ファッション

ジョナサン・アンダーソン初の「ディオール」クチュールは、メンズ&ウィメンズのプレタと接続 追放されていたジョン・ガリアーノへの敬意も

ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)による「ディオール(DIOR)」が2026年春夏オートクチュール・コレクションのランウエイショーを開催した。これで彼によるウィメンズとメンズのプレタポルテ(既製服)、そしてオートクチュールという3つの“世界”が出揃ったことになる。

3つの世界を見てみると、彼が、メゾンコードとも言うブランドのアイデンティティに敬意を表しつつも、現状には満足せず、既成概念を超越することでブランドを守ろうと言う気概が通底している。例えば最初のウィメンズ・コレクション(26年春夏シーズン)では、“デルフト”などに代表される数々の名シルエットをカーゴパンツという現代的なアイテムに変換。快活なミニ丈を連打したり、ドレスもジャージーで生み出したりと、昔から語り継ぐクリスチャン・ディオール(Christian Dior)の遺産を現代、そして未来に継承しようとする意志が見てとれた。

また直近のメンズでは、尊敬の対象をディオール以上に拡大。1900〜20年代に女性をコルセットから解放したり、色彩豊かな異国情緒を持ち込んだりでパリのファッションシーンを次のステージへと押し上げたポール・ポワレ(Paul Poiret)にオマージュを捧げたコレクションを発表。ポワレのストンと落ちる解放的なドレスをロックなノースリーブのベストに変換したり、ロングシルエットのTシャツドレスにアレンジしたりで、メゾンのレガシーのみならず“パリのファッション観”まで継承しようとする覚悟を発信した印象だ。

歴代デザイナー同様、花を着想源に ガリアーノから贈られたシクラメンを描く

では、初のオートクチュールでは、何に敬意を表し、何を超越したのか?

まず敬意を表したのは、クリスチャン・ディオールの花を愛する姿勢。ジョナサンは歴代のデザイナー同様、自然に大いなるインスピレーションを得たが、そのありのままの、人為的にはコントロールできない、人間には予想不可能な偉大なる生命力により影響を受けた。登場するのは、数多のヒダに軽量のフェザーを縫い付けて躍動感を高め、まるで逆さまにしたラッパスイセンで体を覆ったかのようなアシンメトリーなドレープドレスや、バイアスに裁ったエクリュのジョーゼットで仕上げて金蓮花をあしらったロングドレスなど。メゾンのクラフツマンシップを駆使して、生地を結んだり、たくし込んだり、斜めに流したりしながら、花弁を思わせる数千もの刺繍を加え、自然が生み出した造形美である流線形のシルエットに仕上げていく。

コレクションの出発点の1つには、シクラメンの花束があったという。かつて「ディオール」のトップを務めつつも、薬物の摂取や人種差別的な発言によりメゾンを追われたジョン・ガリアーノ(John Galliano)がジョナサンに贈ったものだ。

漆黒のオーガンジーで作った円錐形のドレスの上に色とりどりのフェザーで描いたシクラメンを筆頭に、シクラメンを黒のリボンで結んだ先達からの贈り物に敬意を表したアイテムは、同系色のシクラメンを刺繍したロングドレス、緑のオーガンジーで葉っぱを模したパーツを連ねたスカートとドッキングさせてカシミヤのケープとコーディネイトしたパネルスカートなど、多岐に及んでいる。多くのモデルの耳飾りは、ガリアーノからの贈り物そのものの形だ。ジョナサンはショーの前にガリアーノに意見を求め、さらにはショー会場にも招いている。上述した事件以来、ガリアーノが「ディオール」というメゾンにカムバックした記念すべき時となった。レガシーに敬意を表しつつ、これまで「ディオール」が避けてきたガリアーノに再び焦点を当てたことも既成概念の超越と言えるだろう。

クチュールからプレタだけではなく プレタのアイデアをクチュール級に昇華

ジョナサンはオートクチュールを「アイデアのラボ。挑戦は手仕事と切っても切れない関係にあり、長い時間をかけて築いたテクニックは遺産として保護されるのみならず、生きた知識として活用される。実験し、再結集し、想像し直すことで、物事の見方を考え直す場所でもある」と捉えている。多くのデザイナーも同様で、だからこそ通常は、オートクチュールで試したアイデアがプレタポルテで標準化されたり実装されたりするものだが、ジョナサンは逆のルートにも取り組む。プレタポルテのアイデアを、オートクチュールの技術で、より現代のライフスタイルに即した形にレベルアップできないか?という思考だ。

その思いが現れたのは、序盤。25-26年秋冬コレクションにも登場した、チュールに斜めにプリーツを入れて、下半身では大きく円形に膨らませて裾にリボンをあしらったドレスだ。プレタポルテよりもロング丈に仕上げたが、構造を改めて根本的に見直すことで、プレタポルテよりも軽く仕上がったという。球体のシルエットは、手作業で作った構造体にごくごく繊細なテクニカルニットを被せ、同じ柄のベルベットと組み合わせたアシンメトリーなスカートを加えたドレスへと昇華して、1つの完成形となる。クチュールからプレタと上から下にアイデアを希釈するのみならず、プレタのアイデアを濃縮させることでクチュールのレベルにまで高めるスタンスは、新しい。だがジョナサンの中には、そもそもクチュールが上位でプレタが下位という発想さえないのかもしれない。

ジョナサンが現職に就任した当時、多くの人は、3つのコレクションを同時進行する激務を心配した。しかし3つの世界が出揃うと、メンズとウィメンズ、クチュールとプレタポルテは地続きに繋がり、1つのアイデアが3つの世界を行ったり来たりしていることがわかる。従前ジョナサンは「ジェイ ダブリュー アンダーソン(JW ANDERSON)」で、「すべてのアイデアを1度には出さない。価値あるものだから、何度も試している。自分自身が枯渇しないようにも気をつけている」と話していたが、そんな考えは「ディオール」にも当てはまっている。3つの世界を行ったり来たりするアプローチを見ると、ジョナサンならこの激務を全うしてくれるだろうし、それが「ディオール」というブランドの世界観を統合するためにも有効なアプローチのように思えてくる。

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