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連載 齊藤孝浩の業界のミカタ

「無印」の今後の課題と本来の強み 齊藤孝浩のファッション業界のミカタVol.11

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 企業が期ごとに発表する決算書には、その企業を知る上で重要な数字やメッセージが記されている。企業分析を続けるプロは、どこに目を付け、そこから何を読み取るのか。この連載では「ユニクロ対ZARA」「アパレル・サバイバル」の著者でもある齊藤孝浩ディマンドワークス代表が、企業の決算書やリポートなどを読む際にどこに注目し、どう解釈するかを明かしていく。今回は良品計画の決算書からカテゴリーごとのバランスの重要性を解説する。(この記事はWWDジャパン2020年2月10日号からの抜粋です)

 良品計画、つまり「無印良品(以下、無印)」は、そもそも1980年に西友のPB(プライベート・ブランド)として始まりました。生産プロセスを合理化して、シンプルで無駄のないデザインの衣食住アイテムを日常で使える価格で提供し、今やライフスタイルブランドとしては、世界でも唯一無二の存在になったといっても過言ではないですね。

 まず、良品計画(連結)の収益構造を見ると、売上高、営業利益ともに大きな割合を占めるのが、国内事業と東アジア(中国、韓国、香港、台湾)です。それぞれ売上高においては2019年2月期で60.1%と29.9%を占めています。つまり9割が国内および東アジアです。そして営業利益率は国内10.2%、東アジア16.2%です。東アジアの中でも中国の経常利益率が20%ですから、要は国内と中国が利益における大きな鍵を握っているというわけです。

 昨今の業績予想下方修正の要因は、主に香港・韓国ですよね。ファーストリテイリングも一緒です。コロナウイルスが収まるまでは、稼ぎ頭の東アジアがさらに苦しい展開になるのは間違いないでしょうね。

 それ以前に中国事業も今、既存店が横ばいから微減傾向で踊り場にありますね。実は、私は中国に企業研修の講師として招かれて3年ぐらい行っていますが、「無印」は去年の真ん中ぐらいまでは、中国で断トツ人気のライフスタイルブランドとして憧れられていたと感じていました。デベロッパーからもご指名で、好立地に大型店を多数出店できており、また、アパレルしか見ていませんが、価格にシビアな中国で、日本の価格の1.4倍程度の内外価格差も通用していました。一方、中国で作ったものを現地調達(ドロップシップメント)することによって、原価はむしろ低いはずですので、原価は低いが、ブランド力があり、高く売れる、その構造が高利益率をたたき出している要因の一つだろうなと見ていました。

 しかし、最近、中国で話をしていると、「無印」は「コンセプトは分かるが高い」と感じられるようになってきているようです。グローバル化が進む時代に日本に行けば安く買えますからね。ブランド力があり、加えて、産地であり、成長国で高い営業利益を稼いできた中国事業が今後どうなるかは非常に重要です。

粗利率と回転率と単価のバランス

 さて、ここからが今回の本題です。小売業にとっては購買頻度、そして季節波動管理が鍵だということを「無印」の決算書からお話しします。まず、同社データブックから商品カテゴリー別の売り上げを見ます(表1)。17年の時点では一番売上構成比が高かったのがファニチャーでした。しかし、19年ではヘルス&ビューティが逆転しています。ファニチャーの売り上げも伸びてはいますが、それ以上にヘルス&ビューティが伸びています。

 これが今、「無印」の成長と収益を支えている要因の一つだと私は考えています。

 要は、この辺のバランスが大切なんです。MDミックスにはいろんな解釈があるのですが、粗利率×回転率の役割で考えるのが一般的です。ここでは、回転率は、ほぼ顧客の購買頻度と考えていいので置き換えます。例えば、ファニチャーは基本的に粗利が高いですね。なぜなら購買頻度が低いから、高く設定しないと家具店はやっていけない。ですから、家具は一般的に粗利率は高いが、購買頻度は低い。そして、単価は高いビジネスです。

 表1は、あくまでも各業界の水準から考える私の推測ですが、同社の全カテゴリー平均値に対するカテゴリー別の粗利率、購買頻度(回転率)、単価の高・中・低を表したものです。ヘルス&ビューティは高・高・低、婦人ウエアは高・高・高なんです。一方、ファブリックスは高・中・中、ステーショナリーは低・低・低だと思います。こう見てゆくと、高・高・高の婦人ウエアとヘルス&ビューティーを伸ばした方がいいに決まっていることが分かります。

 多くのアパレル店がライフスタイル化の掛け声とともに、雑貨の品ぞろえを増やした時期がありましたが、季節性のある服飾雑貨はともかく、生活雑貨を広げて、うまくいかなかったケースが非常に多かったと思います。それは、このMDミックス、特に購買頻度と粗利率の役割分担が理解されていなかったからではないでしょうか?アパレル並みに回転の良いビューティについても、メーカー(卸)から買っていると粗利が低くなってしまうので、うまみを感じづらいです。その点「無印」はメーカーに作ってもらい、オリジナルとして販売しているのでブランド力で値段を通して高い粗利を確保していると思われます。

 そして最近は食品に力を入れていますよね。食品は低・高・低なのですが、「無印」が食品を購買頻度・回転率を高めるための装置として強化することは、理にかなっています。つまり客寄せとして、粗利率は低いけど、食品を買いに来たついでに粗利率の高い服や雑貨などを買ってくれたらもうかるわけです。

 小売業は季節波動だけではなく、コンスタントにお客さんに来てもらって、何らかのものを買ってもらうという仕組みがものすごく大事なんです。「無印」は過去の数年間の履歴を見ると、そこら辺をちゃんと考えているなと感じます。

 もう一つ、年間の季節波動の話をすると、「無印」の過去3、4年の平均で見た売上構成比は春が26%、夏が24%、秋が26%、冬が24%です。固定費はシーズンでそれほど変わらないので、売り上げも季節的なばらつきは少ない方が利益コントロールしやすいのは言うまでもありません。ですから、このバランスをつくるためにも、カテゴリーの組み合わせによる平準化って、すごく大事なのです。

 「無印」の場合、春は新生活に向けて圧倒的に生活雑貨、そして婦人ウエア、子供服です。夏に強いのは、紳士ウエアですね。女性は春に買いますが、男性は暑くなったり、寒くなってからでないと買わないんです。それから旅行に出掛けるので、靴・バッグも夏に強いですね。秋になると強くなるのが、また婦人ウエアと、子供服、マフラーや手袋などの服飾雑貨。冬に強いのは紳士ウエア。防寒用のインナーウエアも強いです。そんなふうに顧客の需要と購買頻度をうまくミックスして年間通して安定した来店頻度づくりを行い、売り上げを作っているんです。こうした季節指数と購買頻度をコントロールしながら、バランスを取っているところが「無印」の本当の強さであり、専門店がカテゴリーを増やすときに学ぶべきことだと思います。

 この連載が1年になりますので、次回はこれまでのまとめをしたいと思います。


最近気になっているのは
「アマゾンのように考える」

 これからの10年は過去の延長線で考えるのではなく、顧客の未来の理想の状態を想像し、理想と現実のギャップを埋める商品やサービスが求められる時代です。まさしくアマゾンはそんな発想法で、デジタルを活用して急速に成長してきたんだなと納得。顧客の立場に立つことができれば、誰もが仕事に生かせる発想やアプローチがたくさん詰まった一冊です。

齊藤孝浩/ディマンドワークス代表

齊藤孝浩/ディマンドワークス代表 プロフィール

1988年、明治大学商学部卒業。大手総合商社アパレル部門に勤め10年目に退職。米国のベンチャー企業で1年勤務し、年商100億円規模のカジュアルチェーンへ。2004年にディマンドワークス設立。ワンブランドで年商100億円を目指すファッション専門店の店頭在庫最適化のための人材育成を支援。22年4月、明治大学商学部特別招聘教授就任。著書に「ユニクロ対ZARA」「アパレル・サバイバル」(共に日本経済新聞出版社)。「5月に発売した『図解 アパレルゲームチェンジャー』(日本経済新聞出版)の第4章ではワークマンのビジネスモデルの優位性をその他のチェーンストアと比較し解説しています。ワークマンは本文にもあるようにFC方式を採りますが、しくみは違えど、一般のチェーンストアでも学べる本部と店舗の関係性のあり方があります。どんな共通目標を成果報酬の対象にしたらよいのか、その答えは、FCでも、直営でも変わりません」

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