2025-26年秋冬パリ・ファッション・ウイーク(通称パリコレ)が3月3日に開幕した。今季は3月11日までの8日間、公式スケジュールには108ブランドが名を連ね、ショーやプレゼンテーションで新作コレクションを発表する。
新たにスケジュールに加わったのは、これまで独自の日程と場所で発表を行なっていた「アライア(ALAIA)」や、ハイダー・アッカーマンがクリエイティブ・ディレクターに就任し、ミラノから発表の場を移した新生「トム フォード(TOM FORD)」2024年度「LVMHプライズ」でグランプリを獲得したスウェーデン発の「ホダコヴァ」など5組。サラ・バートン(Sarah Burton)が手掛ける「ジバンシィ(GIVENCHY)」、ジュリアン・クロスナー(Julian Klausner)の正式デビューとなる「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」など、新たな章の幕開けにも注目だ。
初日には、「CFCL」や「ヴァケラ(VAQUERA)」「ウェインサント(WEINSANTO)」「キムヘキム(KINHEKIM)」がショーを行った。
CFCL
ブランド設立から10回目のコレクションとなる「CFCL」 は、おなじみとなっていた会場パレ・ド・トーキョーを離れ、今季はポンピドゥー・センターのすぐ横にある関連組織、フランス国立音響音楽研究所(IRCAM)の地下ホールでショーを開催。残響をコントロールする可動壁とマルチスピーカー・システムを備えた空間が実際に「CFCL」の工場で無縫製ニットが編まれる機械音で包まれ、ショーは幕を開けた。今回の音楽は、サウンドアーティストの細井美裕が製造工程を辿って音を採取し再構築した作品だという。
高橋悠介クリエイティブ・ディレクターは今季、ブランドの出発点に焦点を当て、ニットのみで服を提案する試行錯誤の過程を「線」に見立てた。そんな線は、今季のデザインのカギになる。例えば、平面的なパターンから作った黒の中綿ブルゾンは、ラウンドフォルムを描くように大きくカーブする袖の輪郭を鮮やかな赤で強調。そのほかにも、グラフィカルなジグザグを編みで描いたり、幅の異なるプリーツを積み重ねたようなデザインで広がるシルエットを生み出したり、ストライプが裾に向かって広がっていくさまを赤とショッキングピンクのコントラストで表現したり。終盤には、無縫製ニットの基本となる筒状の構造とゴールドのメタリックな糸を生かし、ミニマルでありながら華やかなドレスアップの着こなしを披露した。
「CFCL」のスタイルは毎シーズン、劇的に変わるものというよりも、積み重ねながら進化していくものだ。今季も、アイコンの“ポッテリー“シルエットに見られるようなペプラムや、リボン状のニットパーツを手作業で取り付けて表現するフリンジ、シアードレスに煌めきを加えるスパンコールなど、これまでに用いてきたアイデアを応用。素材も再生ポリエステルを軸にしつつ、ふわふわしたモヘアを取り入れるなど、新たな試みが見られた。
VAQUERA
6月にアトリエと活動拠点をパリに移すというニューヨーク(NY)発の「ヴァケラ」は、強みである反骨的なエッジを効かせながらストリートで実際に着用できるかを考え、昨シーズンから彼らなりのリアルなワードローブを探求している。ブランドを手掛けるパトリック・ディカプリオ(Patric Dicaprio)とブリン・タウベンシー(Bryn Taubensee)は、NYでの活動を振り返り、過去を引用しながら新たな視点で未来を見据えた洗練されたルックを生み出す「未来のノスタルジア」というアイデアを軸に据えた。そして1920年代と80年代に着目し、力の象徴であるパワーショルダーに共通する美学を見出した。
そんな今季は、厚めのパッドを入れて強調した肩のラインを筆頭に、サイズやボリュームの誇張がポイントだ。テーラードジャケットは子どもが父親のものを着たかのような大きさで、中には裾をばっさりとカットしたものもある。そこに合わせるパールネックレスやベルトも極端に拡大。アイコニックなデザイン要素であるブラジャーも巨大化し、肩にかけてワンショルダーのトップスにしたり、腰に巻いてエプロンのように垂らしたり。パフリーブやバルーンシェイプを用いたドレスやスカート、マキシ丈の人工ファーコートは、ボリュームたっぷりに仕上げている。
ドーバー ストリート マーケット パリ(DOVER STREET MARKET PARIS)の支援を受ける同ブランドは、この数年でコレクションがより洗練され、ビジネスも広がっている。今後、パリに拠点を移してのさらなる飛躍に期待したい。