ファッション

【2026年春夏パリコレリポートvol.2】サラ・バートンによる「ジバンシィ」の快進撃、南仏の湿原を駆け抜ける「エルメス」

2026年春夏パリ・ファッション・ウイークが、9月29日から10月7日まで開催され、100を超えるブランドが公式スケジュールで新作コレクションを披露しました。10年に1度あるか無いかと言われるほど変化のシーズンだった今季は、新たに就任したデザイナーによるデビューショーが話題をさらいましたが、それだけでなく見応えのあるコレクションも多数。現地取材を担当した村上要・編集長と藪野淳・欧州通信員が厳選したブランドを3回に分けて紹介します。

第2回は、10月2日から4日までのハイライトをお届け。新生「バレンシアガ(BALENCIAGA)」や「ロエベ(LOEWE)」「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」のショーやバッグ&シューズ、そして「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」「ヨウジヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)」は別途リポートしているので、ぜひご覧ください!

◼️山本耀司が示す、自らの目で体験することの大切さ 「ヨウジヤマモト」とスタジオジブリの名曲に見る共通点
◼️内部昇格した新デザイナーによる「カルヴェン」は、前任の「家を居心地の良い空間に」路線を継承【26年春夏 新デザイナーの初コレクションVol.9】
◼️新生「ロエベ」は、鮮烈な色彩とスポーティーなミックスで若々しくシフト【26年春夏 新デザイナーの初コレクションVol.10】
◼️グレン・マーティンスの「マルジェラ」はプレタポルテを再定義 クチュール傾倒のガリアーノよりリアルに【26年春夏 新デザイナーの初コレクションVol.11】
◼️「バレンシアガ」に「鋏の魔術師」復活 ピエールパオロは新素材で“形ある軽やかさ”の極みに【26年春夏 新デザイナーの初コレクションVol.12】
◼️新生「ロエベ」のバッグ&シューズ34連発 不朽のアイコン“アマソナ“のモダンな再解釈に注目【26年春夏 新デザイナーの初コレクションVol.13】
◼️新生「メゾン マルジェラ」のアクセサリー18選 “4本ステッチ”や“タビ”など象徴的要素の新解釈は?【26年春夏 新デザイナーの初コレクションVol.16】
◼️「コム デ ギャルソン」は「完成されたものを破壊」 希望を捨てずに、ファッション業界の“破壊的再興”を訴える
◼️新生「バレンシアガ」のアクセサリー50連発 独特の色彩感覚光る新作【26年春夏 新デザイナーの初コレクションVol.17】

「ザ・ロウ」は、クチュール級の
アイテムさえ自由奔放にスタイリング

村上:ザ・ロウ(THE ROW)」は、今シーズンもスマホでの撮影禁止。小さな画面に神経を注ぐのではなく、目の前の洋服に注目してほしいというブランドの願いはだいぶ浸透してきましたが、まだ若干スマホを掲げている方、いらっしゃいますねぇ(苦笑)。

結果1920年代を思わせるローウエストのシルエットをベースに、上質な素材を高度に操り、美しさと着心地を両立したスタイルにあふれた今シーズン、「ザ・ロウ」もまた、この時代のオートクチュールにインスピレーションを得ました。とはいえ、刺しゅうに使ったシルク糸は染色も加工もせず、遠くから見ると自然でかすかに光る程度。切りっぱなしのディテールも含め、このブランドもまた「インティメイト(親密)」なラグジュアリーを打ち出します。というか考えてみれば、インティメイト・ラグジュアリーって、「ザ・ロウ」が走りなのかもしれません。

ブラック&ホワイトを基調としたカラーパレットにはサッシュベルトのアクセントを加えましたが、シルエットはだいぶ細くなりました。変わらないのは、自由奔放なスタイリング。前面にはフェザーをあしらってクチュール感満載のスカートには、あえてシンプルなタートルネックニットのレイヤード。レイヤードのニットは、1枚に袖を通し、もう1枚はストールやバラクラバのように被るだけです。タンクトップはまさかの3枚レイヤード。「え!?なんで!?」って思うけれど、そのくらい気負わない、自由でいいというメッセージは、「ザ・ロウ」が再三再四発信し続けているものですよね?

ビーチと都会の装いを融合
トレンド感満点の「ラバンヌ」

藪野:今シーズンは都会の装いと海にまつわる要素を融合したスタイルが多く見られますが、「ラバンヌ(RABANNE)」にも楽観的なビーチのムードが漂います。「私はブルターニュの海辺育ち。その雰囲気やビーチの即興的な着こなしの感覚を表現したかった」と語るジュリアン・ドッセーナ(Julien Dossena)は、1950年代を参照。当時の水着に着想を得た構築的なビキニトップや股上の深いマイクロショーツ、海から上がったサーファーを想起させるウエットスーツ風のパンツを、前面に大きな穴の空いたクロップドトップスやミニドレス、ローウエストのスカート、パイル風ニットのストライプポロシャツ、Tシャツ風トップス、オーバーサイズのレザージャケットなどを合わせて、リラックス感と華やかさが共存するスタイルを描いています。

そこに「ラバンヌ」らしさを加えるのは、薄い金属板をクラッシュするかのように作ったスカート、そしてゴールドやシルバーに輝くドレスやスカート、大ぶりな花のネックレス。パンプスやサンダルにも、メタリックレザーで作ったヤシの葉モチーフを飾りました。スカートやドレスにあしらわれた立体的な花モチーフは、クラシックなスイムキャップに用いられていた装飾のイメージ。夕暮れ時のグラフィックやトロピカルプリントを配したTシャツ風のトップスに、ぷっくりとしたビーチサンダルなど、リゾート気分を盛り上げるアイテムがそろいました。

サラ・バートンの快進撃
「ジバンシィ」のスーツに感銘

村上:サラ・バートン(Sarah Burton)がトップに就いて以降、「ジバンシィ(GIVENCHY)」の快進撃が続いています。今シーズンは、スーツが宿すフェミニニティーのパワーを表現。となると普通はパワーショルダーのスーツを考えるのでしょうが、バックステージでバートンは、「男性のようなスーツ、パワーショルダーという要素を加えたスーツではなく、むしろ削ぎ落として簡素にするスーツこそ女性性を表現するのでは?と考えた」と教えてくれました。

結果生まれたのは、例えば後ろ身頃を大胆にカットすることで背中を覗かせて官能性を漂わせたり、“抜き襟“のようなパターンを取り入れることでデコルテ周りをあらわにしたり、深いスリットを刻んだスカートを合わせたりのスーツルック。ウエストは一律でくびれているので、背中を切っても、“抜き襟“にしても、そのパターンは非常に複雑なハズで、それを美しく仕上げられるのはベテランのなせる技だなぁ、と改めて、つくづく思いました。前シーズンのアイデアを発展させるようなクリエイションで、さらにトップスの袖を腰に巻き付けているかのようなノッティングのディテールを加えることで女性らしさを増したり、カジュアルダウンしたムードを表現したりしているのも好印象ですね。

前回の課題だったアクセサリーも、格段に良くなりました。バレル型のバッグは、硬質的で冷たいカンジのチェーンがピッタリ。トゥに大きな花が咲いたり、まるでボンデージやハーネスのように細いレザーが足を縦横無尽に走ったりのピンヒールは、華やかなシーンからセクシーを演出したい一夜まで活躍しそうです。バックステージでバートンは、「『自分の体を誇りたい』と素直に思える洋服やバッグ&シューズを生み出すことも、エンパワーメントの1つ。騒々しい時代だからこそ、削ぎ落とすことで、声は届きやすくなるのでは?」と続けました。

冴えるピーター・ミュリエの「アライア」
テンションとトーションって何?

村上:ピーター・ミュリエ(Pieter Mulier)の「アライア(ALAIA)」は、人間工学的とも言えるし彫刻的でもあるフォームの探求を続けつつ、コントラストの効いたシルエットを打ち出します。今シーズンは形あるものと流線形、覆うことと隠すこと、そして男性性と女性性などの間に存在すると考える「テンション」、緊張感に着目。構築的なオーバーサイズのジャケットに合わせるのは、ほとんど生地の存在が確認できないフリンジのスカート。前者は形を維持し、逆に後者は形なんて存在しないほど揺れ動きます。オーバーサイズのトレンチコートは、パテント素材とジャージーのような素材を切り返し、ベルトでウエストマーク。すると、双方の素材は全然違う形でたわむんです。こういう相反するシルエットや素材が生み出す対比を「緊張感」と表現しているのでしょうね。

加えて今シーズンは、ジャージーのような素材で作ったサックドレスを下に引き伸ばし、まるで繭の中に入っているかのようなシルエットも見せました。こちらは「テンション」ではなく「トーション」、ひねりの一例。伸縮する素材は、引っ張られると曲線の身体を撫でながら下へと向かいますが、その際に若干ひねられます。このようにプリーツやマクラメを加えた結果、生地に角度がつくことで、左右だけじゃなくナナメ方向にも揺れるフリュイディティー(流動性)に心血を注いだんだと思います。

会場もユニークでした。デジタルサイネージの天井には素肌の女性を投影。もちろんモデルは衣服をまとって床を歩きます。天井と床、素肌と衣服、ここでも二項対立を表現して、まさにその間に挟まれた空間こそ「テンション」であることを表現したんだと思います。

靴、ブラジャー、スプーンが装飾に
「ジュンヤ ワタナベ」のアートな服

藪野:ジュンヤ ワタナベ(JUNYA WATANABE)」には、いい意味で裏切られました!いつものようなロック音楽が響く中をモデルが足早に歩く疾走感のあるショーを想像しましたが、今季はその真逆を行くような演出。ブライアン・イーノ(Brian Eno)とビーティー・ウルフ(Beatie Wolfe)によるスローテンポのアンビエントミュージックを背景に、伝統的なクチュールショーさながら小さなカードを持ったモデルたちが時々静止してポーズをとりながら歩きます。

コレクションのテーマは、”日常から生まれた非日常のアート”。身近にある既製品を素材の一つと捉え、本来の用途とは異なる文脈で用いて、常識的な手法では生み出せないフォームを探求しました。例えば、黒のシックなロングドレスの肩に裁断された真っ赤なプラットフォームパンプスをいくつも取り付けたり、ハンガーにかけたトレンチコートやシャツドレスで前身頃と後ろ身頃を作るようにハンガーを組み合わせたり。ランジェリーやストローハット、日傘からフォーク、スプーン、ワイングラスまで日常に存在するものが、ドレスを飾ります。

それだけなく、次第に「常識的な手法では生み出せないフォームの探求」はより抽象的なアプローチに。ワイヤーやボーンを駆使して生む、幾何学的な形状が飛び出すオールブラックのドレスやパンツスタイルを提案しました。

「エルメス」は南仏カマルグへ
ハーネスを使った多彩な着こなし

藪野:前述の通り、今季は多くのデザイナーが海やビーチにインスピレーションを得ていますが、「エルメス(HERMES)」は一味違います。ナデージュ・ヴァンへ(Nadege Vanhe)が思い描いたのは、湿原に恵まれ、塩の生産地や白馬の放牧でも知られる南仏カマルグ。「手綱を緩めて自由に馬を走らせること」を意味する”フリー・レイン(Free Rein)”と題し、湿地を馬に乗ってさっそうと駆け抜けるような自由でワイルドな女性像を描きました。

デザインの着想源となったのは、アーカイブに保存されているカマルグ地方の古い鞍。その特徴である背もたれの曲線的なフォームを随所に取り入れています。キーアイテムは、胸下で固定するホルターネックのレザーハーネス。その下にジャケットなどのアウターやブラトップを合わせたり、首にかけて垂らしたスカーフを通したりしたスタイルが中心です。合わせるのは、ハイウエストのニットショーツをのぞかせるマイクロミニ丈のショーツやニーレングスのバミューダ、深いスリットを入れたスリムなスカートなど。ナデージュは、上品でありながらヘルシーな官能性と活発さを併せ持つスタイルを表現するのが、本当に上手いですね。また、現地の漁師が着る作業着や漁網は、サロペットのようなパンツやシアートップスとして昇華。南仏で受け継がれる技法も応用したストライプや格子を描くキルティングが、アウターからドレスにまでグラフィカルな表情をもたらします。

サンドベージュやカーキ、ブラウンから夜の海を思わせるブルー ノワールへと移り変わるラインアップに加えたのは、1970年代のフラワーパターンと2003年の年間テーマ”地中海”を表現したストライプというアーカイブのシルクスカーフから採用した2つのプリント。スカーフとしてだけでなく、今季はウエアのファブリックとしても大胆に用いているのが印象的でした。バッグは“ケリー ホーボー“や”ケリー ダンス“、スエードやインサイドアウトの“バーキン“、ボストンの“ヴィクトリア“から派生した小ぶりなトップハンドルバッグ、丸みのあるシェイプのサドルバッグなどがランウエイに登場。足元は、ロングブーツの“ジャンピング“や単色でまとめたレザースニーカーでまとめています。特に落ち着いたトーンの服に合わせた鮮やかなオレンジやパープル、赤のバッグが効いていました。

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