PROFILE: (左)河南悠/アンドエスティHD人事部長 (中央)江目まゆみ/シック・ジャパン人事本部長 (右)矢野晶也/ZOZO人自本部 本部長

企業文化醸成や従業員のエンゲージメント向上に寄与する取り組みに全社共通の正解はなく、企業の規模や歴史、どのフェーズにあるかによって形が変わってくる。本特集の締めくくりとして行った座談会には、アンドエスティHD、ZOZO、シック・ジャパンの人事部長と本部長が登場。三者三様のバックグラウンドを持つ企業がそれぞれの「らしさ」をどう制度や文化に落とし込み、社員の成長へと結びつけているのかを聞いた。(この記事は「WWDJAPAN」2025年11月3日号からの抜粋です)
共通言語で組織を束ねる
WWD:創業年と企業文化の相関は強い。最も歴史が長いアンドエスティHDではどうか?
河南悠アンドエスティHD人事部長(以下、河南):1953年創業の歴史の長い会社ではあるが、今も変わらず、創業時から大切にしていた精神が引き継がれている。その精神は、「店頭起点・現場起点」「ワクワク」「チャレンジ」といったキーワードで表現できる。たとえば、経営陣に人事施策を提案すると「店舗にとってプラスになるか」を必ず確認される。単なるスローガンではなく、実際の意思決定にひもづいていることは常日頃実感するところだ。
WWD:シック・ジャパンの従業員数はおよそ100人。全員がキャリアを持つ中途社員だが、どういった文化が醸成されているか。
江目まゆみシック・ジャパン人事本部長(以下、江目):一般的には「カミソリの会社」というイメージが強いと思うが、3年前に後藤秀夫社長が就任してからは「日本で最も革新的なビューティグルーミングカンパニーを目指す」というビジョンを掲げている。そのビジョンのもと、今はカミソリにとどまらないビューティ領域にかじを切っている。
最近入社した社員の多くはパーパスやビジョンへの共感を理由に入社している。組織全体も新しい方向に向けてマインドセット・バリュー行動をどう変えていくかに注力しており、人事がそれをリードしている。変革の旗揚げから3年ほどたち、エンゲージメントスコアも上がり、われわれが「バリュー」と呼ぶ4つの価値観「People First」「Move Forward」「Listen UP Speak UP」「Own It Together」の浸透も進んでいると感じる。
WWD:ZOZOは「人事」を「人自」と称する点など、ユニークなカルチャーが垣間見える。
矢野晶也ZOZO人自本部長(以下、矢野):創業時から「言葉」へのこだわりが強く、たとえば「仕事」を「仕えること」ではなく「自然なこと」として捉え、「自事(しごと)」と表現してきた。人事も「人事ではなく、相手の事も自分の事のように思う営み」として、「人自」としている。
また、ベンチャー精神を大切にしており、「ソウゾウのナナメウエ」「日々進歩」「愛」という3つを“ゾゾらしさ”としている。2019年に経営者交代があり創業者が退いた際も、「企業文化は社員がつくるもの」という前提に立ち、経営層と議論を重ねてもともと根付いていたカルチャーを“ゾゾらしさ”として言語化した。共通言語を置くことで、行動や判断にブレが出ないようにしている。
その哲学は制度設計にも反映されている。21年にサービスの運用や技術開発を担うZOZOテクノロジーズのテクノロジー研究開発以外の全部門をZOZOに集約し、23年に人事評価制度も一本化した。評価制度は全社共通のものを持ちながらも、業務内容に応じてアレンジ可能な“余白”を残し、仕組みにする部分と裁量・遊びのバランスを取れるようにしている。さらに評価軸には「ソウゾウのナナメウエ」「日々進歩」「愛」といった要素を組み込み、結果だけでなくプロセスや姿勢も重視。会社として何を大切にするかを制度にも落とし込み、採用する人材に求める特性や組織文化の形成につなげている。
エンゲージメントスコアは
「取るだけでは意味がない」
WWD:シック・ジャパンでは「エンゲージメントが大きく上がった」と話していたが、具体的にどのような施策を実施したのか?
江目:私が入社する前、人事意識調査のグローバルサーベイでのエンゲージメントスコアは55だったが、この3年で86に上がった。それに大きく寄与したと考えているのが「エンゲージメント・アンバサダー制度」。各部門から1人ずつ選出し、現場の社員が自らエンゲージメント施策を考えてリードしてもらう仕組みだ。多くの会社ではリーダーやマネジャーを中心に進めているが、それだと社員が“自分ごと”として捉えにくい。エンゲージメントは社員自身がつくっていくものだと考え、この制度を導入した。
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