マイケル・ライダー(Michael Rider)新アーティスティック・ディレクターが「セリーヌ(CELINE)」の2026年春夏コレクションを発表した。
「セリーヌ」は、3カ月前にマイケルのデビュー・コレクションとなった26年スプリング(一般的には26年のプレ・スプリング・コレクションに相当)を発表したばかり。マイケルが指揮するチームは、2つのコレクションをほとんど同時進行で手掛けていたという。ゆえに最新コレクションは、デビューシーズンの世界観を踏襲。自身がプレタポルテのデザイン・ディレクターをしていた頃、フィービー・ファイロ(Phoebe Philo)期のリラックスしてエフォートレスなムードと、エディ・スリマン(Hedi Slimane)期のブルジョワな良家の子女のクールで快活なイメージ、そして自身の持ち味なのだろうプレッピーなスタイルを考え抜きながらミックススタイリングしているはずなのに、肩の力が抜けたエフォートレスなムードに仕上げた。フィービーとエディという、ともすれば真逆のデザインコードを引き継ぎながら自身のエッセンスを加えることがミッションと聞いた時、正直「かなりの難題」と思ったものだが、マイケルは見事に連続でクリアしている。
コレクションは、エディ期を思わせるフィット&フレアのミニドレスで幕を開けた。フィット&フレアでミニのシルエットは、裾にペプラムをあしらったダブルブレストのジャケットや、ボディコンシャスな金ボタンのニットポロに生地を手繰り寄せてドレープを生み出し腰元には大きなリボンをあしらったミニスカートなどで描く。フィービー期に由来するのは、オーバーサイズのアウターたち。大きなスリットを入れたトレンチコート、コンパクトなトップスに合わせたロングスカートなどは、歩くたびに優しく揺れた。マイケル自身は、スーツに相当拘ったのだろう。肩のラインを斜めにすることでパワーショルダーに仕上げたがウエストはくびれたジャケットは、流動性の高いコレクションの中で構築的な存在を担った。
こうした歴代デザイナーのメゾンコードを繋いだのは、スカーフだ。さまざまな場所にスカーフを巻きつけたり、垂らしたり、スカーフ素材のアイテムを作ったりで、フレンチシックな「セリーヌ」らしくまとめ上げる。エントリーアイテムの不足で苦戦気味の日本市場においては今後、簡単に「セリーヌ」らしさを醸し出せる入門編として機能していくだろう。初登場したメンズと共通のアイテムは、2枚をつなげたスカーフに襟をあしらったラガーシャツ風のシルクシャツ。このほかにもスカーフのように布を随所にあしらい、ちょっとしたタイミングでスカーフやストールを首元や体に巻き付けるフランス流の気ままなのにエレガントなスタイルを表現する。多用したスカーフの柄には、新しくデザインを起こしたものもあるという。マイケルは、「新しいものと古いものをミックスするのが好き。(フィービーやエディら)過去のメゾンコードを大事にしながら、自分らしい『セリーヌ』のスタイルを築いていきたい」と話す。
エクレクティックなムードのもう1つのシンボルは、時々登場したヘルメットだ。「セリーヌ」を担うようになって拠点をパリに移したというマイケルは、自転車で軽やかに移動する人たちの多さに興味を持ち、地に足のついた人たちが日常生活の中に取り入れている「ヘルメットさえクールに思えた」という。
「さまざまを融合して独自の世界を描きたいと思うが、自分自身を誇示するようなスタイルを作るつもりはない」とマイケル。振り返ればフィービー以前、「セリーヌ」には確固たるアイデンティティーが存在しなかったように思う。そこにフィービー、そしてエディが築いたレガシーを大切にしながら、自身のエッセンスを加え、さらにパリジャンのシックを貫くことで今後の礎となるメゾンコードを築いている。マイケルの巧みなディレクションセンスに今後も期待したい。