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ティモシー・シャラメ主演映画「マーティ・シュプリーム」衣装デザイナーが明かす制作の舞台裏

ティモシー・シャラメ(Timothee Chalamet)主演のA24製作の最新映画「マーティ・シュプリーム 世界をつかめ」が、3月13日から日本で全国公開される。

本作は、「アンカット・ダイヤモンド(Uncut Gems)」や「グッド・タイム(Good Time)」を手掛けたニューヨーク出身のジョシュ・サフディ(Josh Safdie)が脚本・監督を務めた最新作。いずれもニューヨークの裏側を舞台に、がむしゃらに生きる主人公の姿を描いた作品だ。「マーティ・シュプリーム」の舞台は、1952年のニューヨーク市マンハッタンに位置するロウアー・イーストサイド。ティモシー・シャラメが演じるのは、靴のセールスマンでありながら卓球チャンピオンでもあるマーティ・マウザー(Marty Mauser)だ。

1950年代NYのファッションを“超リアル”に再現

同作の衣装デザインを担当したのは、スタイリストやコスチュームデザイナーとして活躍するミヤコ・ベリッツィ(Miyako Bellizzi)。ベリッツィは、10年以上前に共通の友人を通じてサフディと出会い、過去2作品でも衣装デザインを担当してきた。50年代を舞台とする今回の作品では、彼女自身の長年の趣味であるビンテージ収集の経験が大きく生かされたという。「その時代の服のシルエットや生地については、もともとよく知っていた。高校生の頃からギャバジンシャツを集めていたので、この映画が始まる前からこの時代のことは熟知していたし、この時代が一番好きだ」と語る。

ベリッツィとサフディが目指したのは、1950年代のニューヨークのリアルをスクリーンに映し出すこと。それは、当時のニューヨークのファッションシーンを忠実に再現することであった。「マーティ・スプリーム」の衣装制作では、当時の雑誌のアーカイブ写真やドキュメンタリーなどの資料をもとにリサーチを重ねた。

世界観を理解すること、そして第二次世界大戦後の1952年に何が起きていたのかを把握することが重要だったと彼女は語る。物語の舞台はニューヨークのロウアー・イーストサイドにとどまらず、登場人物たちがロンドンや日本へと旅する場面もあり、物語は世界各地へと広がっていく。ベリッツィは、“リアル”を表現するためには、当時世界各地の人々が実際にどのような服を着ていたのかを理解することが不可欠だったという。それには、人々の着こなしだけでなく、その時代に何が手に入ったのかを知る必要もあった。当時は戦後の混乱期であり、入手できない素材も少なくなかったからである。例えばロンドンでは、グリーンのウールが手に入らなかった。

制作に特に大きな影響を与えたのは、アメリカの映画監督ケン・ジェイコブス(Ken Jacobs)が1955年に制作したドキュメンタリー「オーチャード・ストリート(Orchard Street)」だ。50年代のロウアー・イーストサイドを記録したこの作品は、当時流行していただぼっとしたシルエットの“ズートスーツ”や、貪欲に生きる人々の姿、さらには多文化の共存によって生まれたさまざまなトレンドを映し出しており、“ロウアー・イーストサイドのバイブル”となった。彼女は、そうしたスタイルは非常に繊細でありながら少し独特でもあり、その雰囲気をマーティというキャラクターを通して表現したかったと付け加える。

スーツが体現するマーティの夢と個性

ベリッツィは、作中に多く登場するスーツを通じてマーティの風変わりな個性を体現しようとした。衣装を決めるうえで重要視したのは、日常の服装というより、彼が旅に出るとき“どんな自分でありたいか”を考えることであった。ロンドンを訪れる場面では、マーティは理想の自分を演出するような装いをする。「彼はロウアー・イーストサイドで育った少年だが、大きな夢を抱いている。だから、今の彼自身ではなく、“彼がなりたい男は誰なのか”という視点で衣装を考えました」とベリッツィは語る。

脚本には、マーティがロンドンへ“特別なスーツ”を持っていくというシーンがあり、それが彼女にとっては大きなポイントだったという。実際にはまだ大物ではないのに、そう見えるように装う彼を、どう表現すればいいか。そのイメージから衣装の方向性を決めた。最終的に選んだのは、ロウアー・イーストサイドのハスラーたちをモデルにした、細かい赤のピンストライプが入ったダブルブレストピークドラペルのグレーのスーツだった。「彼が憧れるのは、まさにああいうタイプの男たちだからだ」とベリッツィは説明する。このスーツは、映画全体の衣装デザインの基準にもなった。作中、マーティは卓球の試合でもそのスーツのパンツを着用しており、スーツを上下バラバラに着こなす場面でもパンツは常に身につけているという。

またベリッツィは、マーティの物語の軌跡を、ロバート・パティンソン(Robert Pattinson)主演の映画「グッド・タイム」と重ねていたという。パティンソンと同様、シャラメも映画の大半を駆け回りながら過ごす。「靴屋での仕事着に始まり、そこから家に走って帰り、ロンドンへ飛び、また戻ってくるといった、動き続ける場面が非常に多い作品だ」と語る。

ベリッツィは20人体制の縫製スタッフと協力し、主要キャストの衣装の大半をオーダーメードで制作。マーティとその後援者たちが着るスーツから、ハーレム・グローブトロッターズのユニホーム、各国の卓球選手たちのユニホームやウォーミングアップウエアに至るまで、全てを一から作り上げた。大舞台に各チームが一堂に集う場面で個性を際立たせるため、それぞれに異なるスタイルを取り入れた。ベトナムはベビーピンクのポロシャツ、インドはバーガンディー、ブラジルはダークグリーン、ドイツはイエローとブラックといったように、国ごとにさまざまなカラーパレットを用いた。

女性キャラクターの衣装は往年の映画スターに着想

同作は男性中心の物語ではあるが、中には重要な女性キャラクターも登場する。マーティの母親を演じるフラン・ドレッシャー(Fran Drescher)、幼馴染を演じるオデッサ・アジオン(Odessa Azion)、そしてアッパー・イーストサイドに暮らす華やかな年配の俳優をグウィネス・パルトロウ(Gwyneth Paltrow)らである。

ベリッツィにとって、パルトロウが演じるキャラクターは自身の理想のキャラクターだったという。衣装のインスピレーション源は、マレーネ・ディートリヒ(Marlene Dietrich)やグレース・ケリー(Grace Kelly)といった往年の映画スター。さらに、「ジバンシィ(GIVENCHY)」、「バレンシアガ(BALENCIAGA)」、「ディオール(DIOR)」のルックも参考に、クラシックで洗練されたスタイルを追求した。ベリッツィは、特にお気に入りの衣装として、マーティがロンドンのホテルロビーで初めて彼女と出会う場面で着用されるケープと、その直後にマーティの試合を観戦する場面のスカートスーツの2着を挙げた。

実際にベリッツィ自身もスカートスーツをコレクションするほど愛好しており、高校のプロムでもグウィネスが作中で着用しているものに似た1950年代のガウンを着たという。ベリッツィはキャラクターへの思い入れについて言及しながら、「まるでこのキャラクターにたどり着くために、人生をかけて準備してきたような気がします」と語った。

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