ビジネス
連載 小島健輔リポート

「SC白書2025」から読み解くアパレルの賃料負担と出店戦略【小島健輔リポート】

有料会員限定記事

ファッション業界の御意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。コロナ禍から平時に戻って2年以上が過ぎた。この間、見過ごされがちだが、ショッピングセンター(SC)の中身はけっこう変化している。全国のSCが加盟する日本ショッピングセンター協会が最新データをまとめた「SC白書2025」には、アパレルの今後を占う上でヒントがたくさん隠されている。

日本ショッピングセンター協会から6月1日に「SC白書2025」が発行されたが、コロナ禍を経たテナント構成の変化、アパレル店舗にとっては意外にも思える賃料推移など興味深い内容だった。「SC白書2025」を起点にアパレル店舗にとっての賃料負担と出店戦略を考察してみよう。ちなみに「SC白書2025」はショッピングセンター協会のウェブサイトから印刷書籍版(税込み会員価格1980円、非会員価格3080円)も注文できるが、デジタル版なら無償で閲覧できる。

「SC白書2025」が語るアパレルの凋落と変質

2024年は23年より4SC多い38SCが開業したが店舗面積が5万平方メートルを超えるSCはなく、3万平方メートル以上もエミテラス所沢(4万3000平方メートル)、ゆめが丘ソラトス(4万2700平方メートル)、三井アウトレットパーク マリンピア神戸(3万2000平方メートルへの増床再開業)だけだった。38SCの合計店舗面積は42万1569平方メートルと記録が残る08年以降最小で、平均店舗面積1万1094平方メートルは84年以来40年ぶりの最小記録となった。

東京に続いて大阪や名古屋、福岡の都心では次々と巨大施設が開発されている印象があるが、上層階のオフィスやホテル、レジデンスが主役のコンプレックス(複合施設)であって、商業施設は付加価値と利便性を担う脇役になった感がある。商業施設の中でも時間(コト)消費が志向されてイベント施設や飲食サービス、物販でもキャラクターグッズや趣味雑貨が拡充される一方、ファッション関連とりわけアパレルの出番はコロナ以前と比べれば限られる。

SC過剰が慢性化した米国では百貨店や大型ファッション店が撤退した後がフードコートやアミューズメントパークになり(ECの出荷センターになったケースもある)、行き詰まった大型モールが取り壊されてレジデンスやホテル、オフィスやメディカルセンターとの複合施設に再開発されるケースが増えている。わが国のターミナル再開発も新宿や渋谷に見られるように、百貨店やファッションビルが取り壊されてオフィスやホテル、レジデンスやエンタメ施設との複合施設に再開発されるわけで、商業施設とりわけファッション関連は再開発前と比べれば縮小されて脇役に回るのが現実だ。

郊外やローカルに目を移せば、役割を終えた総合量販店(GMS)が取り壊されたり改修されて、スーパーマーケットやフードコートを中核に、ドラッグストアや生活雑貨などの最寄業種、クリーニングや修理からATMまで各種生活サービス、フィットネスや英会話、学習塾などの習い事、メディカルサービスなどをそろえた近隣型商業施設(NSCやコンビニエンスセンター)に生まれ変わるケースが広がっている。いわゆる「ダウンサイジング」(近隣日常化)で、アパレル関連は手頃な普段着カジュアルに限定される。

GMS跡の再開発とは次元が異なるが、郊外駅前の百貨店がテナント構成のSCに生まれ変わるケースも広域型から足元型への「ダウンサイジング」が共通しており、食品や飲食サービス、ドラッグストアや生活雑貨などの最寄業種が拡充される一方でアパレルは格段に圧縮される。その中身も、かつての百貨店ブランドから手頃なSCブランドや量販ブランドに代わってしまう。そごう川口店だった駅前のビルを三井不動産が再開発したららテラス川口など典型的な事例で、かつての百貨店顧客はその変貌に落胆するに違いない。

「SC白書2025」でも新規開業SCにおけるテナントの業種構成推移を報告しているが、コロナ前18年はテナント数の18.9%を占めていた「衣料店」(18年から分類)がコロナに直撃された21年には12.9%に激減し、22年は15.0%まで回復するも24年は再び10.1%に激減している。代わって増えたのが「飲食店」で18年の18.9%が24年は27.2%、「サービス店」(日常サービスや習い事、メディカルサービスなど)も18年の22.3%から浮き沈みはあるものの24年は24.0%に増えている。

経済産業省「商業動態統計」によれば24年の衣料・服飾品小売売上高は19年の79.6%までしか回復しておらず、総務省「家計調査」における24年の被服および履物支出も19年の88.3%に留まるから、新設商業施設において「衣料店」の比率が落ちるのもやむを得まい。食料品の値上げが続いてエンゲル係数がコロナ前19年の25.7%から24年は28.3%に跳ね上がって生計が圧迫され、ファッション係数(被服・履物支出)が3.67%から3.33%に抑制されたことも響いていると思われる。

そんな中でも着実に伸びているのが生活圏の日常衣料や立地を選ばない「ライフウエア」であり、前者は「ファッションセンターしまむら」や「パシオス」、後者は「ユニクロ」や「ジーユー」であることは言うまでもない。意外と伸びているのが生活雑貨店の衣料品で、「ケユカ」のエスニック感覚のナチュラル衣料は近年の亜熱帯気候にも適応しているし、「ラコレ」の衣料品にも目を惹くものがある。「無印良品」の衣料品やファミリーマートの「コンビニエンスウエア」も「ライフウエア」的評価を得ているのではないか。生活圏での衣料品の可能性については、24年6月4日掲載の「『ユニクロ』が抜けた“空白マーケット“を手にするのは誰か」を読み返していただけば理解が深まると思う。

この続きを読むには…
残り5351⽂字, 画像6枚
この記事は、有料会員限定記事です。
紙版を定期購読中の方も閲覧することができます。
定期購読についてはこちらからご確認ください。

関連タグの最新記事

最新号紹介

WWDJAPAN Weekly

令和のプレイングマネジャー11人のマネジメントの秘訣とは? 84社の人事部アンケートの結果も公開

7月14日号の「WWDJAPAN」は、「令和のプレイングマネジャー」特集です。 現場と経営層とをつなぐ需要な役割を果たすのが、中間管理職(課長クラス)。プレイヤーでありながら、マネジャーとしてチームメンバーを鼓舞し、成果を出す――ファッション&ビューティ企業で活躍する、そんな「令和のプレイングマネジャー」を紹介します。

詳細/購入はこちら

CONNECT WITH US モーニングダイジェスト
最新の業界ニュースを毎朝解説

前日のダイジェスト、読むべき業界ニュースを記者が選定し、解説を添えて毎朝お届けします(月曜〜金曜の平日配信、祝日・年末年始を除く)。 記事のアクセスランキングや週刊誌「WWDJAPAN Weekly」最新号も確認できます。

ご登録いただくと弊社のプライバシーポリシーに同意したことになります。 This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.

メルマガ会員の登録が完了しました。