
9組の新デザイナーによる新たな船出はこちらの記事で解説するが、今回のパリにおける一大シャッフル劇は、少なくともクリエイションにおいては大きな意味をもたらした。中でもマチュー・ブレイジー(Matthieu Blazy)の「シャネル(CHANEL)」とジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)の「ディオール(DIOR)」は、それぞれメゾンコードを踏襲しつつも、その解釈から新しく、自分らしさも加えたコレクションはフレッシュに進化。ブランドが次の10、20年と生き残っていくために必要な若々しさは、前任のクリエイションと比べれば明らかに色濃くなった。
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同じくモードでエッジーなムードを高めたのは、「ロエベ(LOEWE)」。詳しくは後述するが、「セリーヌ(CELINE)」は難題に対して上手に立ち居振る舞っている。「バレンシアガ(BALENCIAGA)」は前任デムナ(Demna)への謝辞を表現しつつ、新たな素材とほんのわずかな縫製で“はさみの魔術師”と呼ばれた創業デザイナー、クリストバル・バレンシアガ(Cristobal Balenciaga)の再来を思わせ、今季のベストに輝いた。「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」も、ジョン・ガリアーノ(John Galliano)によるオートクチュールへの傾倒ゆえ、プレタポルテではアイデンティティーが見えづらくなっていた課題に対して、まずは原点回帰して解決に向け歩み始めた。グレン・マーティンス(Glenn Martens)らしく、アイデンティティーをバズらせながら若い世代に継承することにおける抜きん出た才能を存分に発揮した。(この記事は「WWDJAPAN」2025年10月20日号からの抜粋で、無料会員登録で最後まで読めます。会員でない方は下の「0円」のボタンを押してください)
新たな一歩を踏み出すブランドが多かったからこそ、来場セレブの“パパラッチ合戦”は今季、再び熾烈を極めた印象がある。そんな効果もあるかもしれないが、今季のパリ・ファッション・ウイークはいつも以上にSNSで多くのユーザーが興味や関心を寄せるトピックスとなり、特に「シャネル」や「ディオール」の新コレクションについては賛否両論さえ渦巻いた。人気ブランドならではの思い入れや愛の証しだろう。
クリエイティブな波の到来は
ブランドを再発見する機会に
こうした動向を踏まえ、米「WWD」は世界有数の金融グループHSBCによる「新型コロナウイルスのパンデミック後、消費者は“ショッピングセラピー”を必要とした。ところが2年後には『バッグは相変わらず同じで、値段だけが60%も上がった。もう、セラピーは不要』と考えるように。しかし(NYから始まった4大ファッション・ウイークでは)15人以上のデザイナーがブランドの新たな姿を発表するなど、クリエイティブな波が押し寄せている。こうした発表はブランドを発見、あるいは再発見する機会になるだろう」とのコメントを紹介し、「椅子取りゲーム」とも言われた最近のデザイナー交代劇をポジティブに評価した。確かに昨今のラグジュアリー不況の一因として、パンデミック期間中からの積極財政の効果一巡や消費の再分散を指摘する声は強い。故に消費者が一時的にラグジュアリーやデザイナーズブランドから遠ざかっているのだとしたら、今シーズンは彼らの知的好奇心を再び喚起することに成功したと言えるだろう。
新デザイナーによるクリエイションが今後ますます楽しみなのは、9組のデザイナーに先駆けてデビューしたサラ・バートン(Sarah Burton)の「ジバンシィ(GIVENCHY)」と、ジュリアン・クロスナー(Julian Klausner)の「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」が半年前のデビューシーズンをさらに超え、進化している様を見せたからだ。
長らく続いたゴスやストリートへの別れを告げ、シルエットにフォーカスすることでミニマルに転じた「ジバンシィ」は、半年前は単品提案だったジャケットやコートに、スリットやタッキングを駆使して美しいドレープを描いたスカートなどを組み合わせ、パワーシルエットとは異なる女性のためのエンパワーメントなスーツスタイルを通して、フェミニニティーの力強さを説いた。サラは、「世界が騒々しいからこそ、私は無駄をそぎ落としたい。女性の着こなしが明快になれば、それもまた一つのエンパワーメント。心の奥底ではセクシーさを求めている女性の『自分の体を受け入れたい』『素晴らしいと感じたい』という願いをかなえることができれば、それは大きな力になるだろう」と話す。業界ではデビュー・コレクションで芽生えたオートクチュール再開への期待がさらに高まっている。米「WWD」によれば、着々とチーム作りに取り組んでいるようだ。
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