2026-27年秋冬パリ・ファッション・ウイーク(以下、パリコレ)が3月2日、開幕した。10日までの9日間、公式スケジュールでは99ブランドがショーやプレゼンテーションを行う。新たにショー枠に加わったのは、これまでプレゼンテーション枠で参加していたウクライナの「リトコフスカ(LITKOVSKA)」とジョージアの「シチュエーショニスト(SITUATIONIST)」。アメリカの「コー(CO)」、韓国の「インク(EENK)」と「タイム(TIME)」はプレゼンテーション枠としてスケジュール入りを果たした。
なお、「ヴァレンティノ(VALENTINO)」はパリコレ終了直後の12日にイタリア・ローマで新作を披露予定。「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」は、新プロジェクト「MaisonMargiela/folders」の一環として、4月1日に上海ファッション・ウイークのスペシャルゲストとして26-27年秋冬のショーを開くほか、ショー翌日から中国4都市でメゾンコードをひもとく展覧会と体験イベントを開催する。
今季のパリコレは、ビッグブランドのデビューショーが目白押しだった半年前のパリコレや今季のミラノ・ファッション・ウイークに比べると、大きなトピックが少ない。そのなかで注目を集めるのは、5年の在任期間にブランドの新たな一章を鮮明に描き、ビジネスの発展に貢献したピーター・ミュリエ(Pieter Mulier)による「アライア(ALAIA)」のラストショーだ。ミュリエは退任後、「ヴェルサーチェ(VERSACE)」のチーフ・クリエイティブ・オフィサーに就くことが決まっている。
一方、「バルマン(BALMAIN)」は、14年間にわたりブランドを率いてきたオリヴィエ・ルスタン(Olivier Rousteing)の後任として新クリエイティブ・ディレクターに就任したアントナン・トロン(Antonin Tron)によるデビューショーを開く。トロンは、新たな職務に専念するため、これまでパリコレで発表していた自身のブランド「アトライン(ATLEIN)」を休止。ルスタンが確立したグラマラスで力強い“バルマン・アーミー“のイメージを受け継ぐのか、それとも全く異なる方向へと舵を切るのか。フレッシュな提案に期待したい。
初日はインディペンデント・ブランドが活躍
初日は、今季も若手インディペンデント・ブランドの自由なクリエイションが中心となった。2024年度「LVMHヤング ファッション デザイナー プライズ(LVMH YOUNG FASHION DESIGNER PRIZE、以下LVMHプライズ)」でグランプリを受賞したエレン・ホダコヴァ・ラーソン(Ellen Hodakova Larsson)によるスウェーデン発の「ホダコヴァ(HODAKOVA)」は、内省や自己省察に思いを巡らせた。序盤に登場したのは、後ろ身頃を大胆に削ぎ落とし、首に掛けるようにして着用したトレンチコートやテーラードジャケット、オイルドジャケットなどのアウター、そして同じくフロントだけのスラックス。背面はあらわになり、素肌やトランクスのようなショーツがのぞく。それは、公的なペルソナとプライベートな自分の間の緊張感を静かに示すメタファーだという。中盤には、スイングトップやチェスターコートの背面に共布で仕立てたジャケットの片側の前身頃をドッキングしたアイテムから、まるでモデルが抱きしめるようにして着る前後逆のジャケットやファーコートまでを提案。自己との対話を示唆する。
そして、これまでも楽器や本、傘の骨なども用いてコンセプチュアルなコレクションピースを制作してきた彼女らしい意表を突くアップサイクルも健在。今季は、クラシックな布張りの木製椅子やペルシャ風のじゅうたんといったインテリアと馬の毛でできたバイオリンの弦をトップスやドレスに作り変え、ウエアラブルなアートを打ち出した。
一方、今年度の「LVMHプライズ」でセミファイナリストに選ばれたベルギー・アントワープ拠点の「ジュリ ケーゲル(JULIE KEGELS)」が披露したのは、私的な自分と社会の中で見られる自分との境界が曖昧になる現代において“外見“の持つ意味を問いかけるコレクション。その手段として、演出にもデザインにも“影”を取り入れた。ランウエイに登場したモデルたちの背景に映し出されたのは、一見歩くモデルたちの影。ただ、それは事前に収録された映像であり、実際のモデルとは異なる動きを見せる。
コレクションのカギとなるのは、極端に長い背面の生地を折り返し、端を肩で留めたデザイン。それはケープやマントのように風をはらんだり、丸みのあるコクーンシルエットを描いたりするが、人の後ろについてくる影や残像のような印象を与える。また、大きなボックスを携えたスリムなロングドレス姿のモデルの後には、そのシルエットを服にそのまま落とし込んだような突起のあるドレスを着たモデルが登場。さらに、そのシルエットのぼやけた影をプリントしたシャツとスカートが続き、一つのテーマから広がるコンセプチュアルからウエアラブルまでの巧みな表現を見せた。
そのほかに目を引いたのは、フロント部分を大胆に折り返してショールのように着こなすオイルドジャケットをはじめ、カットアウトとサイドのスリットを加えたコンパクトなセーター、袖の付け根を背面にずらしたジャケット、クラシックな壁紙を想起させるダマスク柄のスリムスカートやショートコート、端をギザギザにカットしたトップスやロンググローブなど。デビューから5シーズンを迎え、どこか風変わりでありながらフェミニン&エレガントに仕上げる彼女らしいアプローチに磨きがかかっている。