4月は新入社員が働き始めるほか、転職や異動などにより新たな職場で仕事をスタートする場合もあるだろう。そこで今回は、ドキドキしながらファッション&ビューティ業界に足を踏み入れた人に向けて、日米中韓の「WWD」エディターが業界の現在地と2023年の展望を解説。景気低迷が長引く日本では、選択肢が多い中で「失敗したくない」心理が強く働いている。しかし、ファッションは本来、楽しいもの。消費の背中を後押しするためにできることを、「WWDJAPAN」の編集長が考えた。(この記事は「WWDJAPAN」2023年4月3日号からの抜粋に加筆したものです)
「失敗したくない」「正解が欲しい」──。ここ数年、ファッションやビューティ業界を含む社会には「切迫感」にも似たムードが漂っている。例えば業界人においては、毎シーズン恒例のトレンドセミナーの事前質問が、1つに集約されるようになってきた。多数届くのは、「とにかく日本で売れるトレンドが知りたい」の声。こうした声を受け「WWDJAPAN」は、セミナーにバイヤーのみならず企画担当者を招き、彼らが考える「売れるトレンド」を開陳していただいている。「失敗したくない」、いや「失敗できない」受講者の皆さんに「正解」の一例を伝授しようと試みているが、一方で「『正解』の一例をお伝えすることで、それにたどり着こうとする思考の機会を奪っているのでは?」と思考が流転することも多い。
「失敗したくない」エンドユーザーのため、イエベ・ブルベやパーソナルカラー、骨格に基づく診断サービスは、当たり前の存在になった。「この手のサービスで、選択肢を狭めるのはもったいない」という声がある一方、YouTubeでは「イエベ・ブルベ診断があったからこそ、多すぎる選択肢の中から化粧品が選べるようになった」とのコメントをいただき、相応のニーズが存在していることを知った。
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そう、今は選択肢が多すぎる時代。だからこそ消費者は、「これがいいんだ」と背中を押してもらいたいと思っているし、それができる企業やブランド、そして小売が台頭している。今年は3月21日だったトリプルラッキーデーに向けた革小物商戦は、「これがいいんだ」と背中を押してもらいたい買い手と、「これがいいんだ」と背中を押したい売り手の思惑が合致し、年々盛り上がっている。ラグジュアリーやデザイナーズ、プレステージと呼ばれるファッションやビューティブランドは思想の発信を強め、共感してくれたら「これがいいんだ」と納得できる消費者へのコミュニケーションを重ねている。正直店頭に並ぶ商品は大きく変わらない「バレンシアガ」や、新色の詳細を語らないビューティブランドは、クリエイターが思いを正直に語ったり、「血色感を引き出す」などの言葉で個性に寄り添う姿勢を強調したりしている。「これでいいんだ」から「これがいいんだ」に代わる最後の一手は、思想の発信なのだろう。かつてはD2Cと呼ばれ、現在は国内アパレルのメーンプレイヤーにさえ躍り出ようとしているブランドたちは、SNSで思いを発信・受信するからこそ「これがいいんだ」と信じるファンが育めた。
存在意義で差別化して「これがいい」にたどり着く
ポーラ・オルビスホールディングスの横手喜一社長は、「各ブランドが持つスタイルとプロセスが生む独自の“差“」こそが、「これでいいんだ」と「これがいんだ」の違いのカギを握ると話し、各社・各ブランドは改めて存在意義を見つめ直し、在り方や過程を差別化すべきと訴える。つまり「これがいいんだ」にたどり着く「正解」は、各社によって異なるのだ。ただ「WWDJAPAN」は、各社の事例を紹介・共有することで、消費者から業界人までの「これがいいんだ」への到達をナビゲートしたい。週刊紙やウェブの有料会員限定記事では各社の事例を紹介することで消費者に「これがいいんだ」と思わせられる企業が増えたら嬉しいし、無料の記事や動画、SNSでは私たちも消費者に「これがいいんだ」と思わせたい。
ファストファッションの全貌を知らない若い世代は、店頭に並ぶ大量の洋服という一側面だけを見て、こうしたブランドで洋服を選ぶとき「買ってしまう」と話す。彼らに「これがいいんだ」と消費を楽しんでもらうため、私たちにできることはたくさんあるはずだ。