PROFILE:(はが・まさとし)2012年ロート製薬入社。スキンケアを中心とした基盤研究に携わり、機能性評価、データサイエンティストとしての仕事を推進。2025年からフィトサイエンス研究所のチーフサイエンスデザイナーとして、フィトサイエンス、及びフィトエクソソーム研究に携わる。26年3月からデータサイエンス推進室リーダーを務める
小山田景子/ロート製薬 フィトサイエンス研究所 サイエンスデザイナー
PROFILE:(おやまだ・けいこ)2012年ロート製薬入社。スキンケア製品開発としてキャリアを歩み、兼務にてグローバル人財活用・開発の推進に関わりながら、22年に知的財産戦略部へ異動。25年からフィトサイエンス研究所でサイエンスデザイナーとして研究開発の社会実装戦略を主導する
PHOTO:KOJI SHIMAMURA
ロート製薬が掲げるロンジェビティの実現とは、単に寿命を延ばすことではない。誰もが健やかに、そして若々しく人生を楽しめる社会を目指し、医療、スキンケア、食品など幅広い事業を横断した成長戦略を推進している。その実現に向けて、同社は細胞研究と植物研究(フィトサイエンス研究)を融合した独自技術の開発を加速。2027年春に主力スキンケアブランドへ順次導入する計画だ。
こうした取り組みの最前線では、細胞研究とフィトサイエンス研究が重要な役割を担っている。今回、それぞれの研究領域をけん引する2人の研究者に、ロート製薬が描くロンジェビティの未来像と、その実現を支える技術開発の現在地について話を聞いた。
「ロンジェビティ」とは?

羽賀雅俊研究員(以下、羽賀):「ロンジェビティ」を考える上で重要なのは、これまでの「老化」に対する価値観の変遷だ。かつて広く浸透したのが「アンチエイジング」である。これは、老化を克服すべき課題として捉え、老化にどう抗うかという発想に基づくアプローチといえる。その後広がったのが「ウェルエイジング」だ。老化を自然なプロセスとして受け入れながら、心身の健康を保ち、自分らしく歳を重ねることを目指す考え方である。ただ、老化に抗うだけでも、受け入れるだけでもない。より主体的に将来の健康や人生の質を高めようとする価値観が「ロンジェビティ」ではないかと捉えている。その本質は、未来の自分への投資にある。
WWD:「ロンジェビティ」を掲げる背景には、どのような変化があるのか。
羽賀:私たちのアプローチが劇的に変わるわけではない。これまで取り組んできたアンチエイジングも、ロンジェビティを実現するための重要な手段の一つだ。一方で、大きく変わっているのは消費者の意識。かつては不調や老化の兆候が現れてから対処する考え方が主流だったが、ここ最近は、健康維持や予防にお金や時間を投資する人が増えている。そうした価値観の変化に加え、社内でもスキンケアやアイケア、食品、再生医療などさまざまな領域で「老化」をテーマにした取り組みが生まれていた。各事業で議論を深める中で出合ったのが、ロンジェビティという概念だ。私たちが目指してきた方向性と社会の変化が重なったことが、ロンジェビティを事業の中核に据えた理由である。
小山田景子研究員(以下、小山田):医療の進歩によって長寿化が進む一方で、「どう生きるか」だけでなく、「どう歳を重ねるか」、さらには「どう最期を迎えるか」まで含めて考える必要が出てきている。老化そのものを止めることはできないが、その変化をできるだけ緩やかにし、心身ともに健やかな状態を長く維持することはできる。ロンジェビティは単なる健康寿命の延伸ではなく、自分らしい人生を主体的に設計するための考え方。そうした価値観は今後さらに広がっていくとみている。
細胞間コミュニケーションはエクソソームが鍵
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小山田:エクソソームは、細胞同士の情報伝達を担う微小な物質である。人間が言葉でコミュニケーションを取るように、細胞もまた情報をやり取りしながら体のホメオスタシスを維持している。その“手紙”のような役割を果たしているのがエクソソームだ。そのエクソソームの中には、マイクロRNAやペプチドなどさまざまな情報が含まれており、細胞同士が状態を共有しながら健康を保つことに役立っている。再生医療の分野でも注目が集まっており、幹細胞治療の有効性には、幹細胞から分泌されるエクソソームが大きく関与していることも分かってきた。
羽賀:私たちが着目しているのは、老化によって乱れた細胞間の“対話”をいかに正常な状態へ導くかということにある。老化が進むと、細胞同士の情報伝達がうまく機能せず、ホメオスタシスも徐々に乱れていく。そこでエクソソームを活用し、細胞同士の対話を支えることで健やかな状態の維持につなげる研究を進めている。エクソソームの価値をより多くの人に届けるため、それぞれの特性に応じて、ヒト由来エクソソームは再生医療、フィトエクソソームはスキンケアで活用している。
フィトエクソソームの無限の可能性
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羽賀:再生医療領域では、ヒト由来のエクソソームを活用した研究開発を進めている。一方で、化粧品として多くの人に届けることを考えた時、求められる条件は異なる。ヒト由来エクソソームは大きな可能性を持つが、低温管理が前提となるなど非常にデリケートな性質を持つ。化粧品は日常的に使用される製品であり、単にエクソソームを配合するだけでなく、お客さまが使う瞬間までその機能を維持できていることが重要だ。そこで私たちは、さまざまな条件下で検証を重ねながら、安定にコントロールしやすく大量生産できるフィトエクソソームに着目した。植物と人間はまったく異なる生物だが、エクソソームのサイズや構造には共通点があり、相互に作用する可能性も見えてきている。
小山田:私たち人間は昔から、野菜を食べたり自然に触れたりすることが健康につながると考えてきた。その理由はビタミンや栄養素、あるいは香りなどさまざまに説明されてきたが、それだけではない可能性がある。近年の研究では、植物もまたフィトエクソソームと呼ばれる情報伝達物質を分泌していることが分かってきた。植物にはさまざまな種類があるが、これらは機能性の多様さにもつながることを期待している。これまでは植物の力を主に食べることで取り入れてきたが、技術の進歩によってフィトエクソソームそのものを取り出し、活用できるようになってきた。そこに大きな可能性を感じている。今はスキンケアを中心に研究を進めているが、将来的には食品やヘアケアなど、健康に関わるさまざまな領域広げていきたいと考えている。
微細藻類バブロバが持つ価値を見いだす

小山田:最大の理由は、その圧倒的な生命力にある。微細藻類は地球上で最も古い生命の系譜を受け継ぐ生物の一つとされ、まだオゾン層が形成されていない過酷な環境を生き抜き、光合成によって酸素を生み出してきた。現在の地球環境を形づくってきた存在ともいえる。その中でパブロバは、沖縄の強い紫外線にさらされるだけでなく、汽水域では潮の満ち引きによって塩分濃度も大きく変化する環境で生育している。小さな生物にとっては極めて厳しい環境だが、その中で生き抜いてきた。
私たちは、その環境適応力の背景にある仕組みに関心を持った。過酷な環境の中でも生き延び、子孫を残し続けるためには、細胞同士が高度なコミュニケーションを取っているはずだ。またパブロバ由来のエクソソームは、皮膚のバリア機能や紫外線による炎症抑制など、様々な効果も見られている。そうした生命の知恵や効果に着目し、パブロバ由来のフィトエクソソーム研究を進めている。
WWD:パブロバは沖縄の拠点で培養し、グループ内で原料化、品質管理までを一貫して行う体制を構築している。
羽賀:久米島の海洋深層水という培養に適した環境を生かし、安定した品質で生産できる体制を築いていることは、大きな強みだ。現時点でスキンケア製品への応用に必要な供給体制は整っており、今後もこの恵まれた環境を活用していく。一方で、私たちの次の課題は、パブロバが持つ可能性をさらに明らかにすることだ。
現在はフィトエクソソームを中心に研究を進めているが、パブロバにはEPAやDHAをはじめとするさまざまな有用成分も含まれている。まだ解明されていない部分も多く、その特性を深く理解することで、新たな活用法が見えてくると考えている。将来的には、スキンケアにとどまらず、食品やヘルスケアなど幅広い領域での応用も視野に入れている。パブロバの可能性をどこまで引き出せるかが、次の成長につながると考えている。
WWD:これからのフィトエクソソームの発展をどう見ているか。
羽賀:重要なのは、フィトエクソソームを単一の成分として捉えるのではなく、一つのプラットフォームとして捉えることだ。実際、フィトエクソソームの由来が異なれば特性も大きく異なり、そのものの働きだけでなく、他の成分との組み合わせによる相乗効果も見え始めている。私たちは現在、それぞれのフィトエクソソームがどのような機能を持ち、どの用途や製品に適しているのかを解析している段階だ。今後は、こうした違いを科学的に明らかにしながら、それぞれの特性を最大限に生かした製品開発につなげていきたい。
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