ナイキが再び、“限界のその先”に挑む。6月26日(日本時間27日未明)、パリのシャルレティ競技場で行われる“ブレーキング4(Breaking4)”は、史上初の女子選手による1マイル走(約1.6キロメートル)4分切りを目指す、ナイキによるプロジェクトだ。2017年に開催された“ブレーキング2”が、厚底カーボンシューズを生み出してランニング市場に革命を起こしたように、今回もナイキは新たな物語とテクノロジーを用意した。主人公はケニア出身の陸上中距離選手、フェイス・キピエゴン(Faith Kipyegon)。18年に娘を出産している彼女の挑戦には、性別や妊娠を理由に限界を決められてきた女性アスリート像を覆すメッセージが込められている。同時に、近年業績が停滞しているナイキにおいて、ウィメンズ事業をけん引するという販売戦略上の重責も期待されている。
キピエゴン選手は1500メートル走で五輪3連覇を果たし、世界選手権も幾度も制している。現在の女子1マイル走の世界記録(4分7秒64)も、23年に彼女が出したものだ。ナイキとは16年間にわたってパートナーシップを結んでいる。
エリウド・キプチョゲ(Eliud Kipchoge)選手がフルマラソン2時間切りに挑んだ“ブレーキング2”は、アスリートの力×ナイキが結集したテクノロジーで、人類が能力の限界を突破するという物語だった。「Just Do It」に象徴されるように、不可能への挑戦はナイキが創業以来掲げてきたメッセージ。“ブレーキング4”ではそれに加えて、キピエゴン選手が女性であり、母であるというストーリーが否応なしに載ってくる。“ブレーキング4”は、「女の子がそんなことをするなんて」「母親なんだから」と抑え込まれてきたアスリートを含む全ての女性たちの足かせを外し、女性たちに多様な生き方を発信しインスパイアするという、時代性に沿った物語を担っている。
ナイキは“ブレーキング2”によって、ランニング業界に激震をもたらした。同社の厚底カーボンプレート入りシューズを履いて成績を塗り替える選手が続出。一方で、「公平性を欠く」「テクノロジーによるドーピングではないか」といったスポーツ倫理にも関わる議論が巻き起こり、競技の本質を問い直す事態に発展した。ナイキの技術革新が、それだけ常識外ですさまじかったということの証明でもある。こうした論争を受けて、世界陸連は20年に初めてシューズ規定を明文化。「ソールの厚さは40ミリ以内、搭載するカーボンプレートは1枚、4カ月以上前に発売された市販モデルであること」など、現在の国際大会におけるルールが整備された。
「男性中心で、女性分野が弱い」
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