
結果を残す販売員はどんな人たちなのか
「WWDJAPAN」の名物企画「販売員特集」は、今回、ファッション&ビューティ業界から37人を取材した。いずれも優れた実績を持ち、その人なりの接客手法を確立させたプロフェッショナルたちだ。目の前の顧客のために全身全霊を傾けるプロの仕事術は、何も小売業だけのものではない。ビジネスの普遍的なヒントがたくさん詰まっている。
「WWDJAPAN」の販売特集は2011年から始まった。バックナンバーを読み返すと、販売員の仕事の本質はほとんど変わっていないように思える。商品知識、コーディネイト力、人間に対する洞察力、そして何よりもコミュニケーション力を武器に、顧客満足を高めることである。この変わらない本質に加えて、デジタルの発展によって物理的な制約を超えて国内外、同時多数の客とコミュニケーションが図れるようになった。今やSNSは販売員にとって大きな武器である。販売員の仕事は10数年で大幅に“拡張”されたと言ってよい。
SNSは今や世代を問わない。こちらの記事に登場する横浜の柳屋化粧品専門店のアケさん(64)・アシさん(71)のコンビは、インスタグラム(Instagram)上で「コスメ屋のおばぁ達」として14.8万のフォロワーを持つ。ベテラン2人の飾らない人柄と絶妙なコンビネーションが人気を集めて、全国さらには海外からも店舗を訪れる人が珍しくない。2人はデジタルマーケティングの特別なスキルを身につけたわけではない。長年にわたって店頭で磨いてきた接客力が、SNSによって物理的な制約を超えて広く認められた。販売員のコミュニケーション力の普遍性を示した事例と言える。
こちらの記事に登場した「プラージュ(PLAGE)」の飯塚麻友さんもインスタグラムを駆使し、一販売員を超えたインフルエンサーとして活躍している。抜群の個人成績を誇る飯塚さんだが、「ショッピングでは気に入った服を買う楽しみはもちろんだけど、買わなくても『いい体験ができた』と思えることがあるんです」と話していたのが印象的だった。販売においては必ずしも「売る」だけがゴールではない。楽しい会話ができた、私のことを理解してくる人がいる、些細に思えるようなコミュニケーションが店舗やブランドへのロイヤルティーを高める。店舗の体験価値を高めるには写真映えする空間を作ったり、イベントを始めたりすることも大切だが、スタッフとの何気ないコミュニケーションこそが結局は顧客との息の長い関係につながる。
本特集に登場する37人の販売員は、いずれも一期一会の機会を大事にし、日々の努力を怠らなかった人ばかりだ。こうしたプロフェッショナルがいる店であれば、誰もが訪れたいと思うだろう。(この特集は「WWDJAPAN」2025年9月22日号からの抜粋です)