ファッション
特集 メンズ・コレクション26年春夏

ジョナサン・アンダーソンの「ディオール」早くもお披露目 自身のキャリアとメゾンの歴史が出合い、交わる序章

2026年春夏メンズ・ファッション・ウイークにおける最大のニュース、ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)新アーティスティック・ディレクターによる「ディオール(DIOR)」がベールを脱いだ。

会場は、ナポレオンが眠るアンバリッドの特設テント。普段の「ディオール」はメンズ・コレクションでも1000人以上のゲストを招くというが、今回約600人まで絞り込んだ。テントの中には美術館のような空間をしつらえ、18世紀に活躍した画家ジャン・シメオン・シャルダン(Jean Simeon Chardin)の絵画を2枚飾った。ルーブル美術館とスコットランド国立美術館から特別に借りたものという。アートは、見るものの想像力を刺激して、クリエイティブの連鎖を起こす。振り返ればジョナサンは「ロエベ(LOEWE)」のときから、既成概念を超越したクリエイションで問いかけ、見るものを刺激してきた。その姿勢は「ディオール」でも変わらないということだろうが、アートの中でも絵画への造詣が一際高かったクリスチャン・ディオール(Christian Dior)にオマージュを捧げているのだろう。

コレクションは、ジョナサンと「ディオール」の出会いの序章だった。北アイルランドで生まれ、ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業、自身の「JW アンダーソン(JW ANDERSON)」と「ロエベ」でキャリアを積んで現在に至るジョナサンの歩みと、「ディオール」の軌跡が交わり、これから新たな道を切り拓いていくことを暗示する。

ファーストルックは、まず多くの人が「ディオール」と聞かれたら想起するバージャケット。クリスチャン・ディオールが1947年に発表したニュールックの根幹を成す、砂時計のシルエットをしたジャケットだ。それをジョナサンは、ツイードの身頃と、サテンのピークドラペルで形作る。ツイードは、自身のルーツであるイギリスを代表する素材。そしてサテンは、バージャケットにも度々使われたのはもちろん、戦後まもなくまだ貧しかった時代、人々に夢や希望を与えた「ディオール」にとって意味深い素材だ。ボトムスには、「ロエベ」時代を思い出すラッパスイセンのようなシルエットのカーゴパンツを選んだ。ジョナサンの原点、そして直近の過去が「ディオール」と交わり、未来に向かって歩き出したことを示唆している。

アイルランドの西沖で生まれ、家族や村ごとに異なる模様があるというアランニットから生まれたケーブルニットも、キーアイテムの1つだ。カラフルなケーブルニットは、ボウタイをあしらったプリーツシャツにシルクストールという出で立ちの肩にかけ、フォーマルを今風にカジュアルダウン。クリスチャン・ディオールが愛した花模様の刺繍あしらったニットも頻出する。ボトムスは、ジョナサンが普段から愛用するジーンズなど。カーゴパンツはトロピカルウールで作り、細身に仕上げて「ディオール」らしいモード感を高めた。

「ロエベ」時代のキーアイテムも頻繁に登場する。例えば、四角形に切り出した布を折り紙のように内側に織り込んだショートパンツも頻出。「ロエベ」との違いは、こうして作った“ひだ”を複数寄せて、プリーツやペプラムのように見せたことだ。ジョナサンのクリエイションが“ディオライズ”、「ディオール」色に染まっていく。ハンティングジャケットのようなコートには、背面に幾つものプリーツを寄せた。スタイルの多くはジョナサンであり、「ディオール」であり、貴族的だ。

キム時代の“隙のないルック”から
アートのように余白を残すスタイルへ

もう1つの大きな特徴は、上述した美術館のアートのように、見るものを刺激する、もしくは見るものに解釈を委ねる“余白”を残すスタイルだ。キム・ジョーンズ(Kim Jones)時代に比べれば結果“クワイエット・ラグジュアリー”だが、ジョナサンと「ディオール」が融合するアイテムを極力普遍的に仕上げ、だからこそ自由奔放にスタイリングできる雰囲気を醸し出している。

隙のないスタイリングで「ディオール」に求められるエレガンスを体現していたキム時代に比べると、“ハズし”や“抜け”の要素は至るところに存在する。デニムのロールアップは左右非対称だし、ネクタイも大剣と小剣は様々な位置で重なり合い、時には裏返しになっている。結果、これまでの「ディオール」と比べ、敷居は低くなった。

「ロエベ」時代のクリエイションを知っていれば、驚きの要素は少ない。絢爛豪華な刺しゅうに至っては、正直皆無と言っていいだろう。だが、全てはきっとジョナサンのロードマップ通り。デビューシーズンのメンズは、自身のスタイルコードと「ディオール」のメゾンコードが交差し得ることの表現に特化したのだろう。アイデアの枯渇を恐れ、従前から「すべてを一度に吐き出すことはしない」と宣言してきたジョナサンの「ディオール」は、どう進化していくのだろう?10月のウィメンズ、そして来年初旬のオートクチュールが楽しみだ。600人のゲストは、ジョナサンが現れると総立ち。スタンディングオベーションを贈った。

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