショーでした。

ランニングベストで
花の記憶を辿る「セシリー バンセン」

村上:私は、「セシリー バンセン(CECILIE BAHNSEN)」のファッションショーへ。スーパーキュートなワンピースが魅力のブランドですが、序盤のドレスは今まで以上にラブリー。繊細なチュールを多用し、ベビーピンク一色でまとめました。常々インスピレーションの源となっている花を着想しながら、今シーズンは花の生涯や記憶まで想像。だからこそ満開のベビーピンクから始まったコレクションは、木々のブラウン、地中の奥深くを思わせるブラック、そして一筋の光のように差し込んだホワイトへと変化していきます。

そこにランニングベストに代表される、スポーツやアウトドアのムードも加えました。特にブラウンやブラックのパートでは、ランニングベストの他、ダウンやシャカシャカブルゾン、フリースなども加えて、自然と共生するアウトドアムードを高めます。グレーのパートでは、フランネル素材やリブ編みのニットなども登場。「セシリー バンセン」らしいスタイルの幅はどんどん広がっています。

力強くセンシュアルな
「ステラ」流ビジネスウーマン

藪野:バスに揺られながら遠路はるばるやってきたのは、パリ北西部の17区にある近代的なビル。ここが「ステラ マッカートニー(STELLA McCARTNEY)」の会場です。エントランスにはフロア案内があり、ショーはどうやら「ステラ・コープ(STELLA CORP)」のオフィスで開かれるよう。他の階には、「イノベーション・ラボ」や「ビーガン・キッチン」があり、いかにもステラらしい会社の設定になっています。

オフィスという舞台からも分かるように、今季はビジネスウーマンのためにデイタイムからイブニングまでの大胆なワードローブを提案しました。テーラリングからニットやドレスまで、デザインを特徴付けるのは幅広のパワーショルダー。そこにレースやドレープ、ブラカップ、絞ったウエストなどでセンシュアリティーやフェミニニティーを加えています。

また、「ステラ・コープ」の設定はエキゾチックスキンに代わる素材を開発するイノベーション企業ということで、パターンは爬虫類柄が中心。ビスコースサテンやジャージーにスネークプリントを施したほか、菌糸体をベースとするビーガン素材「YATAY M」でスネークスキンやオーストリッチの風合いを表現しています。そんな今季のウエアは100% クルエルティフリー素材で作られていて、96%が環境に配慮した素材を用いているそう。これは先シーズンと比べて5%高く、ステラはブレることなく自分の信じる道を突き進んでいます。

村上:以前「CFCL」から聞いたことがありますが、環境に配慮した素材の使用比率を高めるには、同じ素材を継続的に用い続けることが欠かせないそう。そうしないと、環境配慮素材の使用比率は上げられないのだそうです。そんな理由もあって、「CFCL」はニットにこだわり続けているんでしょうね。

「ステラ マッカートニー」も、事情は同じでしょう。ベースとなる素材は使い続け、一方で新たな環境配慮素材をプラスしているのではないか?と想像します。そう考えると、毎シーズン激変しないスタイルも理解できそうですよね。素材の特性を生かすデザインがあるはずなので、「ステラ マッカートニー」は、パワースーツだったり、開放的なドレスだったりを提案し続けるのではないか?って思います。そこに、どんな新しいスパイスを加えるのか?それが今回は、爬虫類のパターンだったんじゃないかな?一度、デザインプロセスを聞いてみたいですね。

「アクネ ストゥディオズ」が探求する
北欧の自然と都会のコントラスト

藪野:「ステラ マッカートニー」終了後は、南部の14区にあるパリ天文台で開かれる「アクネ ストゥディオズ(ACNE STUDIOS)」のショーへ。今季のイメージは、北欧にルーツを持ちながらも、都会のダイナミックなエネルギーの中を生きる女性。人工的な都市のスカイラインとデザインデュオ Front(フロント)によるスウェーデンの自然に着想を得た織物のスカルプチャーが配置された空間の中で、2つの異なる世界のコントラストを探求しました。

今季は、素材感から柄までテディベアがカギ。例えば、人工ファーやシアリング、起毛感のあるニットでその柔らかな風合いを表現したり、小さなテディベアのシルエットをドットのように並べたり、シアードレスに愛らしいクマを大胆に乗せたり。マスキュリンなテーラードジャケットからファーリーなドレスやボディースーツにまでに見られる丸く盛り上がった肩のラインも、まるでテディベアの可動する腕のシルエットからヒントを得たようです。

また、デザインディテールではボウ(リボン)やスカーフを多用。ボウタイをあしらったり、前身頃にリボンをくねくねあしらったりしたドレスから、大きなボウを飾ったニットベスト、シワ加工を施したレザーのボウブラウス、ウエアと一体化したスカーフを首に巻いて背中に垂らしたドレスまでが登場しました。

ハイダー・アッカーマンが描く
「トム フォード」の官能性

村上:さぁ、2つ目の新デザイナーによるコレクションは、ハイダー・アッカーマン(Haider Ackermann)の「トム フォード(TOM FORD)」。このニュースを聞いた時、私は「え⁉︎マジで⁉︎」と思ったものですが、蓋を開けてみると、ちゃんと官能的な「トム フォード」でした。詳細は、こちらの記事でご覧ください。

ドラマチックでありながら優しい
「バルマン」の新章

藪野:本日最後は、「バルマン(BALMAIN)」です。会場は、街の北東部19区にあるヴィレット・グランド・ホール。今季は、本当に街外れの会場が多いです。

「バルマン」と言えば、特にここ数年はパワフルなショルダーラインや豪華絢爛な装飾、アートのような大胆なモチーフ使いが目立ち、リアリティーとは少し離れていた印象でしたが、今季は着る人を優しく包み込むイメージ。大きなラペルを配したテーラードからファージャケット、ブルゾンまで包み込むような丸みのあるシルエットのオーバーサイズアウターと温かみのあるニットが目白押しです。ソフトでエフォートレスな雰囲気を醸し出しつつ、ポケットに手を突っ込みポリュームたっぷりの袖をたわませることで、ドラマチックなシルエットを描いています。

そんな今季のコレクションを、オリヴィエ・ルスタン(Olivier Rousteing)は「単なる新作ではなく、『バルマン』の新たな時代の幕開けを告げるもの」と宣言。「『バルマン』ウーマンは、自分探しの新たな旅に出る。彼女は依然として大胆で力強く魅惑的な存在だが、そのセンシュアリティーはこれまでとは異なるアプローチで表現されている」と語ります。女性たちを「ストリートからサバンナまでを旅するモダンな探求者」と表現し、ユーティリティー感のあるディテールやアニマル柄を取り入れながら、新たなスタイルを打ち出しました。

また、今回は音楽もエンヤ(Enya)の「ボーディシア」のリミックスやケイト・ブッシュ(Kate Bush)の「嵐が丘」などで、その優しい歌声は今季の雰囲気ともリンク。朝から晩まで東西南北を行ったり来たりして疲れた体が少し癒されました。

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