ナイキ(NIKE)は、ケニア出身の陸上中距離選手フェイス・キピエゴン(Faith Kipyegon)と、女性として初の1マイル(約1.6キロメートル)走4分切りを目指すプロジェクト“ブレーキング4(Breaking4)”を立ち上げた。6月26日にパリの競技場スタッド・シャルレティで記録に挑む。キピエゴン選手は、2016年のリオ、21年の東京、24年のパリと女子1500メートルでオリンピック3連覇を果たしており、18年に娘を出産した母親でもある。「この挑戦を通じて、女性たちに『夢を持ち、その夢を実現しよう』と伝えたい」とコメントしている。
女子の1マイル走の世界記録は、キピエゴン選手自身が23年に樹立した4分07秒64。1マイル走は「北米において常にアスリートの運動能力を測る普遍的な指標と認識され、陸上競技、若い人の体力テストやさまざまなスポーツのトレーニングに用いられてきた」(発表資料から)という。フィニッシュラインでは、キピエゴン選手の娘が彼女を迎える予定。
“ブレーキング4”に先立ち、ナイキは17年に、ケニア出身のエリウド・キプチョゲ(Eliud Kipchoge)選手らと、男子マラソンで2時間切りを目指すプロジェクト“ブレーキング2”を実施している。惜しくも2時間切りはならなかったが、この挑戦をテクノロジー面で支えたカーボンプレート入りの厚底シューズ“ナイキ ズーム ヴェイパーフライ4%”は、それまで薄底が当たり前だったランニングシューズにゲームチェンジを引き起こした。各社がナイキに追いつけ追い越せとランニングシューズ開発競争が激化。その結果、厚底カーボン入りシューズは、今や市民ランナーにとっても当たり前の存在になった。
「他のブランドにはなし得ない
イノベーションを提供」
“ブレーキング4”においても、ナイキは同様のゲームチェンジを目指している。エリオット・ヒル(Elliott Hill)ナイキ社長兼CEOは“ブレーキング4”について、「他のブランドではなし得ないレベルの専門性、イノベーション、サポート体制を提供する。当社のイノベーターたちは、先端のスポーツ科学、画期的なフットウエア、およびアパレルのイノベーションを融合させて、キピエゴン選手と共に彼女の歴史的ゴール達成をサポートし、壁を破っていく」とコメント。近年のナイキは、開発競争で他社に背中を追われる中、「定番品のアップデートばかりを繰り返し販売し、イノベーションが不足している」といった批判に晒されてきた。業績も直近の24年12月〜25年2月期までで、4四半期連続減収と苦しい状況にある。“ブレーキング4”によって、ナイキも壁を打ち破ることを目指す。
同時に、女性アスリートのエンパワーメントにもナイキは近年継続して力を注いでいる。男性アスリートに比べて競技を続けること自体にもハードルがある女性を支援するために、例えば日本では、プロ野球の読売ジャイアンツと協同で、女子のスポーツ活動に対する助成をスタートし、現在助成対象の団体を募っている。ナイキはメンズカテゴリーに比べてウィメンズカテゴリーが弱く、そのパイを「ルルレモン(LULULEMON)」などに奪われているといった指摘も多い。女性アスリートのエンパワーメントは、ウィメンズカテゴリー強化の一環でもある。