ファッション

マイケル・ライダーが描く新生「セリーヌ」 フィービーやエディ期のスタイルとプレッピーが混ざり合うリアルなワードローブ

セリーヌ(CELINE)」はオートクチュール・ファッション・ウイーク開幕前日の7月6日、マイケル・ライダー(Michael Rider)新アーティスティック・ディレクターが初めて手掛けた2026年スプリング・コレクションのショーを開催した。パリ2区ヴィヴィエンヌ通り16番地に構える本社を会場に、ウィメンズとメンズを合わせて72ルックを披露。デイタイムからイブニングまでのリアルなワードローブを軸に、抜け感のあるスタイリングや意表を突く色合わせ、ユーモラスなアクセサリー使いで、新たな章の幕開けを印象づけた。

古巣に戻ったマイケルの新章

フィービー・ファイロ(Phoebe Philo)期の「セリーヌ」でプレタポルテのデザイン・ディレクターを務めていたマイケルにとって、ショー会場に選んだ本社は思い出深い場所。

「(アメリカから)フランスに戻り、9年間を過ごしたこの建物に戻ってきたことが、出発点になったと思う」とショー後のバックステージで明かした。そして、「創業当初から、私がここで過ごした9年間、また少し異なる手法で素晴らしかった直近の6年間まで全てが『セリーヌ』の基盤になっていると思う。その歴史を消し去るようなことは避けたくて、その上にモダンかつ倫理的で強いものを築くことが正しいと感じた」を語る。その言葉通り、1960〜70年代に多く見られたという昔のロゴ、フィービー期とエディ・スリマン(Hedi Slimane)期の象徴的なスタイルを生かしながら、独自のツイストを効かせてデビューコレクションを作り上げ、上々のスタートを切った。

英ロックバンド、ザ・キュアー(The Cure)の「Pictures Of You」が流れる中登場したファーストルックは、強い肩に対して第一ボタンを留めてシルエットのコントラストを効かせたキャメルのテーラードジャケットに、濃紺のデニムシャツとレギンスのようなスキニージーンズをスタイリングしたウィメンズルック。右の手首にはジャラジャラと金のブレスレットを巻きつけ、指にはいくつも重ね着けしたリング、そして足元は白のショートブーツを合わせている。

パワーショルダーと絞ったウエストが特徴のロングジャケットをはじめ、そこにタックを入れた丸みのあるスラックスを合わせたスーツスタイルや裾がドラマチックに揺れるフルイドなドレスやコート、アートのような色合わせは、フィービー期をほうふつとさせるもの。一方、男女ともに提案したスキニーパンツに加え、ウィメンズのキュロットなどを取り入れたブルジョワスタイルやLBD(リトルブラックドレス)、そしてメンズのルックからは全般的にシルエットはよりゆったりしたものの、エディ期の影響が垣間見える。

そして、直近の6年間「ポロ ラルフ ローレン(POLO RALPH LAUREN)」でウィメンズのクリエイティブ・ディレクターを務めていたアメリカ出身のマイケルは、プレッピーの要素もミックス。レジメンタルタイを締めたシャツをインナーにしたテーラードルックや、袖にボリュームを持たせたスエットシャツ、スキニーパンツを合わせたオーバーサイズのラガーシャツやタイトなアーガイルセーターが象徴的だ。

さまざまな要素が混ざり合うコレクションをまとめるのは、折り返したシャツの袖やパンツからはみ出す裾、無造作に巻いたカーディガンやスカーフ、ジャズシューズやボクシングシューズのようなスタイルのフラットシューズなどで生む、抜け感のあるスタイリング。また、「ファッションの世界には、陽気やユーモアが本当に欠けている」と話す彼は、アレンジを加えて復刻したフィービー期の名作“ラゲージ ファントム“の前面にスマイルを描くようにカーブしたファスナーを配したり、アイコニックな“トリオンフ“からサイコロやキャンディーの包み紙まで多彩なモチーフをジュエリーのチャームに用いたり。ロゴがあしらわれたリボンで仕立てたミニドレスや、自転車のチェーン風ベルトなども提案し、遊び心を効かせた。

ウィメンズとメンズを一緒に見せる理由

久しぶりにショーを開催した「セリーヌ」だが、今後はファッション・ウイークの公式カレンダーの中でコレクション発表を行なっていくという。ウィメンズとメンズを一緒に見せた理由については、「基盤を築くことは、特定のジェンダーに紐付けるものではないと感じたから。『セリーヌ』はこの6年間で、メンズもウィメンズも全ての人にとって存在感を持つようになった。そして大切だと思ったのは、世界を反映すること。ウィメンズだけまたはメンズだけのショーだと“ファッションのため“という感じになることがあるけれど、一緒に見せることでファッションの枠を少し超えることができる。その感覚が好きだし、よりリアルなものになると思う。パリのストリートでも、女性だけ、または男性だけという場面はほとんどないしね」と話した。

エディが手掛けていた時代は、特にウエアは着る人を選ぶ印象が強かった。その点、マイケルのコレクションには、より幅広いシルエットやデザインのアイテムがそろい、多様なニーズに応えられそうだ。「品質、タイムレスなデザイン、スタイル」を「セリーヌ」の価値と考える彼がこだわるのは、着る人のアイデンティティーを示すような着こなし。これからどんな進化を見せてくれるのか楽しみにしたい。

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