2025年のレッドカーペットは、もはや“美しく装う”だけの場ではなくなった。洗練された装いを追求することは前提条件に過ぎず、今求められているのは“注目を集める力”である。人々の会話を生み、ミーム化され、拡散されること。セレブらは、人の審美眼よりもSNSやデジタルプラットフォームのアルゴリズムによって左右される“アルゴリズム時代”を攻略するための戦略としてスタイルを選び、レッドカーペットの在り方そのものを更新した。2025年、特に話題をさらったルックの中には、アルゴリズムに刺さる3つの明確なルールがあった。
ストーリーを拡張する“テーマド・ドレッシング”
今年は、自身が演じた役柄や映画の世界観を反映した衣装を着用する“メソッド・ドレッシング”が進化し、単なる衣装再現とどまらず、映画の物語やキャラクターの成長をレッドカーペット上で語り直す“テーマド・ドレッシング”が主流となった。
リンジー・ローハン(Lindsay Lohan)は、映画「フリーキー・フライデー(Freakier Friday)」のプロモーションに際し、オリジナル作品を想起させるシルエットやスタイリングをZ世代向けに再解釈。かつてのファンに向けたノスタルジーと新鮮さを両立させた装いが世代を超えた共感を呼んだ。
映画「ウィキッド 永遠の約束(Wicked: For Good)」のプロモーションツアーでは、シンシア・エリヴォ(Cynthia Erivo)とアリアナ・グランデ(Ariana Grande)が、それぞれのキャラクターの変化に呼応するように、より洗練された、ダークでドラマティックな装いへと進化。繰り返しではなく成長を感じさせるルックが、強い印象を残した。さらに、アレクサンダー・スカルスガルド(Alexander Skarsgard)は、映画「ピリオン(Pillion)」のプロモーションでBDSM的なコードを前面に押し出した挑発的なスタイルを披露。万人受けを狙うのではなく、あえて文化的な摩擦を生むことを意図したその姿勢は、2025年において最も迅速に注目を集める手法の一つとなった。
レッドカーペットをファッションにおける“リスクを取る場”として捉える点で、ティモシー・シャラメ(Timothee Chalamet)は依然として象徴的存在だ。映画「マーティ・シュープリーム(Marty Supreme)」のプロモーションで着用した、ハイダー・アッカーマン(Haider Ackermann)による「トムフォード(TOM FORD)」のオレンジ一色のルックは、今年最も賛否両論が巻き起こった瞬間の一つだ。同ルックは、瞬く間にミーム化されると同時に、大きな影響力も発揮した。アルゴリズム時代においては、“無難”では注目を集められないのである。
新デザイナーを試す、審査場としてのレッドカーペット
2025年、レッドカーペットはデザイナーの評価の場でもあった。ミラノやパリのランウエイに留まらず、授賞式やプレミアといった場が、ブランドの新体制を判断する審査の場として機能している。
テヤナ・テイラー(Teyana Taylor)は、マチュー・ブレイジー(Matthieu Blazy)が手掛ける新生「シャネル(CHANEL)」をゴッサム・アワードで着用。一方、グレタ・リー(Greta Lee)はジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)による「ディオール(DIOR)」のルックで注目を集めた。いずれも、ブランドの新たな創作の方向性を測る指標となり、SNS上ではそれらをリアルタイムで評価する動きが広がった。さらに、エイサップ・ロッキー(A$AP Rocky)が「シャネル」のアンバサダーに就任したことも、この流れを加速させた。彼が全身「シャネル」で登場したことにより、同ブランドにおけるメンズウエアの可能性にも再び注目が集まり、それがもはや単なる話題性にとどまらず、真摯な文化的提案であることを示した。
リアーナ(Rihanna)も同様に、他を圧倒する存在感でレッドカーペットを支配し続ける1人だ。メットガラ(Met Gala)で披露した「マーク ジェイコブス(MARC JACOBS)」の大胆なドレスや、映画「スマーフ(Smurfs)」でのプレミア上映会で見せた「サンローラン(SAINT LAURENT)」のドレスを自身の体型に沿ってアレンジした装いは、“今年を象徴するマタニティコーデ”として強い印象を残した。こうしたアプローチは、妊娠期のファッションに対する固定観念を大きく変えるものであった。リアーナとエイサップ・ロッキーは、単なる出席者というより、文化的な影響力をもつ存在としてレッドカーペットに君臨しているとも言える。
デミ・ムーア(Demi Moore)は、数十年にもわたりレッドカーペットと良好な関係を築いてきた存在だ。現在は、デムナ(Demna)による新生「グッチ(GUCCI)」のミューズとして再びファッション界の中心的存在となっている。映画「ランドマン(Landman)」シーズン2のプレミアで着用したブラックの特注レースシアードレスは、長年にわたるレッドカーペットでの存在感を象徴するルックだ。
ビンテージが喚起する、ノスタルジーと文化的記憶
2025年は、Z世代によるビンテージ志向が最も可視化された年でもあった。最も効果的であったのは、単なる“古着”ではなく、即座に記憶を喚起するようなルックである。
シンシア・エリヴォは、1997年にアレキサンダー・マックイーン(Alexander McQueen)が手掛けた「ジバンシィ(GIVENCHY)」のシルバーガウンをSAGアワード(全米映画俳優組合賞)で着用。アリアナ・グランデは、2007年のジョン・ガリアーノ(John Galliano)期の「ディオール」をガバナーズ・アワードで披露した。さらに、マイキー・マディソン(Mikey Madison)がクリティクス・チョイス・アワードでまとった1992年秋冬の「ジョルジオ アルマーニ(GIORGIO ARMANI)」、チャペル・ローン(Chappell Roan)が選んだ2003年のクチュール「ジャンポール・ゴルチエ(JEAN PAUL GAULTIER)」など、いずれも即座に当時の記憶を呼び起こすようなアーカイブアイテムを通じて、ファッションの歴史を物語の一部として取り入れていた。
中でも最も強いインパクトを放ったのが、映画「マーティ・シュープリーム」のニューヨークプレミアでグウィネス・パルトロー(Gwyneth Paltrow)と共に登場した娘アップル・マーティン(Apple Martin)が、母が1996年に映画「エマ(Emma)」のニューヨークプレミアで着用したものと同じ「カルバン・クライン(CALVIN KLEIN)」のブラックドレスをまとって登場した瞬間だ。90年代のレッドカーペット文化を知る者にとっては一目で分かるこのルックは、見るものに強烈なノスタルジーを呼び起こした。その数日後には親子がそろって「ギャップ(GAP)」の新広告に登場したことも相まって、この一連の流れは偶然とは思えない展開であった。
2025年、レッドカーペットは文化を映す鏡であったと同時に、文化を再構築する場へと進化した。過去と現在のランウエイがかつてないほど密接に結びつく中で、いくつかのファッションシーンは際立った存在感を放ち、レッドカーペットの歴史に確かな痕跡を刻んだ。