2026年春夏のメンズ・ファッション・ウイークがスタート。久々にメンズコレサーキットに舞い戻った編集長・村上と、初参戦のヘッドリポーター・本橋が、ヨーロッパを覆う熱波に負けないアツいリポートをお届けします!今回はミラノ・コレクションの2日目、後編。
サントーニ(SANTONI)
村上:私は「サントーニ(SANTONI)」のプレゼンテーション会場へ。今シーズンは“セタレザー”を使った、グッドイヤー製法のローファー“カルロ”がイチオシです。“カルロ”は元々反り返りが抜群で、驚くほどグニャっと曲がるんだけど、そんなシューズに使ったのが“セタレザー”。「セタ」とはイタリア後で「シルク」を意味しており、文字通りシルクのようの滑らかな肌触りです。足を入れるとシルクのような肌触りに魅了され、歩けば反り返りのよさゆえの歩きやすさでノックアウト!ってカンジでしょうか?写真からも柔らかさが伝わるでしょう?でも、これは高額でございますよ、きっと。
厚底などイマドキなデザインを「追随」するのではなく、専業ブランドならではの技術力ゆえの心地良さ「追求」したのは大正解!真っ白な美脚パンツの男性が溺愛するコト間違いなしでしょう。
ポール スミス(PAUL SMITH)
本橋:「ポール・スミス(PAUL SMITH)」は今回、パリからミラノに舞台を移してのショーでしたが、いつも通りの安定感でした。レトロなサマーニットや絶妙なカラーアクセントなど、“らしさ”をしっかりキープ。ショー後のフィナーレでは、ポール・スミス御大がランウエイに登場して、観客に笑顔で手を振るサービス精神たっぷりのパフォーマンス。あたたかい空気に包まれました。御年78歳。まだまだ元気に、現役で服を届けてくれそうですね。
村上:そろそろシルエットは少しずつアップデートしても良いと思うんですけれどね。特にアウターは、もう少しバリエーションを豊かにしてみてはと思うのですが、御大、いかがでしょうか?カラフルなシャツや、遊び心たっぷりの小物同様、シルエットからファッションの世界を探検してみたい男性は、「ポール・スミス」のようなブランドがさまざまなスタイルとフォルムを用意してくれたら嬉しいと思うんです。「アミ パリス(AMI PARIS)」や「ルメール(LEMAIRE)」は一歩先って感じだからこそ、「ポール・スミス」には半歩先を期待してしまいます。
モルディカイ(MORDECHAI)
本橋:僕だけ行った「モルディカイ(MORDECHAI)」は、なんとフェンシング場でのショーでした。会場が狭くて、めちゃくちゃ熱がこもる。灼熱だった高校の武道場の熱さを思い出しました。そんなクソ暑い中でモデルたちが突然取っ組み合いを始めたんです。きっと武道をイメージしたコレクションだからでしょう。いや、そこまでしなくても伝わるよって言ってあげたかったです。
服自体は、フェンシングのジャケットのようなジップアップブルゾンや、ミリタリー由来のカーゴパンツ、ユニフォームライクなスラックスなどが印象的。ボタンやステッチのアクセントが効いていました。武道着のような帯のディテールもさり気なく取り入れていましたね。
改めて思ったのは、イタリアブランドってスポーツの要素をオシャレ着になじませるのが上手いな、と。方向性は少し違いますが、たとえば「ディースクエアード(DSQUARED2)」なんかもそういう文脈で語れるブランドですよね。
ヤコブ コーヘン(JACOB COHEN)
村上:「ヤコブ コーヘン(JACOB COHEN)」のプレゼンは、一体なんだったのでしょう(笑)?ピースフルな架空の「ヤコブ コーヘン」村では、ある人はジーンズを洗濯板で洗い、ある人はなぜかハチミツの収穫中。お土産に3種類ものハチミツを大盤振る舞いです。ビリヤードやカジノに興じるモデルがいるけれど、我々ゲストもルーレットに参加できちゃうから、ついつい夢中になってしまい、洋服が全く頭に残っていません(笑)。
エンポリオ アルマーニ(EMPORIO ARMANI)
本橋:「エンポリオ アルマーニ(EMPORIO ARMANI)」、僕はスタンディングでした。前に大きな外国人がいてあんまり見えなかったんですけど、村上さんはフロントローから見られて、どうでしたか?
村上:序盤は、どちらかと言えば機能服でした。合繊の薄くて軽い素材からTシャツやシャカシャカブルゾン、スパッツにショートパンツなどを作って、軽やかにレイヤード。“EA7”で砂漠を駆け抜けるイメージです。
で、辿り着いた先は、アフリカでした。長いチュニックに幾何学的な刺繍を施し、楊柳パンツや、アルマーニならではのソフトテーラリングを組み合わせます。クレープやリネンなどの涼やかな素材を多用しながら、サンドやエクリュ、ベージュなど、日差しが強い地域ならではのカラーパレットを再現。ベルベル人のテントやタトゥーなどの柄を描きます。若干民族衣装感が強かったけれど、ピークドラペルのダブルからマオカラーのジャケット、シルキーなパジャマシャツ、鍛えれば鍛えるほどカッコよく着こなせるざっくり編みのニットなど、アルマーニらしさも満載。
最近「エンポリオ アルマーニ」は、いろんな世界を旅して、オリエンタルなムードを強め、ユニバーサル感を醸し出そうとしています。ご自身が確立したイタリアらしさで勝負する「ジョルジオ アルマーニ(GIORGIO ARMANI)」との差別化を図っているのかな?
フィナーレは、現在自宅療養中のアルマーニさんに代わり、メンズの責任者を務めるレオ・デルオルコ(Leo Dell'Orco)=ヘッド・オブ・メンズウエアデザインがご挨拶でした。アルマーニさん、復帰をお待ちしております!
アルマーニ美術館(ARMANI / SILOS)
本橋:その後に訪れた「アルマーニ美術館(ARMANI / SILOS)」が圧巻でした。普段はあまり自分ごとにできないオートクチュールのドレスも、あれだけ丁寧に展示されると「これがブランドの核なんだ」と体感できます。
前の日に「フィリップ プレイン(PHILIPP PLEIN)」のイベントに行ったんですが、会場にはギラギラのスニーカーが並んでいて、ハデにトッピングされた“寿司らしきもの”を皆でつまみ、カクテルを煽る様子を見て、何だかゲンナリしていたところだったんです(笑)。ラグジュアリーって、“ギラつけば良い”というわけじゃないですよね?
村上:クチュールラインの「ジョルジオ アルマーニ プリヴェ(GIORGIO ARMANI PRIVE)」は、今年が20周年のアニバーサリー。アルマーニさんは、「クチュールはビジネス。常に女性を美しくすることにこだわっている。私の自己表現だけの舞台じゃない」と話しています。「フィリップ プレイン」との違いは、そんなところかもね。派手だけれど、女性に思いを馳せているからリアリティがある。そう思います。
アワー レガシー(OUR LEGACY)
本橋:そういえば「アワー レガシー(OUR LEGACY)」のプレゼンテーションでは会場の中央にハリボテっぽい誕生日ケーキが置かれていて。「何だこれ?」と眺めていたら、「ブランド設立20周年の誕生日なんです」と教えてくれました。「ジョルジオ アルマーニ プリヴェ」と同い年なんですね。
村上:意外と長いね。もともとはメンズの硬派なテーラードブランドというイメージだった。
本橋:僕も5〜6年位前にダブルブレストの“ドルフィンコート”というウールコートを買い、まだ気に入ってとってあります。やっぱり、作りはいいんですよ。当時はまだセールにかかれば1ケタ万円台で買えましたが、今だったら定価で完売でしょう。
日本でも若い人たちに人気ですよね。特にコロナ後に強化しているウィメンズラインが、タイトめが好みの若いメンズにも人気だそう。日本のメンズ市場ではまだまだ「ちょいユル」が主流ですが、「アワーレガシー」や「ディーゼル(DIESEL)」みたいなブランドがこのムーブメントを引っ張って、着こなしの幅をどんどん広げてほしいなと思います。
「アワー レガシー」と「アルマーニ」。20年の歩みはまったく異なるけれど、それぞれが自分たちの存在価値に通じる“アティテュード”を地道に築き上げてきたことは共通していますね。