ファッション業界の御意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。今回はファッション業界の賃上げについて、最大手であるファーストリテイリング(ユニクロ)としまむらを例にとって解説する。人手不足の中、両社とも急ピッチでベースアップを進めているが、その裏付けはどうなっているのか。詳しく分析すると、両社の違いが浮き彫りになる。
しまむらは2025年2月期の有価証券報告書で社員の平均給与が22年比9.5%増の707.0万円と開示したが、全従業員の平均給与は同13.7%増の484.2万円、パートタイマーのフルタイム8h換算平均給与も同15.4%増の434.4万円、時給2163.3円と計算できる。社員の給与水準も小売業としては高いが、パートタイマーの給与水準と時給は突出して高い。国内ユニクロも急ピッチで賃上げを続け、24年8月期の全従業員平均給与は21年8月期比28.0%増の推計485.0万円と、しまむらをわずかながら上回った。業界の賃上げをリードする両社はいかにして大幅な賃上げを実現したのだろうか。
しまむらと国内ユニクロ 給与水準は拮抗する
アパレルチェーンの給与水準を見る方法はいくつかあるが、手っ取り早いのは有価証券報告書の「従業員の状況 平均年間給与」を見ることだ。しまむらの25年2月期では707.0万円、ファーストリテイリングの24年8月期では1179.2万円としまむらの1.7倍近いが、ファーストリテイリングの平均年間給与は実態を反映したものではない。
しまむらが国内全正社員2802人の平均であるのに対し、ファーストリテイリングはグローバルな持ち株会社(経営管理部門)の正社員1601人の平均であり、他に国内ユニクロ事業だけで1万2374人、海外ユニクロ事業、ジーユー事業、グローバルブランド事業を合わせれば5万7753人(その他の1100人を合わせて5万8853人)の正社員が存在する。ファーストリテイリング連結の正社員平均給与を計算する方法はないが、パートタイマー(フルタイム8h換算人数)を合わせた全従業員の平均人件費は計算できる。
しまむらの25年2月期では正社員2802人の他にフルタイム8h換算で1万2551人のパートタイマー、他に台湾の連結子会社思夢楽に451人の正社員(全従業員)が勤務していたが、思夢楽は国外であり全員正社員でパートタイマーも存在しないので、しまむら単体の従業員(国内の全従業員)について検証してみた。25年2月期の人件費は878億3100万円、給与手当は743万3200万円だったから、正社員2802人、フルタイム換算パート1万2551人計1万5353人の平均人件費は572.1万円、平均給与は484.2万円と計算できる。
ファーストリテイリングの24年8月期連結では人件費は4379億7200万円と開示されているが、国内ユニクロ事業については販管費内訳の開示がなく計算の方法がないため、連結決算の販管費率38.27%、人件費率14.11%を国内ユニクロ事業の販管費率34.20%に換算して人件費率を12.61%と見れば、売上収益9322億2700万円に対して人件費は1175億5300万円と計算できる。それを国内ユニクロ従業員数(正社員1万2374人+フルタイム換算パートタイマー8137人計2万511人)で割れば平均人件費は573.1万円、人件費に占める給与比率がしまむらと同率と仮定すれば、平均給与は485.0万円としまむらの484.2万円をわずかに上回る。
国内ユニクロでは正社員全員の平均人件費を推計する方法がないためパートタイマーの平均給与も計算できないが、しまむらは正社員全員の平均給与も給与総額も開示しているので、パートタイマーの給与総額も平均給与も平均時給も計算できる。
25年2月期のしまむら単体の給与総額743億3200万円から正社員給与707.0万円×2802人=198億1000万円を差し引いた545億2200万円をフルタイム換算パート1万2551人で割れば、パートタイマーのフルタイム換算平均給与は434.4万円。しまむらは114休日の実働8h制だから、年間所定労働時間2,008hで平均給与を割れば時間給は2163.4円になる。
これはファーストリテイリングのナショナル正社員(グローバル転勤あり)の初任給33万円の時間給2020.4円(120休日の実働8h=1960h)を7.1%上回る。大卒初任給に限れば、しまむらは30万円で2008h制だから時間給は1792.8円とファーストリテイリングを11.3%も下回る。しまむらは販売職の初任給が24万600円とさらに低く、時間給は1437.85円とパートタイマーの平均時間給との格差が大きいから、是正が必要だろう。
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