ファッション
特集 パリ・コレクション2025-26年秋冬

新ディレクターの「ドリス ヴァン ノッテン」は過去とドレスに傾倒し、さらに自由に

今回のパリ・ファッション・ウイークにおけるハイライトの1つ、ジュリアン・クロスナー(Julian Klausner)新クリエイティブ・ディレクターによる「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」は、過去を振り返ることで、これから先の未来像を示した。確かにこれまでとは少し違うけれど、一方で皆が期待する「ドリス ヴァン ノッテン」らしさも多分に残している。司令塔が不在で、序盤から色と柄に溢れたり、官能性を直球で投げかけたりで見るものを戸惑わせた半年前から一変した。

創業デザイナー好んだよう、序盤は静かな幕開けだった。ファーストルックは、肉厚のウールで作ったマキシ丈のチェスターコート。前合わせの一部には白や茶のレザーでステッチを配し、バックベルトは結んで緩やかにウエストマークするものの無造作に垂らして、「ドリス」らしい“人間味”を醸し出す。続いたのは、オリーブのチュールに花柄のベルベットをのせたホルターネックのアシンメトリーなドレス。最初の2ルックで肉厚から繊細な素材まで、無地から色柄まで、そしてマスキュリンからフェミニンまでと大きく振り切った。

以降は、相反する両者の間を何度も行き来する。例えば端正なジャケットには、クロコダイルの型押しを施したコルセット。ボトムスはプリーツ入りのパンツのように見えるが、体の線を拾うトレンカだ。小紋やタイストライプのサテン風生地は胸元で十字に巻き付け肌を露わにするが、ボトムスはタキシードパンツのよう。その後も意匠性の高い生地を使ったジャケットやプリーツパンツを基調としながら、ドレープする素材のインナーや毛足の長い生地で作ったオーバーコートを合わせて、「ドリス」らしい折衷主義を探求した。無地から小紋柄まで、そして艶のあるサテンから絨毯のように起毛感のある素地まで、選んだ生地も多種多様。水玉に丸いスパンコールを加えるなど、柄の強さを際立たせる工夫も忘れない。カラーパレットは若干レトロに傾いたが、リッチなジュエルトーンも健在だ。

洋服への想い、も変わらない。会場は、パリの名所のオペラ座。アシンメトリーに着て片方の肩をあらわにするモヘアのニットや、その下に着たシンプルなストラップのインナーなどは、バレエダンサーを思わせる。ホルターネックのドレスはモダンダンサーの衣装のようだし、ビジューを繋げて作ったトップスなど装飾性の高い洋服は舞台衣装さながら。オペラ座でスポットライトを浴びる女性たちがまとってきた洋服にも想いを馳せた。

異なるのは、ドレスへの傾倒と、そのアプローチ。自由に素材と戯れたドレスにより、「ドリス」はさらに自由になった印象を受けた。創業デザイナーによる「ドリス」は、素材を吟味する分、シルエットはシンプルにまとめた印象がある。生地を手繰り寄せたり、ひねったりなどは控えめだった。一方、ジュリアンの「ドリス」は、技巧的。ネクタイのような生地をいたるところで手繰り寄せたり、ヘムラインを縫うことで自立するペプラムのようなヒダを作ったり。数々のドレープの隙間からは、従来の「ドリス」よりも肌が覗く。官能的と思うかもしれない。とはいえ半年前のように、長年のファンが驚くような直接的な表現はずいぶん抑えられた。

創業デザイナーのドリス・ヴァン・ノッテンは、過去のスタイルを着想源にはするけれど、自身の過去を振り返る人ではなかったという。確かに歴史あるメゾンで働く現職のデザイナーは過去の偉人の足跡を振り返るだろうが、ドリスにとってブランドの足跡は自分自身。格段振り返る必要はなかったのだろう。しかしジュリアンは、すでに「ドリス ヴァン ノッテン」で働いて6年というキャリアの持ち主ではあるが、ドリスとはあくまで別人。ブランドの継承においては、過去を振り返る必要もあろう。「ドリス ヴァン ノッテン」というブランドは、初めて過去を振り返っているのだ。ゆえに新しい「ドリス」は、変わらないところと、変わったところが入り混じり、「ドリス」だけど新しいという境地に辿り着いた。

その意味において、ジュリアンをトップに据えたのは正解だったのだろう。スタイリングだけを手掛けたという前回のメンズ、そして全力投球だった今回のウィメンズで明らかなのは、ジュリアンは、もしかするとドリス以上に耽美的で、古くから美しいとされるものに価値を見出し、現代に持ち込める人物でありそうだということ。きっと今後も、ドリスのこれまでのクリエイションに最大限の敬意を払うことだろう。これからの「ドリス ヴァン ノッテン」は、前進するため、創業デザイナーの過去を良い意味で常に振り返るのだ。

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