情報筋によれば、プラダ グループ(PRADA GROUP以下、プラダ)は傘下に持つ「ヴェルサーチェ(VERSACE)」の新たなデザイナーとして、「アライア(ALAIA)」のピーター・ミュリエ(Pieter Mulier)=クリエイティブ・ディレクターを任命する可能性が濃厚だという。事実だとすれば、12月12日にわずか1シーズンで退任したダリオ・ヴィターレ(Dario Vitale)前チーフ・クリエイティブ・オフィサーの後任となる。
なお、プラダはミュリエ=クリエイティブ・ディレクターの獲得に意欲的なものの、「アライア」を擁するコンパニー フィナンシエール リシュモン(COMPAGNIE FINANCIERE RICHEMONT以下、リシュモン)はこれに難色を示しており、退任に向けた交渉が難航しているため、「ヴェルサーチェ」との契約はまだ結んでいないようだと情報筋は述べた。プラダは、本件についてコメントは差し控えるとしている。
ミュリエ=クリエイティブ・ディレクターの経歴
ミュリエ=クリエイティブ・ディレクターは、ベルギー出身。デザインと建築を学んだ後、「ラフ・シモンズ(RAF SIMONS) 」でキャリアをスタートした。「ジル サンダー(JIL SANDER)」を経て、「ディオール(DIOR)」のデザイン・ディレクターに就任。その後、2016年から18年までは「カルバン・クライン(CALVIN KLEIN)」のグローバル・クリエイティブ・ディレクターを務めた。同氏は長年ラフ・シモンズ(Raf Simons)の右腕として仕事をしてきたことでも知られ、ラフが「ディオール」で初めて手掛けたオートクチュール・コレクションの舞台裏を追ったドキュメンタリー映画「ディオールと私(DIOR & I)」にも登場している。21年2月から現職。
就任以来、創業者デザイナーのアズディン・アライア(Azzedine Alaia)のレガシーを敬意とともに継承し、女性のボディラインを強調するシルエットなどブランドを象徴するデザインを現代的に再解釈して高い評価を得ている。なお、リシュモンはブランドごとの業績を開示していないが、11月に発表した25年4~9月期(上半期)決算の際、ファッション&アクセサリー部門に属する「アライア」について「引き続き注目に値する成長推進力」とコメントした。
ブランドイメージを「ジャンニやドナテラ時代に戻したい」
「ヴェルサーチェ」は、1978年にジャンニ・ヴェルサーチェ(Gianni Versace)が設立。官能的なデザインと大胆な色使い、ギリシャ神話のメデューサをロゴに用いたゴージャスなスタイルで知られている。97年にジャンニが死去した後は、妹のドナテラ・ヴェルサーチェ(Donatella Versace)がブランドを引き継ぎ、より現代的でパワフルなイメージに。2018年に、マイケル・コース ホールディングス(MICHAEL KORS HOLDINGS、現カプリ ホールディングス)が21億ドル(約3255億円)で買収した。25年4月1日付で、ドナテラがチーフ・クリエイティブ・オフィサーを退いてチーフ・ブランド・アンバサダーに就き、後任としてヴィターレ前チーフ・クリエイティブ・オフィサーが就任。同月10日付で、プラダが12億5000万ユーロ(約2275億円)で買収した。取引は12月2日に完了し、ヴィターレ前チーフ・クリエイティブ・オフィサーは12月12日付で退任。また、ブランドのエグゼクティブ・チェアマンにロレンツォ・ベルテッリ=プラダ グループCSR部門ヘッドが就任した。
なお情報筋によれば、ベルテッリ=ヴェルサーチェ新エグゼクティブ・チェアマンは「ヴェルサーチェ」のブランドイメージやスタイルを、ジャンニやドナテラが率いていた時代に戻したいと考えているという。