カナーレ・ジャパン(愛知県一宮市、小塚康弘社長)は10月30日、関係者を招いた設立披露会を行った。同社は尾州の産地企業である小塚毛織と服地卸大手のスタイレム瀧定大阪が共同出資しており、両社はシャトル織機を使ったファンシーツイードを、国内外の有力ブランドに売り込む。瀧隆太スタイレム瀧定大阪社長は「ビジネスの規模は決して大きくならないかもしれない。ここ(カナーレ・ジャパン)でしか作れない付加価値の高いテキスタイルを、スタイレムの国内外のネットワークを駆使して作り、そして販売していく」と語る。
カナーレ・ジャパンの起点は、小塚毛織が2020年に、倉庫になっていた工場スペースに旧式織機のシャトル織機を導入したこと。カナーレ・ジャパンの小塚社長が、50年近く尾州でシャトル織機を使ったファンシーツイード開発を行っていた足立聖カナーレ代表(76)に惚れ込み、「足立さんのシャトル織機を使った持つ卓越した生地作りのノウハウ継承のため、マイスターとして足立さんを招聘し、設備も導入した」という。現在は小塚毛織の「のこぎり屋根」の工場には、シャトル織機9台のほか、準備機やノッター(糸繋ぎ機)などが稼働する。カナーレ・ジャパンには、足立さんをマイスターに20代と30代のテキスタイルデザイナーも参画した。「ずっと『誰の真似もしない』をテーマにシャトル織機を駆使したツイードを織ってきた。若い人と一緒にさらに進化させる」と、足立さんは若手とタッグを組んでの新たな挑戦に意欲を見せる。
小塚毛織と足立さんのこうした取り組みに感銘を受けたのが、当時スタイレムでメード・イン・ジャパンに特化した服地販売を行っていた83課の小川良太課長だった。「失われつつある技術を継承して、進化させたい。その意義にいても立ってもいられなかった」という。服地卸の王者として君臨してきたスタイレムは、今でも国内の仕入れが6〜7割に達する。瀧社長は「国内外に持つ売り先のネットワークはもちろん、糸などの仕入れ面でも協力できる部分は大きかった。ただ、小川課長から上がってきたプロジェクトの詳細を見た瞬間に、これはやろうと決めた」と、同社にとっては異例の産地企業との合弁会社設立を決めた。「当社は商社なので規模や数字も重要だが、それ以上に『創造』を何よりも重視してきた。カナーレ・ジャパンは、圧倒的にユニークで個性的で、ここでしかできないもの。価値あることに関わることができてとてもワクワクしている」という。設立式には瀧社長を筆頭に、主だった幹部も駆けつけた。わずか10人にも満たない会社の式典としては異例のことでもある。
同式典に駆けつけたユナイテッドアローズの牧野達也ウイメンズ商品部部長は、カナーレ・ジャパンに関して「これまでの上代があって仕入れ値を決める、といったやり方を使うつもりはない。生地を見て、その素晴らしさをどう製品として完成させるか。こちら側も発想の転換させた上で、一緒に取り組みたい」とエールを送る。
毛織物の産地である尾州(愛知県一宮市と岐阜県羽鳥市、及びその一帯)では、旧式のシャトル織機を、長らく明治期に導入されたドイツ式の「ションヘル」と呼んできた。現在は尾州で稼働しているシャトル織機は、この「ションヘル機」ではなく、広島や岡山、浜松などでも稼働している織機と同様のシャトル織機に置き換わっている。世界で高い評価を受け、現在世界中から受注の来る広島・岡山の「セルビッジデニム」のように、尾州のシャトル織機から生み出されたファンシーツイードが世界市場を席巻できるか。大手企業と産地企業、そして職人ががっちりタッグを組んだ新しいプロジェクトに、日本全国のテキスタイル関係者が注目している。