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小説でもコミックでもない“グラフィック・ノベル”の魅力

 本連載では、代官山 蔦屋書店のコンシェルジュおすすめの多岐にわたるアイテムを紹介する。ライフスタイル提案型書店をうたう同店がカバーする商品は書物にとどまらない。本連載では、雑誌や書籍はもちろん、映画、音楽、文具まで今注目のアイテムを幅広くピックアップ。初回は、雑誌担当の高山かおりコンシェルジュが衝撃を受けたという、リチャード・マグワイア(Richard McGuire)の「ヒア(HERE)」(国書刊行会:4000円)。著者はグラフィック・ノベルという耳慣れないジャンルの代表格だ。小説でもコミックでもないグラフィック・ノベルの魅力とは。

 「ヒア」は1989年、アメリカの前衛コミック誌「ロウ(RAW)」にモノクロ6ページで掲載されたのが初出。25年後の2014年、アメリカでフルカラー300ページの大作にまとめられ再発された。16年10月に邦訳出版されると、雑誌の書評などで取り上げられ日本でも話題になった。

 「受けたことのない衝撃で、一気読みしました。イラストやセリフが入っていますが、ページの構図などを含め小説ともコミックとも言えない不思議な体裁です。デザインされた小説といった感じでしょうか。このジャンルでは、リチャードのほかにはエイドリアン・トミネ(Adrian Tomine)という作家がいて、彼はビームス(BEAMS)が発行する文芸カルチャー誌『インザシティ(In The City)』の表紙も手掛けています。『ヒア』の見開きは初めから終わりまで、同じ空間を描いています。2014年のアメリカの一家庭の部屋から始まり、その家が造成される前の更地、さらには未来や紀元前の世界までが出てきます」。

 それぞれのイラストには年代が記入されており、見開きには異なる世代の複数のイラストがランダムに差し込まれている。読み進めると前のページと年代が繋がり、登場人物たちの関係性などが見えてくる。部屋の壁紙や飾られている絵などインテリアも年代によって異なり、細部に注意して読み込むと思わぬ発見があるはずだ。「探検遊びをした幼いころの記憶や、アガサ・クリスティー(Agatha Christie)のミステリーを読んでいるような感覚に近いものがありました。その場所の歴史を俯瞰するわけですが、年代が幅広くかつバラバラなのでついつい謎解きをしたくなるんです。それでも全ては分からず、謎が残ります(笑)」。

 300ページを超える本書は、ハードカバーで厚み3cmほどの分厚い1冊。一見すると手強そうに見えるが、イラストが多く、文字は少ないので一読するには見た目ほど時間がかからないはずだ。「想像力を広げることが、本を読む楽しみだと思うんです。本の中の世界に入って自分で考えるといいますか。もちろん知りたいから本を読むということもありますが、小説などを読む楽しみは想像力を広げることにあるのではないでしょうか。その感覚を改めて思い出しました」。「ヒア」は、どんな1冊にも増してゴールのない一書。その解釈は、読者に委ねられている。

 次回は7月13日掲載予定で、“捨てる”がキーワードの2冊。お楽しみに。


今回のコンシェルジュ:高山かおり
代官山 蔦屋書店 マガジンコンシェルジュ。北海道生まれ。某セレクトショップにて販売員として5年間勤務後、2012年4月より現職。主に国内の雑誌・リトルプレスの仕入、マガジンストリートでのフェア・イベントの企画を手掛ける。

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