2025-26年秋冬パリ・ファッション・ウイークも、いよいよあと2日。終わりが見えてきました!今日は朝イチからパリで大人気の「セザンヌ(SEZANE)」の創業者であるモルガン・セザロリー(Morgane Sezalory)さんのインタビューをしてから、コレクション取材をスタート。今季も今の気分を巧みに表現した「サカイ(SACAI)」やパリ北駅に隣接する元駅舎が舞台の「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」のショーに加え、ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)の集大成となる「ロエベ(LOEWE)」のプレゼンテーションが行われた8日目をリポートします。
藪野淳「WWDJAPAN」欧州通信員:パリコレ終盤に行われる「サカイ」のショーは、いつもシーズン中になんとなく自分が感じていたムードが表現されていて、腹落ちする感じがあります。今季も混沌とした時代に対する一つのメッセージとして感じていた安らぎを求める気持ちを、体を包み込むようなスタイルでの連打でとても明確にリアルな形で見せてくれました。コレクションの詳細や阿部さんの思いは別途リポートしていますので、下記をご覧ください。
無骨さや強さの中にエレガンスを感じる
若手ブランド「ヴォートレイト」
藪野:続いてやって来たのは、2021年に設立された若手ブランド「ヴォートレイト(VAUTRAIT)」のショー。以前から生で見たいと思っていたのですが、なかなかスケジュールが合わず、今回初めてショーを見ることができました。デザイナーのヨナサン・カーメル(Yonathan Carmel)は、伝統的な技術や手仕事をカギに、時間の経過によって新たな個性や魅力が生まれるようなコレクションを手掛けています。連続性のあるストーリーに目を向ける彼は今季、全く新しい作品を生み出すのではなく、アーカイブやビンテージアイテムを作り変えました。ボリュームのあるドラマチックなウエアは、ユーズド感のあるレザーやムートンのライダースジャケットやミリタリーアウター、幅広い肩が特徴的なパワフルなテーラリングなどの脱構築が主軸。無骨さや強さの中に丸みのあるシルエットや布のドレープで生む柔らかさを加え、エレガンスを感じるアイテムに仕上げているのが印象的でした。
「マリーン セル」も
「ガブリエラ ハースト」もアニマル
村上要「WWDJAPAN」編集長:「マリーン セル(MARINE SERRE)」のショー会場は、パリ造幣局博物館。そこで貨幣ではなく、お守りとしてのコインをキーモチーフにしたコレクションを発表しました。ワークシャツやチェスターコートのボタンをコインに変えたり、もちろんコインモチーフのネックレスなどを提案したり。お守りの力を備えた女性は、パワフルです。「マリーン セル」らしいセカンドスキンはストレッチレザーに変わり、大人っぽいコートやサテンスカートのスタイルには虎柄のボディースーツを合わせます。ビンテージ加工のレザーブルゾン、オーバーサイズのMA-1、フェイクファーの襟が存在感抜群のピーコートなど、力強いアイテムが続々。そこに官能的なスリップドレスを合わせるのは、昨今の鉄板とも言えるポピュラーなアイデアですね。
お次の「ガブリエラ ハースト(GABRIELA HEARST)」は、サステナブルなアプローチで、地球という星を司っているのか、もしくはその恩恵を享受している女神を描きました。
ボリュームたっぷりのカシミヤムートン(果たして一体おいくら⁉︎)や、象嵌細工でシェブロン柄を描いたようなフェイクファーコート、フェイクファーを編み込んだケーブルニット、そして蛇というよりは大蛇を思わせるパイソン柄のライダースブルゾンと貫頭衣のようなドレスなど、“動物からの贈り物”をありがたく享受して、洋服として長らく着用している古代の女神のような雰囲気です。こうした素材をエシカルに調達したり、代替素材を選んだりしているのもポイントですね。
ただメッセージ性が強いからこその“野生味”は、毎回少し気になるところです。蛇柄のウロコは大きすぎ&リアルすぎて、そしてそれだけで大きなトートやビスチェトップスを作るので、正直ちょっと近寄りがたい雰囲気。“動物からの贈り物”を賜っているというより、“蛇を狩った”というムードで、本能的に「素敵」と思える女性は少ないかも。体のラインを拾う大好きなロングドレス含めて、かなり自分に自信のある女性じゃないと着こなせないイメージを、いかに女性のエンパワーメントという文脈でコミュニケーションできるか?が問われそうです。
渾身の作品が並ぶ「ロエベ」
ジョナサン・アンダーソンの集大成
藪野:「ロエベ」は今回、ショーではなくプレゼンテーション形式でウィメンズとメンズのコレクションを一緒に発表しました。3月17日、正式にジョナサン・アンダーソンがブランドを去ることが発表されましたが、すでにメンズコレでもショーを行わず、ウィメンズの時期もプレゼンテーションと分かった時点でほぼ確実と言える噂も出回っていたので、皆これが彼が「ロエベ」で手掛けるコレクションだと分かっていて……。ちょっと複雑な気持ちで会場に向かいました。
会場は、最近ファッションショーの会場として使われることもあるカール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)の元邸宅。入ると、そこには2022-23年秋冬のショー会場やキャンペーンビジュアルで見たアンシア・ハミルトン(Anthea Hamilton)によるカボチャのオブジェが置かれていて、すでに懐かしい気持ちになります。2フロアからなる17の部屋には、過去にショーやキャンペーンで協業してきたアーティストの作品がトルソーに着せた新作や制作過程の展示と共に並べられ、まさにアートやクラフトを愛し、その価値をメゾンに浸透させてきたジョナサンの11年の軌跡を見ているかのようです。
そして、「アイデアのスクラップブック」として構想したというコレクションにも、複数のアイテムを一体化したトロンプルイユや比率を変えて生み出す独創的なプロポーション、ツイストされたシルエット、大胆なシェイプやボリューム、男女で共有する世界観、アーティストとの協業など、ジョナサンがこれまでに確立してきたデザインコードが存分に生かされています。美しいレザーをはじめとする上質な素材とクラフト的な手仕事や職人技術を生かして作り上げられたアイテムは、まさに渾身の作品。特に、細いチューブ状のオーガンジーの中にパールを入れ、熱を加えて粒の形状をつけた後にパールを抜いて軽やかに仕上げた鮮やかなドレスや、袖や身頃にスラッシュを入れることで中を覗かせた滑らかなナパレザーのブルゾンやトレンチコート、ジョセフ&アニ・アルバース財団(Josef & Anni Albers Foundation)の協力のもと制作されたアート作品とファッションが融合したコートやバッグが目を引きました。細かい部分までこだわりが感じられるアイテムは、見応えたっぷり。ツアーで一通り説明を受けた後も時間が許す限り会場を何周もして、じっくり見直してしまうほど素敵なプレゼンテーションでした。
そんなジョナサンのクラフトへの情熱やメゾンの歴史は、ちょうど明日から5月11日まで、東京・原宿で開催される展覧会「ロエベ クラフテッド・ワールド」で見ることができます!
シルエットの探求を続ける「ロク」
そろそろ次の一手に期待
藪野:「ジーユー(GU)」とのコラボ第2弾も4月に発売予定のロック・ファン(Rok Hwang)による「ロク(ROKH)」は、自身のコレクションではシルエットと装飾的な手仕事の探求を継続。今季は、陶芸家ルーシー・リー(Lucie Rie)の作品に見られるダイナミックな輪郭からインスピレーションを得ました。ベースとなるのは、ブランドを象徴するトレンチコートやテーラリング。そこに柔らかな布のドレープで作る体を包み込むように膨らむバルーンシェイプをはじめ、シルエットに変化を加えるボタン開閉や縦横に走るファスナー、花の立体装飾、幾重にも重ねたフリル、バックルがたくさんついたベルト、袖やスカートのパフやドレープが生むボリュームを取り入れて、構築性と流動性が入り混じるスタイルを作り上げています。
「ロク」らしさをとても感じられるコレクションではありますが、既視感のあるデザインが多いという印象も否めず。すでに「ロク」らしいスタイルは十分に確立されているので、そろそろ次の一手も見てみたいと思いました。
村上:本日のラストは、「ルイ・ヴィトン」。ショー会場が発表の直前まで明かされず、ゲストはパリ・ファッション・ウイークの期間中ずっと「どこでやるの⁉︎」とウワサしていましたが、パリ北駅に隣接する駅舎として使われていた空間でした。
ショーのレビューは、こちらをご覧ください。