PROFILE: 坂本綾佳/アイスタイル ヒューマンリソースセンター ヒューマン&カルチャー本部 インターナルコミュニケーション室 室長

企業文化の醸成と従業員のエンゲージメントの向上--この2つに戦略的に取り組む企業は、強い組織を作りながら成長を続けている。日本最大級のコスメ・化粧品・美容の総合情報サイト「アットコスメ(@COSME)」を運営するアイスタイルは、2024年に広報傘下にあったインターナルコミュニケーション室を人事部傘下に移行して、より“人財”やエンゲージメント向上に焦点を当てた活動をしている。同社ヒューマンリソースセンター ヒューマン&カルチャー本部 インターナルコミュニケーション室の坂本綾佳室長に、その役割と具体的な取り組みを聞いた。
経営と社員をつなぎ、“状態”を整える
WWD:インターナルコミュニケーション(IC)室のミッションとは?
坂本綾佳アイスタイル ヒューマンリソースセンター ヒューマン&カルチャー本部 インターナルコミュニケーション室 室長(以下、坂本):社内広報とICは役割が違うと感じていて、私たちの役割は「状態を作っていくこと」。会社の状態そのものを良くして、最終的に事業成長につなげる。そのために、組織の目的や価値観を社員に共有し、エンゲージメントや事業成果を最大化していくのがミッションだ。情報発信に留まらず、トップメッセージなどを理解・納得・共感して、自分で判断して行動できる状態まで整える、インフラのような役割だと思っている。
WWD:体制はどのようになっている?
坂本:今は3人体制だ。私と中途で入ったメンバーと、新入社員。全員女性だ。私は全体を見る役回りで、中途入社のメンバーはフットワークが軽く、現場に足を運んでリアルな声を拾ってきて、それを施策に反映してくれる。新入社員は「前提がないと分からない」といった違和感を出してくれて、“フレッシュな目線”を加えてくれている。
WWD:具体的な業務内容は?
坂本:まず、経営方針・方向性の共有設計だ。年4回の総会をライブ配信で行っているが、アジェンダから、やり方、中身、伝え方までインターナルコミュニケーション室が主導する。加えて年1回の「7iアワード」の表彰式や納会を行うリアル開催のグループ総会・納会は、会場選びから、内容、体験の設計のほか、有志の運営・盛り上げチームの統括も行っている。イベントを運営しながら、記録を行い、ライブ配信やそのアーカイブを社内に共有するほか、公式noteにも記事を出す。noteは主に採用を目的に外部に発信しているが、社内には基本的に動画・ライブ配信などで鮮度が高い事業・新規取り組みを共有。より社員の顔やコメント、苦労や思いにフォーカスするようにしている。それとは別に遠藤宗社長COOと取締役の一人がファシリテーター役で1つのテーマを深掘りする月イチの配信動画企画「iLT」(60分程度)、吉松徹郎会長による月3〜4回の配信動画企画「てっちゃんの部屋」(7分程度)も運用している。共にテーマはIC室が決めるが、中身はフリートークで、基本的にノーカットで社員に共有している。他にも月イチの交流会「フリースタイル」や社員の家族に向けたファミリーデー等を企画・運営する。年始の交流会は内勤のメンバーがオフィスに集まって新年の挨拶や乾杯をしたが、各拠点とオンライン接続して“同時体験”を作る試みもした。吉松会長による社員全員との会合も含めて、経営と社員をつなぐ仕事は全部IC室が行っている。
WWD:経営サイドの意志や方針を伝えながら、社員同士のコミュニケーションも促している。
坂本:社外とのやりとりもある。昨年6月からはブランドさん側に弊社に来ていただきブランドについて説明してもらう「ブランドゼミ」も実施している。「ブランドのことを一番知っている会社になろう」という目標を掲げた際に、ECチームから「やりたい」という声が上がり、IC室が関与している。エンジニアやコーポレート部門など、ブランドについて知らなくても業務ができる部署の人たちにも扱っているブランドについて知ってもらいたいというゼミで、これまで15のブランドを実施した。売り上げに直接寄与する訳でもないのに、皆さん快く引き受けてくださり、クイズを用意するなどして、熱心にブランドについて教えてくださった。ブランドさんとの豊かな関係性を感じ、アイスタイルの底力を知ることができた。月イチの交流会「フリースタイル」にもゲストとして他社の方を呼ぶこともある。
企画書を作ることが効率化につながる
WWD:活動の中で特に気をつけていることは?
坂本:全てのコンテンツで企画書を作り、「なぜやるのか」「誰に届けたいのか」「どんなニーズがあるのか」を明確にしてか制作に入る。これを行うことで、漏れや無駄な動きがなくなり、内容の精度が上がった。メッセージのズレを避ける意図もあり、編集や制作も外注せず、動画も含めて基本的に内製している。後からズレを修正するのは非常に大変。取材や制作を始める前に企画をしっかり練ることが、スムーズに進めるための近道だ。失敗から学びながら、ブラッシュアップしている。また、基本的に出社しており、フリーアドレス制なので、人が多く集まりやすいキッチン前に座りながら、いろいろな人と積極的にコミュニケートするようにしている。
WWD:効果測定はどう設計している?
坂本:状態変化は中長期なので難しい。エンゲージメントスコアやPVなど、定量だけ追うと目的がずれるので、短期で取るべき定量(PVなど)と、「なぜその数字になったか」という定性的な側面、さらに現場の行動変化などを掛け合わせて拾うことを大事にしている。社内のGoogleドライブやイントラネットへのアクセスの数字を取り、月次で数字を拾っている。部門別・所属別・役職別などで「このコンテンツはどこに当たっているか」を見て、狙いとズレたら手順や打ち方を見直す、という使い方をしている。定性については、アンケート(グループ総会の定期アンケート)や、人事が取っているエンゲージメントサーベイのフリーコメント、それに社内取材の場での肌感・社員の受け止めなどを活用している。
WWD:仕事の面白さはどこにある?
坂本:現場の状況や社員の状態、経営の意思を起点に組織の方向性、方針みたいなものを「どう設計して伝えるか」の設計が多分一番面白くて、一番大事なところだと考えている。もし、経営層のICの価値の理解が低ければ、おそらく私の最初の役割はそれを理解してもらうところから始めないといけない。でも、アイスタイルの場合、そこに対する理解がすでにあり、予算もかけていいとされている。会社の方針を正しく理解するために、社長・会長と“鮮度高く会話し続ける”機会をもらえていること、意義が認められる提案であれば、基本的に何でもやらせてもらえるところはありがたい。
「ゴールはないが、すごく尊い仕事」
WWD:逆に難しさは?
坂本:ICの本質だと思うのだが、表面で分かることと実際に対話して深掘っていく中で感じられることにすごくギャップがあるということだ。入社して3年経ったが、今でも発見がたくさんあり、表層的な情報だけではない非言語な部分というか、一旦肌感として感じられるものをいかに拾い上げて翻訳していくか、ということをしっかりやっていかなければならないと考えている。また、施策を“点”ではなく“ストーリー”で考えなければならない。「今この瞬間に何を届けるか」は作れても、会社のビジョンから広げていく際に、1年で何を届け、1年後どういう状態にするか。そのための施策をどうマッピングし、役割を置き、全体を構築するか。人事や会社の1年、5年の動きとも連動するので、1回作って終わりでもない。経営における重点も絶え間なく変化する。そこにもキャッチアップし、柔軟に対応することが必要だ。
WWD:目下注力していることは?
坂本:会社が新しいことをどんどんやる中で、変化のたびに1から10まで説明しなくても社員が自律的に動ける“土台”を作り直すところが、今ICとしてのキーだと考えている。何か目の前の施策や新しい取り組みで判断に困ったときに、どう考えるかという「判断軸」をそろえていくことが、すごく大事なフェーズに来ていると思っている。「7i(ナナアイ)」という行動指針があり、すでにできている部分はあるが、今の変革のフェーズにおいて、改めてどう判断軸を持つべきか。会社が成長し、拡大していくなかでどんどん情報もアップデートされていく。情報を伝えていきながら、その情報がどう伝わっていくのかを想像するためには現場への理解もとても重要だ。
WWD:果てしないことのように聞こえるが、仕事のやりがいは?
坂本:インターナルコミュニケーションを担当する人たちは、根っこがみんなすごく人好き。堅く言えば事業成長につなげていくかという話ですが、つまり、いかに社員の皆さんにモチベーションを上げてもらえるかということでもあるので、どの担当者もすごく人が好きで、仲間が好きで、会社が好きというベースがある。正直、ゴールはないし、なかなか効果測定が難しく、実感を得づらい面もあるが、社員に向き合うことが大事な、すごく尊い仕事だと思う。
WWD:今後の計画・目標は?
坂本:社員が迷った時に「うちの会社って何を大事に判断する会社だったっけ」と立ち返れる場所=判断軸が共有されている状態を、もう一度作り直したい。そのために、トップメッセージを“伝えるだけ”ではなく、なぜそういう判断になるのか(WHYの部分)もセットで伝え続け、変化が起きた時に「なんで?」がマイナスではなくポジティブな問いになる状態を作る施策を行っていきたい。また、社員のインプット量を増やすフェーズはある程度やってきたので、これからは必要な情報以外をそぎ落としながら、受け取った情報を解釈して自分ごと化し、現場の対話を生む取り組みを人事と足並みをそろえて進めていく。たとえば次のグループ総会からは、最後に30分のチーム対話(アウトプット)の時間を入れ、個々人に「行動」を促していく。各部長に事前に意図をしっかり理解してもらいながら、進めていく。