ファッション

自然と時間のはざまで──現代美術家サム・フォールズの実践

PROFILE: サム・フォールズ/現代美術家

PROFILE: 1984年生まれ。アメリカ・バーモンド州で育ち、現在の拠点はニューヨークとロサンゼルス。リード大学で物理学、言語学、哲学などを学んだのち、2010年にICPバード芸術研究課程を修了。小山登美夫ギャラリー六本木にて、約2年ぶりとなる個展を開催中(会期は2026年2月28日まで)

現在、小山登美夫ギャラリー六本木で個展を2月28日まで開催中のサム・フォールズ(Sam Falls)。その活動は、ここ数年でシーンを超えて広がりを見せてきた。「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」といったラグジュアリーブランドとの協業に加え、昨年は「ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)」とタッグを組んだことも話題に。さらに25年は日本各地の美術館でのグループ展参加が続き、金沢21世紀美術館、下瀬美術館、タグチアートコレクションで作品を発表している。

ニューヨークとロサンゼルスを拠点にする彼の軸となるアプローチはペインティングだが、いわゆるアトリエで筆とともに描かれるものではない。地面や野原にキャンバスを敷き、採取した植物でコンポジションを編成。その上から水に反応する顔料をまき、屋外に一定期間置くことで湿度や風といった自然の力も加わり繊細なシルエットが浮かび上がる。いわば場所の特性を活かした表現である。

近年は彫刻においても新たなアプローチを追求しており、昨年の来日時に出合った日本の生花に着想を得た新作「Ikebana」シリーズも披露する。より親密で内省的な視点を織り交ぜながら展開する本ギャラリーでのエキシビションを作家の言葉からひも解いていく。

作家が考える生命の輪郭

——小山登美夫ギャラリーでは2024年の展示から2度目の個展となりますが、どのように発展させたのでしょうか?

サム・フォールズ(以下、サム):どれも自然と結びつきのある作品が多いのですが、それだけでなく、家族との関係性を落とし込んだものもいくつか展示しています。コロナ禍に具象画の歴史を掘り下げるなかで、身近な存在が自然とインスピレーションになっていきました。たとえば「Eternal Return」という作品では、子どもと自分を表現しながら、人生のステージを示唆しています。一番左は骸骨のようにも見えるでしょう?これは死後のイメージです。ここで使っている素材は、アトリエがあるニューヨークのハドソンバレーで見つけたシダ化の植物。谷には山頂より早く春の訪れを感じることができるので、すでに開いたものと、山頂にある蕾を使い分けています。日々植物を観察していると、長い茎は骨のようだし、葉脈は血管のようにも見える。そのシルエットは人間の身体とも親和性を感じるんです。我々は死んだら土に返るとよく言いますし、植物を描きながら、循環する生命のかたちを重ね合わせています。なので、いわゆる歴史的な静物画の概念からは少し異なるステージにあるものかもしれません。

——生命をテーマにした「Eternal Return」も象徴的で、「自然」と同じくらい「時間」も大事なキーワードだと感じます。ご自身は「時間」をどのようなものと捉えていますか?

サム:大学は物理の専攻だったので、もともと興味があったのです。死に対する恐怖というか、長らくその不安を取り除きたいという気持ちで勉強していましたね。それでも理解するのは不可能だと気づいてアートの道に進みました。最初は写真を通して秒単位のアプローチで考えていったのですが、それでも分からなかった。やがてペインティングに挑戦して、もう少し長い尺で自分の時間を反映していくことになっていきました。すると、次第に死に近づいていく感覚を受け入れられるようになった気がします。今は時間について考えを巡らすというより、関わり合いをもつことや、相互作用として捉えることで整理がついたのかもしれません。

——では、この「El Capitan」はどういったものなのでしょうか?

サム:これも具象的な作品です。目を凝らすと水中にダイブした人間が浮かび上がってくると思います。いまはニューヨークとロサンゼルスの二拠点生活で、国立公園に出向くことが多い日々ですが、あるとき、サーフィンも好きだから「水中の森」に着目してみてもいいかもしれないと気づいたんです。それで、ロサンゼルスのマリブ海で採取した海藻を使っています。先端に付着した石もそのまま取り入れています。さっきの作品と違って、「レイアウト段階で植物のシルエットが人間の背骨に見えるかもしれない」「漂う海藻に見立てられるかもしれない」など、制作過程でストーリーが拡張していきました。

——作品内に3つのレイヤーがある「Bellows」シリーズには、どんな意味を込めているのでしょう?

サム:このシリーズ名は大判のアナログカメラの「蛇腹」に由来します。レンズをのぞき込んだときの焦点からインスピレーションを得て、作品内に濃淡の異なる3つのレイヤーをつくり「多重露光」という意味合いを持たせました。比較的雨の少ない夏のニューヨークで制作したのですが、一層目は雨が降ったので顔料が全部溶けて植物のシルエットがぼやけたのに対して、二層目は逆に雨が降らなかったのでシャープに浮き上がりました。キャンバスの上から水に反応する顔料を投げるようにまいていく方法が通例ですが、単純に雨が多かったから色がぼやけるということではなく、顔料が風で飛んでいってしまったことで淡くなることもあります。反対に風や雨が少なければ濃い色が出るということです。今までは風が強くてもマスクなしで作業に没頭していたこともありましたが、父親になってからは顔料を吸い込まないようにケアするようになりましたね(笑)。このシリーズは2つほど展示していて、植物も顔料もロケーションも全て同じ。天候によってどれだけ色の出方が違うかを見比べる楽しさがあると思います。

——アートバーゼル(Art Basel)の「アンリミテッド」セクションで展示された巨大作品「Spring to Fall」が下瀬美術館でも披露されましたね。制作に1年以上を費やす大きな作品も手がけるなかで、レイアウトにおけるリズムはどのように生まれるものなのでしょうか?

サム:アトリエ付近にある農場の四季を普段から観察していて、それを表現する試みでした。大小関係なく、かなり即興的に構図を組んでいくパターンがほとんどですね。旅をしながら制作する場合、到着する頃に目当ての野花がすべて風で散ってしまったなんてこともざら。常々その場所や天候に左右されるけれど、自分が柔軟に合わせていくのがかえっていいと思っています。

ミニマリズムと向き合った先にあるもの

——彫刻作品についても聞きたいのですが、建築部材であるアルミ製Iビームを使ったものも印象的です。

サム:妻がセラミックアーティストということもあり、彫刻をやるようになったのはこの7年くらい。Iビームの側面にセラミックをあしらった「Tower of Light」は、LAのグリフィスパーク(山や谷がある広大な自然保護公園)でマウンテントレイルをしながらモチーフを探しました。梁の4側面それぞれ敷地内の異なる山並みで採取した植物で構成しています。まだ濡れている陶土に植物を埋め込んで焼き付ける手法は、化石みたいに見えるのが面白い。

——そもそもIビームを使おうと思ったのはどうしてなのでしょうか? 過去にジャン・プルーヴェ(Jean Prouve)について言及していた記事もありますが、彼の建築がヒントになっていたりしますか?

サム:まさに。ニューヨークにある超高層ビルを見たからではなく、プルーヴェのIビームを使った小型建築と出合ったからですね。彼も自分と同じように自然との繋がりを模索していたと思います。あとは、ミニマリズムからの影響もありますね。ドナルド・ジャッド(Donald Judd)、ロニ・ホーン(Roni Horn)、ブライス・マーデン(Brice Marden)といった、デザイン要素のある幾何学的なアートにインスパイアを受けています。そこに、温かみを加えたかった。自分が暮らしているニューヨークやロサンゼルスでは、放っておくと自然との繋がりがどんどん薄れてしまうんです。そこで、ミニマリズムを参照しながらも有機的な要素を掛け合わせる方法に辿り着きました。

——日本文化からの影響も過去に語っていますが新作の「Ikebana」シリーズは、生花をヒントにしたものだそうですね。

サム:昨年、「ザ・ノース・フェイス」とコラボレーションをした際に、小山登美夫ギャラリーとの協業で個展を行いました。会場の草月会館は「いけばな草月流」の総本山ということもあり、レッスンを見学できる機会がありました。そこで、花瓶や彫刻を掛け合わせた実験的なスタイルに刺激を受けて、花を生けるポケットのある彫刻作品が生まれたんです。

——美しい花々が彩りを添えていますが、これはどのようなイメージで選んでいったのでしょうか?

サム:これまで話してきたように、自分の作品はサイトスペシフィックなもので、ニューヨークやロサンゼルスで見られる「変化」をいつも投影してきました。それを東京にもってきたときに同じような考え方で、その土地で見つけた季節の花々を選ぶことにしました。会期中に生け替えてもらうことになるのですが、他者の手が加わることは面白い試みです。小さなことかもしれないですが自分には大きな変化で、作品をより親密に感じてもらえるようになれば嬉しいですね。ファッションの世界で例えるとしたら、着る人が服を変えていく相互作用があると思うのですが、それと同じようなことが起こればいいなと。

——最後に今後の展望をおしえてください。

サム:キャリアを振り返ってみると、太陽からヒントを得て雨について考えペイントへ。そこから土に辿り着き彫刻作品を制作するようになりました。さらに、花を生けることも取り入れるようになって、コンセプチュアルな作家として複雑なことを試していくなかで、改めて写真と向き合いたい気持ちになってきました。大きなきっかけは、ロサンゼルスの山火事です。アーティストとして何かを導いていかないといけないと感じながら、焼けてしまった山で採取した植物で作品を手がけたこともありました。あの悲しみから一年たったいま、その場所に芽吹いた花を見た瞬間に、やらなければいけないと思ったんです。

◼️サム・フォールズ 展
会期:2月28日まで
場所:小山登美夫ギャラリー六本木
住所:東京都港区六本木6-5-24 complex665 2階
時間:11:00〜19:00
休館日:月曜日、日曜日、祝日

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