「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」は22日、2026-27年秋冬メンズ・コレクションをパリで発表した。ジュリアン・クロスナー(Julian Klausner)=クリエイティブ・ディレクターが今季に掲げたテーマは「大人になること」。門出の前夜を祝福した前回の春夏コレクションの続章として、若き主人公たちは住み慣れた家を離れ、未知の世界へと歩み出す。前シーズンの高揚感ある色彩を引き継ぎながらも、これから始まる旅路を予感させる緊張感、決意、成熟を感じさせるコレクションを披露した。
ショーミュージックに選んだのは、1969年に発表された浅川マキのブルース「夜が明けたら」。“夜が明けたら 一番早い汽車に乗る”というフレーズが象徴するように、今季のランウエイは“旅立ち”の瞬間から始まった。
冒頭に現れたのは、家を離れ、新天地へと急ぎ足で向かう若者たちの姿。その装いは、どこか整いきらず、まだ身体になじみ切っていない。格式あるヘリンボーンのコートには、ラフなショーツや、折り畳めるほど柔らかな新作スニーカー。ボタンを掛け違えたかのようなシャツや、ベルトで無造作に絞ったトラウザー。出発前のあわただしさと、大人になりきれない少年のあどけなさが同居するスタイリングが、無作為的な“抜け”と軽やかさを生み出していた。「家にある愛着のあるものや、家族のヘリテージをバッグに詰め込んだ」とジュリアンが語るように、大きなボストンバッグを抱える姿は、新たな人生へ踏み出す決意そのものを映し出す。
旅路を彩るテキスタイルには、ブランドらしい詩的なアプローチが光る。落ち着いたダークトーンの世界に、ジュリアンが「シュガー(砂糖)」や「フルッテラ」と呼ぶ鮮やかなパステルカラーを差し込む。一見フェミニンに見える小花柄は、ネクタイやスーツの裏地など伝統的な紳士服の要素から着想を得たもの。これをアウターやシャツに大胆に用いることで、男性服のコードを軽やかに覆している。
随所にあしらわれたダークトーンの花柄は、「旅する主人公が道中で撮影した」イメージのポラロイド写真をスキャンし、テキスタイルで表現したもの。招待状としてショーゲストに送られた小さなポラロイドは、この物語への伏線でもあった。
旅が進むにつれ、存在感を強めていくのがニットウェア。デザインチームに30年以上在籍するベテランたちと共に作り上げたチャンキーなセーターやケープが、身体を包み込む。「袖を通すと、守られているように感じる」というジュリアンの言葉通り、それらは不安定な旅路における鎧であり、心の拠り所でもある。
コレクションに知的な奥行きを与えたのは、ヴィクトリア朝からの着想だ。多くのルックに添えた眼鏡は「常に学び続ける姿勢」を示し、胸元に忍ばせた釣り用のルアーや鳥のブローチは、「家族から受け継いだささやかな宝物」を想起させる。過去から託された価値を携え、未来へ進むという姿勢が表れている。
フィナーレは「都市生活への順応」へと着地。テーラードジャケットや重厚なケープの下に、あえて力の抜けたスウェットパンツを合わせるなど、緊張感ある社会と、安らぎを求める個の感情をひとつのスタイルへと溶け合わせた。過去を捨てるのではなく、受け入れ、共存させるという、新しいエレガンスの形だ。
ジュリアンが日本で再発見した浅川マキのブルース。それは「自分らしくあるための」エレガンスを見つける旅の物語を導く調べ。そして、偉大な創業者のレガシーを携え、歩みを進める「ドリス ヴァン ノッテン」の現在地とも重なる。