「アーティスツ フェア キョウト 2026(ARTISTS' FAIR KYOTO 2026、以下AFK)」がこのほど、京都市中心部で開催された。同フェアは、歴史ある博物館や寺院を舞台に、絵画や彫刻、写真など多様なジャンルの現代アートを展示・販売するイベントで、今年で9回目を迎える。国内外のギャラリーが出展する一般的なアートフェアとは異なり、アーティスト自らがフェアを立ち上げ、京都府や企業の賛同を得ながら継続してきた世界でも稀有な取り組みだ。
次世代のアーティストを世界へ
重要文化財の名建築がメイン会場に
「Singularity of Art(シンギュラリティ オブ アート)」をテーマに掲げる「AFK」は、次世代のアーティストが世に羽ばたくためのきっかけや、来場者とアーティストが直接対話して作品を売買できる場を作ることを目指し、2018年にスタート。美大・芸大が点在し、共同スタジオやアトリエも多い京都の街で、早春の恒例イベントとして定着してきた。
メイン会場の京都国立博物館明治古都館では、16名のアドバイザリーボード(若手アーティストを推薦するアーティストら)の推薦と公募によって選出された、国内外の若手アーティスト40組が作品を展示・販売した。
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アーティストらは参加決定後、コンセプトや制作について、また展示する空間や設営などについても、アドバイザリーボードのメンバーから助言を得ながら準備を進め、フェア当日に臨む。VIPプレビューを含めわずか4日の会期にも関わらず、次世代の才能に出会おうと、多くのコレクターや鑑賞者が足を運び、会場はにぎわいを見せた。
また、出品作家の中から優れたアーティストを選出する「ART AWARD」では、優秀賞に伊地知七絵、白簱花呼、髙橋凜、リベッカ・ドローレン(Rebecca Drolen)の4名が、そして最優秀賞に、チョコレートや砂糖などを素材にした“洋菓子彫刻”で注目を集める中西凜が選ばれた。
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AFKの立ち上げ時からディレクターを務める現代美術家の椿昇は、国内外で40年以上にわたって作品を発表し続けながら、四半世紀に渡って教育の現場にも関わり、05年から京都芸術大学で教鞭を取っている。椿ディレクターは、開幕を前に開催されたレセプションで、アーティストが創作活動のみで生計を立てる困難さにふれ、「明治以降の日本は、庶民から美術が遠ざかってしまった。『もっとアートとともに暮らす人を増やそう』と始めたのがAFK。従来のアートフェアやギャラリー販売と異なり、作品の売上の全額がアーティストの手元に入る仕組みになっていて、今回も多くの若手作家が参加している。来場者の皆さんにはぜひ作家たちの作品を購入して、文化芸術をつくる“当事者”となってほしい」と語った。
キャリアを重ねたかつての若手アーティスト
茶室「堪庵」で特別展を開催
椿ディレクターの推薦で18年に開催した1回目の「AFK」に参加した画家の品川亮は今回、特別展「ひとの多い方へ」を開催した。京都に拠点を置く品川はキャリアを着実に重ね、24年春には仏フレグランスメゾン「ゲラン(GUERLAIN)」とコラボレーション。ブランドのアイコン的存在である“ルージュ ジェ”の限定デザインケース“ルージュ ジェ ケース チェリー ブルーム”を制作した。その後も同ブランドとの協働は続き、25年12月には西武池袋本店の新ブティック「ゲラン メゾン ド パルファン」のオープンに際して店内展示用の作品を手がけるなど、活躍の場を国内外に広げてきた。
同展が行われた茶室「堪庵(たんあん)」は、江戸時代初期の京都における公家文化の伝統を受け継ぐ数寄屋造りの建物。八畳の書院座敷を中心に、正面に広縁(ひろえん・幅広の縁側)、左脇に玄関、裏に水屋があり、庭に面して自然と一体をなしている。
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桂離宮から学んだとも言われる茶室建築のそこかしこには、昨年、4カ月に渡る欧米各国への旅で目にした風景や経験、出会いを、和紙に墨で描いた作品群を設えた。訪れた鑑賞者を、束の間、せわしない日常から切り離し、空間全体で旅へといざなっていた。なお、品川は4月8日から、大阪・阪急うめだ本店で個展「SPRING’S FLUTTERING」を控えている。本展とは異なるシリーズの作品群を展示予定とのことで、ぜひ訪れてほしい。
「ディオール」や「アンリアレイジ」などとの協業も
名刹 東福寺でトップアーティストが作品を展示
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若手アーティストらを推薦・選出したアドバイザリーボードには、国内外で活躍するアーティストたちが名を連ねる。今年から新たに、東京都写真美術館での個展でも注目を集めた写真家の鷹野隆大と、「AFK 2019」に招待作家として参加したのち、国際的に活躍している現代美術家の笹岡由梨子も加わった。
彼らの作品は「AFK Resonance Exhibition」と題して、京都五山の名刹、東福寺で展示・販売。ここでしか体感できないサイトスペシフィックな展示空間を、ゆったり味わいながら鑑賞する来場者の姿が多く見られた。
アドバイザリーボードには、「ディオール(DIOR)」や「アンテプリマ(ANTEPRIMA)」「アンリアレイジ(ANREALAGE)」「ザラ(ZARA)」など、国内外のメゾンやブランドらと協業してきたアーティストも多数参加している。ファッションやビューティのグローバル企業が、コンテンポラリーアートの最前線で活躍する日本人作家に注目している点は特筆すべきだろう。
「AFK」に共感する企業も参画
市内各地で展覧会やイベントを無料開催
「AFK」の会期中は、京都市中心部のラグジュアリーホテルや百貨店、アートギャラリーなどでも、ゆかりのあるアーティストらの展覧会やイベントを多数開催した。同フェア終了後も会期が継続するものも多く、いずれも入場無料で楽しめる。
例えば、1555年創業の京友禅の老舗「千總(ちそう)」では、京都を拠点にする日本画家の松平莉奈の個展「無縫の天地」を4月14日まで開催している。AFK会期中の週末にはアーティスト・トークを実施し、松平と「千總」の今井淳裕製作プロデューサーが登壇した。2人は個展開催の経緯や展示作品、そして着物の模様構成に着想を得た、松平の新作のリピート模様について語ったほか、今井プロデューサーは図案デザインをデモンストレーション。立ち見がでるほど多く集まった観客からは拍手が起こった。
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「千總」は、本店の2階に常設で設けたギャラリースペースに、2022年から主に同社の貴重なコレクション群を紹介してきた「ギャラリー1」に加え、現代アーティストの作品を展示する「ギャラリー2」を設けた。展示企画を担当するギャラリーの石田直子学芸員は、「工芸とアート、伝統と創造、過去・現在・未来などが交差する場をつくることで、これからも多くのお客様に、美との出会いを提供していきたい」と語った。
来年、「AFK」はいよいよ10回目の開催を予定している。回を重ねるごとに規模も来場者数も増え続け、京都市内のさまざまなエリアで同時多発的に開催するイベントも増えた。特に若手アーティストらのセールスも、順調に右肩上がりを続けているという。「アート作品を購入し、暮らしの中で楽しむ」という人々を確実に増やし続けてきた同フェア。来年はぜひ早春の京都を訪れ、アーティストや作品との一期一会の出会いを楽しんでほしい。